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「ことしがいろいろ実り年だってのは知ってるよ」
別荘の方のご近所さんがいろいろ下さってるからさ、「得体の知れねえもんを」
慇懃に辞そうとしても無理と悟ったらしい隼人の言葉が何とも正直になった。
竜馬が公園の立木の枝に手をのばして「食うか、うまいぞ?」と差し出したのは、オレンジ色のサクランボのような見た目をしていたが、その外皮はすっかり乾いており、あろうことかごつごつとしたイボを吹き出していたので。
「ヤマボウシだよ、初夏に白い花が沢山咲いてて、いい木だ、って言ったらお前も同じ意見だったじゃないか」
てっきりお前も秋の収穫を楽しみにしてるのかと思ったのに
「その時の気持ちのいい咲きっぷりにだよ。そんな弁慶達と一緒くたにするんじゃねえや」
ちゃんと旨いのに、そう言いつつ、廃タイヤを縦半分まで地中に埋めた、70年代にはありふれた簡易アスレチックの端に腰掛けて竜馬はその実の外皮をむいむいと剝いていく。現れた少し薄い色の果肉はとても柔らかいらしいのを唇をすぼめてちゅっと吸った。その横顔に隼人の顔が穏やかになったのを悟ったように、竜馬はまたきらきらした顔でイボだらけのサクランボを差し出そうとするので
「待ったどんな味だ」
「うーん、甘さの種類は柿かバナ
―――」
「やっぱいらねえ」
にべもない隼人が、この頃の戴きものは『柿かバナナみたいに甘い』ってぇ、ふにゃふにゃに熟したのが「食べごろですよ」って来るんだと憮然という。なんとか食べられるようになったものには「キウイフルーツ」なる毛むくじゃらの果実がせいぜいだという。あとは「フェジョア」に柘榴。
「鬼子母神かお前は」
人肉の代わりに母神に与えられた、ガーネット色の果実。彼の色であり「彼」の色でもあるが
「知らねえよぅ」
「バナナよりもっと真っ黒に熟すのが食べごろだからって、見るからにおっそろしいの届けて下さる老婦人がおっかねえ」から別荘を見にはいかないのだと隼人は言う。なんて言ったかなあ、バナナに出て来るあの黒い点々のことを有難がって呼ぶやつ
「ああそうそう、スイートスポット」
部の合宿で夜に聞かされた猥談と同じ単語が夕暮れの公園でいきなり飛び出したから、竜馬がヤマボウシの種を吹き出し、その後ひと悶着あったのは、別の話。
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