akinoshiroihana
2025-08-15 22:30:10
11438文字
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名刺置き場12



●ゲッターx当時の歌や懐メロそのn、『炭坑節』
東映~チェンゲ竜隼
多分竜馬は別府温泉に行った幼少時に覚えて来ましたhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=23719095
二番歌詞ネタをやろうとしたらウェットになりすぎましたので、別ネタ書けたらこれはどんどん下げます
https://www.uta-net.com/song/1602/

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夜、竜馬が不意に、月が出たのを喜ぶひとふしを、機嫌の良い酔漢のようにふらりふわりと歌ったから、
ああ、と隼人も空を仰いだ。都会から来る観光客には贅沢で悪いが、この地でさえ夏の夜空はガスが多くて見られたものじゃない、月ぐらいしか。

作りがやや古い早乙女邸は、風呂が屋根のある廊下で繋がった離れにある。研究所のシャワーブースを使わずこちらからのんびり出てみれば、程近いところに聳える研究所には、新たなダクトができて外からみても張り出しができたから『さぞやお月さん煙たかろ』ではあるかもしれない。

「なんだい炭鉱節かい?」
いまだしとりとした洗い髪から湯の匂いのする隼人が聞けば、故郷の九州で湯治に行った先でよく聞いたのだという、なるほど風呂でいい気分になっても歌いたくなりそうだ。
良い声の竜馬であるから、風呂で歌いたかったんじゃないのかいと聞けば、いや俺は、声が大きすぎて静かに入れ坊主と親爺さん達に言われたことがさ、と彼は頬を掻いた。思い出しているらしい、幼い頃のことだろうか。
ああこいつの声量ならさぞかし、と納得しつつも
「いいんだぜ歌ってくれても、リョウさんよ」
それくらいなら頑張ってるんじゃねえかな俺達
「歌いなよ、歌いたい歌を。」
お前の声嫌いじゃないから、と言えた彼らは笑えるほどの蜜月だったのだろう、ときが過ぎてみれば。

   ***

夜半、赤いマフラーを巻き直した竜馬は、こちらに背を向けたままの相手を目覚めさせまいと少し躊躇ったあと、毛布を肩まで引き上げてやってから部屋のドアを開ける。
『塔』の廊下には窓から差し入る月光に浮かび上がる、清掃されつつも経年の劣化とうすら汚れと傷と修復の跡がある。だがその主ほどには元の整った、こころ安堵させる佇まいを想像するのが困難ではない、いやあいつのあれだって俺はと彼は思い、しかし思うことをやめ
「月ぃがぁー……
誰が歌おうと機嫌の良さそうに響くその歌を口ずさむ、というほどでもなく、静かに、宥めるかのように。

サノヨイヨイ、まで歌ったところでマフラーを巻き切りドアを閉めて行こうとした彼に、追いすがる声があった。歌というにはおかしな具合に使いすぎた後な上、覚醒直後の喉から絞り出すことばのきれはし。
「あ……たァ、そン、で、言うんなら」
歌の続きだ。楽しげに別れを約束する歌かなんなら躍りの相手、月夜の、宴の。
「馬ぁ鹿、」
今晩くらいはもう寝ろ、寝とけって、
ベッド脇に戻り、彼は身を起こした相手のいくぶん肉の削げて、透けるように白くはなくなった肩に触れる

貴方がその気で言うのなら
思いきります別れます

もとの娘の十八に?
やだね、そいつは俺の方がグズるってもんだ
またお前に恋しちまってきっと大忙しさ

なにも知らない何もしていないあの頃の自分に戻してくれるなら、と無理難題と共に別れを約束する、だから別れることなど出来ないという歌を最後まで歌う前に隼人は寂しそうな笑みのまま、また目をゆるりと閉じてなにもいわなくなった。

離れる余裕もない、理由もない
信じるあてもなく、信じていると言えないままそれでも待ち続けた隼人は、いまも警戒を解けない被食動物の眠りの中にいる
月の下で。
安らぎはまだ来ない。