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望月 鏡翠
2025-07-01 01:19:03
23156文字
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リアタイ
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シズメ 03
シズメ/三角 麻弓/遊泳期間作品
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図書館で鳥類図鑑を捲る。ボートで探検に出たときに撮影した鳥と見比べているのだ。海上に飛び出した礼拝堂に止まって休んでいるのを見つけたのだが、この辺りでは見ない鳥だった。見覚えがなかったから思わず撮影して今は図鑑と見比べてにらめっこをしている。
デジカメの小さな画面だと確認ができないので、スマホに写して拡大した。
綺麗に写したつもりだったし何枚も撮ったけれど、止まっている鳥は尾羽の裏や表、それに翼を広げたときの模様がはっきりと見えない。風切羽に入った柄が見えないと細かい種類まではわからないかもしれない。
コチドリの仲間のような気がする。また出会うことができたら、近づけるところまで近づいて、できれば飛ぶ瞬間も撮影して、さらに細かい種類を調べさせてもらおう。
別に知ったところでどうなるというわけでもないのだが、生き物が好きだったし、調べるというのが麻弓にとってはワクワクするイベントだった。
怪しい霊能力者の言葉が正しければ、海の只中で二ヶ月は生活しなければならない。楽しみは少しでも多くないと、きっと生きるのに飽きてしまう。
麻弓は、学校が海に沈んでから観察できるようになった鳥や魚をノートに書き溜めていた。あとで写真を貼り付けるために、スペースを開けてある。
学校だからプリンターもパソコンもあるけれど、すぐに色が落ちてしまうからできればちゃんとした写真印刷をしたかったのだ。
二ヶ月経ったらノートには、一体何種類くらいの生物の記録が溜まっているのだろう。
きっとこの夏は一生に一度の思い出になる。そんな予感がしていた。
一階の窓から見える生き物と、三階から見える生き物を比較するために階段を往復していた麻弓は、屋上に向かう栄心を見つけた。
細長いシルエットのケースを携えている。弓道部の持ち物に似ているが、彼は弓道部ではないから、きっと釣竿だろう。
「栄心くん!」
階段を駆け上がって追いつく。バケツとクーラーボックスを手にしている。
「釣り? 私の一緒に行っていい?」
「ん、いーよ」
釣りについていくのは初めてではない。しかしいつもは横で見ていて記録を取るだけだった。
「私も釣りしてみたいんだけど、時間があるとき教えてもらっていい?」
「ん、いいじゃん。今でもいいよ」
「本当? じゃ、釣竿探してくるからちょっと待ってて!」
海に近い学校だから釣りを趣味にしている人はたくさんいる。学校帰り、家に帰る前に海に行って釣りをしていくのだ。それに自然科学研究部の部室からも、掘り起こしたら見つかるだろう。釣りができないから人にやってもらっているけれど、過去には自分でつって自分で記録していた人もいた。
――
手入れをしていないから、今も使えるかどうかはわからないけれど。
「暇になるかなぁと思ってさ」
二ヶ月も時間があったら、初めて挑戦してみることでもできるようになるんじゃないだろうか。虫が得意だから生き餌にも抵抗がない。今のところ思い浮かぶ強みはそれくらいだけど、長らく挑戦できないでいた未知のことに腰を据えて取り組むチャンスだ。
「確かに海しかないもんな」
どこまでも続く青い海を見て、栄心は苦笑いをする。
餌となる虫を取ることができないから、掬った魚の切り身なんかを餌として使うらしい。
「二ヶ月もあるんだし、できるだけ楽しく過ごしたいよね」
「そうそう。今まで作ってもらう専門だったけど、調理もしてみたいんだ。お店で食べたお料理美味しかったし」
生肉は学校の備蓄にないだろうから、唐揚げなんて食べられるのは二ヶ月後になるのだろう。そう思うと少し心細く成ってきてしまうから、美味しい魚料理を思い出し、どれを作ってみたいのか考えることで気を紛らわせることにした。
◇◆◇
魚を取る方法は色々ある。
簡単なものなら、ペットボトルを使った罠だっていい。頭の部分を切り取ってひっくり返して本体にはめる。そうすると曲面に沿って中に入ることはできるが、出てくることができなくなるというものだ。
川でやってもサワガニくらいしか取れないけど、この海でやったら美味しいエビくらいは獲れるかもしれない。
ペットボトルロケットを作るときも思ったけど、飲み物を入れるために使われて大量流通している容器って実はものすごく便利だ。
釣りで獲れる魚と種類が違うだろうから、何個か海に沈めておこう。食べられないものが入っても、次の釣りで使えるかもだ。
餌の用意の仕方を簡単に教えてもらって、あとは釣竿の振り方。無闇に振るうと周りの人に釣り針が引っかかって危ない。釣り針が刺さると危ないという知識は、釣りをしたことがない麻弓でも知っていた。海辺を探索するときの危険の一つだ。
竿は長いから、見た目よりは重たいような気がするし、この強度を考えたら思ったより軽いと言っていいのかもしれない。水面を騒がしくしたので、練習のときと場所をずらしてから、釣りを開始した。
釣竿の先端を見て、揺れたら魚が餌を啄みに来ている。
食いついたあと、釣り針にちゃんとかかっているのかどうかとか、逃げられないように釣り上げるには急いでただリールを回すだけではいけないとか、コツとかい色々あるらしいのだけど、ひとまずは食いついたら引っ張ってみるという簡単なところから。
「掛かった?」
「まだだよ」
栄心はのんびりと構えている。
待ち構えて動きを見張っているから、少しの動きでも反応したように見えていますのだ。風が吹いたり、波が揺れたり。そういうのが、魚がかかったときの揺れに見えてしまうのだ。
海ってじっくりみるとずっと動いている。川の方がずっと静かだ。
初めの三十分くらいをずっと緊張していたあと、麻弓もようやく力を抜くことを覚えた。海の観察をしながら、のんびりと構えることにした。
外に連絡がつかないからわかりきっていたが、Siz Micは使えるけれどインターネットには繋がらない。知らない魚を見つけたらどうすればよかったというのだろう。
「レシピとか図書館で調べないとだね」
「そうだね」
居酒屋で出していた料理は、きっとキッチンで店の手伝いをしていた栄心が覚えているだろう。
「あ、そういえばさ、去年試食でプリン作ってたじゃん。あれって今学校にある材料でも作れるのかな」
食べ物はないとして、日常の楽しみは自分で見つけなければいけない。甘いものが恋しくなる。
「あ、あー、そうだね。お店みたいなものは無理だけど、卵と牛乳があればなんとか」
それか卵とゼラチンかなと呟きながら、首を傾げている。
「ゼラチンなら、フグの皮とか!」
「生臭いんじゃない?」
「そうかも」
他にプルプルしたもの。例えば寒天とか。天草を茹でて干して、固めて、乾かして。いや、だめだ。時間がかかりすぎる。
「じゃあ
……
」
「来てる来てる!」
栄心が釣竿を指さす。
先端がしなっている。
「え、っと。どこ持てばいいんだっけ」
糸が引っ張られているからリールがくるくると回っている。
「一度貸して。網、準備して」
焦ってどこを持てばいいのかも忘れた麻弓は、一度栄心に任せた。
釣り上げた魚は、スーパーに売っているものと違って見える。
「これなんだろう」
栄心も知らない魚らしい。
「調べてみるね。魚の種類を特定するのは得意だよ」
麻弓は腕まくりをしたが、まだ釣りの途中だ。今度は栄心の竿が揺れていた。
◇◆◇
水の入ったバケツはずっしりと重たい。屋上に直通のエレベーターがないことを恨んだ。
「やっぱ、屋上に本持ってきた方が良かったんじゃない?」
栄心もバケツは持ってくれているが、幸い釣れた魚が多かったのでいくつかに分けられていた。彼の手にしている方は、すでに種類がわかって食べられることがはっきりしている方の魚が入っている。麻弓が手にしているのは未分類の魚たちが入っていて、これからそれがなんなのか調べなければならない。
「でも、図書館の本が濡れちゃったらまずいしぃ」
食べない魚は可哀想だから海に帰してあげたい。とすると海水につけたまま本を広げられる場所まで移動しなければならない。海水に浸したままの移動はどうやったって重たくなる。
海水とともに汲み上げられた魚たちは、狭そうにバケツの中で泳いでいた。あまり長く置いておいても弱ってしまうから、手早くやる必要がある。
一度全てを家庭科室に持ち込ませてもらった。
麻弓が部室に行っている間、栄心は図書館でレシピが載っていそうな本を探してきてくれた。それに家庭科室にも、手芸料理部が使っていた料理本や授業で使っている教本がいくつか残っている。海が近い地域だから教材として使うものも、やはり海鮮料理が多いのだ。
麻弓が部室から持ってきたのは、観察用の平たいプラスチックの水槽と近隣の魚を纏めた本を持ってきていた。近海の魚や生き物に関しては、生き物の観察をよくする自然科学研究部の方が資料が揃っている。
図書館から持ってきた本は、隣の本と接していた部分だけ印刷が鮮明で他のところが色褪せている。きっと長い間置いたままになっていたのだろう。
「まずはこのすごいやつから」
最初に調べるのはぬるぬるしてしまって手をつけられなかった魚だ。捕まえた途端に粘液を出し始めたから、バケツに入れて置けなくてビニール袋に隔離されている。ぬるぬるしすぎて、ヌタウナギかと思った。
見た目が特徴的な魚は、種類を特定しやすい。見た目がカワハギに似ているから、ハギの仲間から見ていく。確か猛毒のウマズラハギも似たような見た目をしているはずだから気をつけないといけない。毒のある生き物を纏めた本をみれば、紛らわしく誤食されやすい生き物が乗っている。
「これは食べられる
……
ぽい」
厚手のシリコンの手袋は、本来の用途は鍋つかみだ。棘のある魚もいるので、ひとまず魚を持ち上げるように借りている。麻弓は一度水槽に入れた魚を、持ち上げてステンレスの作業台の上に載せる。
「ギマだって。棘で立つ」
胸の下に硬い棘があり置物のように真っ直ぐたった。
「立ったな」
「刺さると痛いけど毒はないって。でも他の魚に傷がつくかも」
「うん、じゃ隔離は継続で。食べ方は何か書いてあった?」
「だいたいカワハギみたいな感じでいいらしい」
「オッケー」
食べられるゾーンに移動していった。
「次は〜、この人!」
人ではないが、魚を捕まえて観察しやすいように、水槽に入ってもらう。
「これは〜サンノジ
……
かな。たぶん。お尻に模様あるし。別名ニザダイだって」
「タイって作ってことは、白身魚か」
「そうみたい。だいたいおんなじ使い方で良さそう」
食べられなさそうな魚と、小魚を海に帰したあと、家庭科室に戻る。今回は幸い毒のある魚はいなさそうだったので、鍋つかみは外した。指が使えないと作業がしにくい。
三角巾で髪の毛を纏め、手を洗い包丁とまな板を借りる。
「よし、先生。ご指導お願いします」
釣りのあとは、魚を調理するところまで覚えるのが麻弓の目標だった。海に水没している二ヶ月できっと暇だろうし、いいとこまで行くんじゃないだろうか。
先生と呼ばれた栄心は照れくさそうにしたあと、麻弓の冗談に乗るように真面目な顔を作った。
「じゃ、俺はこのこのヌメヌメからやっていくから、麻弓はそっち」
「はーい」
調理方法をよく知る魚の方が麻弓の担当だ。
鱗と内臓を取り除き、身だけ骨から外す。それだけのことだが、実際にやってみると緊張する。
刃が骨に引っかかり、真っ直ぐ入らない。身がびりびりに破れてしまう。
「う〜ん、解剖ならやったことがあるんだけどな」
「解剖と魚捌くのって結構違う?」
初めて触る魚を手際よく捌きながら、栄心は上手くいかないところに手を貸してくれた。魚が初めからそう別れるように切れ込みが入っていたんじゃないかというくらいに、サクサク切れていく。
「解剖って内臓を観察するから、身はあんまり気にしないというか、どうなってもいいんだよね。でも捌くのって、そっちの方が大事だから」
「内臓とかは捨てちゃうもんな。
……
と、これは内臓を取るだけでいいよ」
「それならできる! これは何ていう魚なの?」
「イシモチって呼んでるけど、正式名称は別にあるのかも。塩焼きにするだけでもいけるよ」
「楽しみ〜!」
半分は塩焼きにして、残りは作ってから時間が経っても美味しく食べられる煮付けにする。生姜なんてどうして備蓄にあったんだろうか。理由はわからなかったが、ともかくあったし使ってもいいということだから、ありがたく使わせてもらった。
魚焼きグリルに水を張って、イシモチを焼き始める。こちらの火が通るよりも先に、栄心が一皿完成させた。
「おしゃれなお刺身だ〜」
「カルパッチョね。肝も美味しいらしいからつけといた」
「おいしそう!」
お店で出すメニューのようだ。実際にお店で出しているものなのだから、味は折り紙つきだ。
「でもこんなにあったら食べ切れないかもね」
せっかくおいしそうな料理が揃っているのだから、いろんな人に食べて欲しい。
「せっかくだからさ、みんな呼んで食べてもらおうよ。Siz Micに投稿したら、誰か来てくれるかな」
「ん、来てくれるんじゃない?」
煮付けに取り掛かっている。気がつけば先生に任せきりだ。
麻弓も慌てて煮付けの鍋に向かった。お湯を沸かして、一度魚に通して、残った鱗と臭み取りをするらしい。
「味付けは好みで濃くしたり薄くしたりして。今回はうちのレシピね」
「は〜い」
あとは落とし蓋をして、煮込めばいい。捌くところさえちゃんとできれば、あとは思ったより簡単だ。
「あ!」
いきなり声を上げた麻弓に栄心が驚いて飛び退く。
「なに?」
「お米炊いとけばよかった!」
こんなにおかずがたくさんあったら、白いご飯が恋しくなるに決まってる。
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