望月 鏡翠
2025-07-01 01:19:03
23156文字
Public リアタイ
 

シズメ 03

シズメ/三角 麻弓/遊泳期間作品


 怪しげな霊能力者曰く、この学校には人でなかったものが混ざっているのかもしれない。人でないかもしれないものってなんだろう。学校が海に沈んでいるのだから、紛れているのは魚とか。そうでなければ幽霊とかかもしれない。
 一応ちゃんとした人ではあるらしい。
 近くにあるシズメ霊山の管理者の人で、保健室の先生の血縁者。先生と血縁者だから信用できるっていう話ではないかもしれないけど、少なくとも頭がおかしくなってしまったわけではない。一族に霊媒師がいると、親族で集まったときにどんな感じになるんだろうと、気になってしまう。
 彼は、少し屋上で怪しげな口寄せの儀式をやっている。
 麻弓が学校の中に幽霊がいるのかもしれないなと思ったのは、学校の中に幽霊が一人もいなくなっていたからだ。学校というのは、幽霊が多い場所だ。人の思いが集まる場所だからか、たくさんの人生が関わる場所だから、それとも学生時代の悩みをここに落としていくからなのかもしれない。
 学校にいる間は、常にどこかしらに幽霊が見えていた。
 それが今は一人もいない。この場所が特殊だったから、人間じゃないものはついてくることができなかったのかもしれない。
 代わりに体育館にいるときや教室ですれ違ったとき、ふと寒気を感じることがある。
 あれがもしかしたら幽霊なのかもね。
 そう思うことはあったけれど、確信はない。
 教室の窓の向こうには今日も青く、魚が泳いでいる。
 立間 龍之介が窓の外を見つめていた。
「元気?」
 手を振ってみたが、元気ではないかもしれない。妹のことが大好きだから、しばらくは心配していたし、落ち込んでいた。
 数日経って、いろんな人と話して気分も前向きになってきただろうか。
「校内放送聞いてた?」
 二ヶ月は外に出られないとか、学校の中に何かいるとか、にわかには信じがたい話だ。学校が海に沈んでいなかったらきっと、信じなかっただろう。
「幽霊の話?」
「そう」
「いんじゃないか。俺はいて欲しいと思ってる」
 龍之介はたぶん見えていない方の人だ。彼と話していて、街の中や霊園に当たり前にいた幽霊の姿を目で追っていたことはない。
 だけど、見えないからいるわけないと冷笑せずに、いてくれることが麻弓には嬉しかった。たとえ科学的には存在しなくても、そんなものが居たらいいねと思うのは素敵な感情だ。
「ね! いて欲しいよね! 私もいたらワクワクすると思ってたんだ。知らないこといっぱいあった方が楽しいよね」
「それもある。三角らしくていいな。俺は死んだ人がいるかもしれない、と思えるのが嬉しいかな」
 窓の外を見る龍之介の視線は屋上にいる霊媒師のことを思っているのかもしれないし、単に泳いでいる魚に興味があるだけなのかもしれない。麻弓にはわからなかった。
「幽霊、全然見えないんだが三角は見えるか?」
 いつもならここではぐらかす。上手く説明できないから聞き返されても話を広げられないし、相手にはきっとわからない世界のことだから。
 だけど今はこんな状況だ。霊媒師の人があんな風に当たり前だという顔をして堂々としていると、なるほどそんなものでいいのかとある意味で方の力が抜ける。
「実は見える! 幽霊かどうかは確信なかったけど幽霊が本当にいるっていうことならあれはやっぱり幽霊だったんだな〜みたいなのがね」
 いいでしょうとピースしてみる。
「え」
 龍之介が驚いたように言葉を止めた。
「見えるのか、幽霊? 学校の中で?」
 より正確にいうと「普段は見えていた」だ。
 海の中で彼らが何をしているのかまではわからない。元気だといいとは思うけど、死んでいるのだから関係ないのかもしれない。霊媒師に除霊されていないといいけれど、の方が正確だろうか。
「ああ。見えないけど、そうか。幽霊がいるのか。いいな」
「普段だったら変な人だと思われるかもしれないと思って言い出せないけど、今はこんな状況だし、もっと変な人もいるから言っちゃった。鎮さんだっけ、あの人。気になるなら話聞きにいくのもいいかもね」
 変な人なんて言っているのがバレたら怒られそうだから、その前に口止めをしておかないとだけど。
 と麻弓は肩をすくめて付け加えた。