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望月 鏡翠
2025-07-01 01:19:03
23156文字
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リアタイ
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シズメ 03
シズメ/三角 麻弓/遊泳期間作品
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陸で聞くよりも雨の音が大きく聞こえている。
雨が水面に波紋を作っているところは見たことがあるけれど、それを海の下から見上げたのは初めてだった。大粒の雨が水面を打ち付けている。温かい上に、水蒸気を生み出す水もたっぷりとあるから、上空にたっぷりと雨が溜まっていたのだろう。
ざわざわと海を波立たせる。
学校を囲む海は、天気がいい日は穏やかで綺麗だけど、天気が悪いときは、流石に少し怖い。心細くなる。
波が高くなって、学校が浸水したらどうしよう。
ボートが流されてしまったら?
屋上にいた誰かが流されてしまったら、誰が助けてくれるんだろう。
建物の強度は足りているだろうか。
麻弓は考えても仕方がないことを頭から追い出し、布団の中で目を閉じた。
翌朝、雨雲は過ぎ去っていた。
屋上に出ると嘘のように空が青い。しかし屋上には昨晩の雨の気配が残っていた。
救命ボートは全て、流されないように屋上に引き上げてあった。
一人で海に戻すのは骨が折れそうだ。今日も探検に行きたかったのだが、簡単にはいかないらしい。
飲み物で重たいクーラーボックスを、一度置く。中のものを冷やすためのものだが、濡れたら困るのものまとめて入れるにも役に立っている。
ボートは麻弓の力で持ち上げられるだろうか。
波で打ち上げられた魚が、屋上の水たまりの中でピチピチと跳ねている。このままだと昼になることには干物になってしまいそうだ。
本来はプールのゴミを救う網で拾い上げると、海に返す。ぐったりしているが、運が良ければ生き延びるだろう。
ドアが開く音がして、屋上に誰か来たことがわかった。
塔屋の影から顔を覗かせると、背の高い男子生徒の後ろ姿がある。
「あ、禄先輩だ」
陸上部の榎本 禄だ。
屋上まで来るエレベーターなんてないから、登り階段だったはずだが、少しも息が切れた様子がない。
「麻弓だ! おはよ」
「おはようございます〜」
手を振ると頭上で網が揺れて、水が顔に落ちてきた。うわ、と声が出る。禄の視線が、手にした網に吸い寄せられた。
「何してたの?」
「魚の救出」
まだ屋上ではぴちぴちとしている。
「え、いいなぁ。俺も手伝うよ」
「あ、でも魚は毒を持っていることがあるから、直接触らないでくださいね」
「わかった」
バケツを持ってきて、魚の回収はスピードアップした。
「この後ボートで探検に行こうと思うんですけど、先輩も来てくれませんか?」
「え、いいの? いく」
「やったー!」
陸上部のスタミナが側にあるのは心強かった。
雨の後の海はいつもより濁って見える。確かこういうときは、魚が釣れるのではなかっただろうか。陸に戻って体力が残っていたら、釣りに出てみよう。
いつもと違う海にはいつもと違う魚が泳ぎ出す。あとは確か水が濁っている分、漁具が目に見えにくくなるから魚がかかりやすくなるのだという。今は水面の上から眺めているだけだ。
ボートを漕ぐのは禄に任せていた。一回のストロークが長い。力が強いから、スイスイと船が滑っていく。今回の目的地は、遠くに見えている小島だ。
「今回は生き物探し?」
陽が照っているが雨の後だし、まだ早朝だから涼しい。
「今日は、あのお昼の放送で言ってた古文書を探してみようかなって」
今の状況を解き明かすヒントになりそうな記録。しかしそんな切実な目的ではなく、単純に宝探しとしてやってみたかったのだ。
図書館でも該当する記録を探してはみたが、郷土資料はあっても放送で紹介されていたような記録は見つからなかった。
「宝探しだ!」
禄がそれを楽しんでくれるタイプの人で助かった。
不安になる話だと暗い顔をする生徒もいたから、もし彼が同じタイプなら付き合わせるのは悪い。宝探しと言ってくれるのなら、きっと大丈夫だ。
「そうです」
シズメ霊山とそこに付随する宗教施設は、この地域に昔からある施設だ。本当は鎮という霊能力者の家を漁って、不思議な古文書とかを持っていないか探してみたかったのだが、今は全てが水の下だろう。あるいは自宅は市街地の方にあって、この場所から消失しているかもしれない。
だが、探してみる価値はあるはずだ。
今は小島のようになっている山頂に上陸し、ボートが流されてしまわないように引き上げる。ここで戻る手段がなくなったら、助けが来てくれるまで心細い思いをすることになる。
ホイッスルを鳴らすよりも、Siz Micに投稿した方が早いだろうか。
「禄先輩が漕ぐとめちゃくちゃ早いですね!」
感嘆しながらまだ濡れている草地に足を踏み入れる。
「ふふん。帰りも任せて」
禄が自慢げに胸を張った。
「ほんっとに助かりました。はい、これお水です」
体を動かしたあとには水分補給をしっかりと。
クーラーボックスに入れておいたから、まだ十分に冷えている。ついでにチョコレートも一粒添えた。チョコレートが溶けずに食べられるのは、クーラーボックスの恩恵だ。
いざというときの備えだから、ボートの中からクーラーボックスも引っ張り出して、草地に下ろした。現実と同じかわからないが、干満の時間帯は調べてある。水につからない場所にひとまずおいておいた。
陸地ならバッタや羽虫が飛び回りそうだが、今はなぜかヤドカリやフナムシらしきものが、草の間を走っていく。
塩に浸かったら、普通の植物は枯れてしまう。もう二週間近く経つから、流石にまだ影響が出ていないだけだということもないだろう。水を吸って、呼吸をし、光合成をしているはずだ。
本当にこの現象は、現実とは切り離されて存在しているのだろう。
「ここが本拠地です」
クーラーボックスとボートの位置を指す。
「何か見つけたらここに集合!」
禄も頷いて、草地に走り出した。と言っても、島はさほど大きくない。声を出せば聞こえるだろう。
草を踏み分けて上を目指す。一旦一番高いところから見回してみようと思ったのだ。
山頂には霊山の名に相応しく、祠がある。
外観を撮影。
特に記憶にある祠と変わったところがあるようには思えない。
しかし、周りを見て回ると、濡れた紙が張り付いていた。どこかから飛んできて、濡れて祠の壁に張り付いたという佇まいだ。幸い墨は滲んでいない。
写真を撮影してみた。古い草書体は全然解読できない。もしかすると裏表逆で裏側を見ているのかもしれない。
「もしかして、古文書?」
劣化した古い紙だ。
触れる前に、禄を呼んだ。
「せんぱーい!」
大声を出すと、陸上部の脚力で走ってきた。
「宝物あった?」
「これ、かなり宝物じゃないですか」
古びた紙を指差す。
「ほんとだ。古文書!?」
「読めるといいんですけど」
そっと摘んで剥がせないか試してみる。写真はとったが、張り付いたままだと読みにくい。しかし、古い紙である上に濡れているせいで、摘んだ瞬間に紙がボロボロと崩れた。
「あ、ああ!」
「麻弓、頑張って!」
「あぁ〜」
洗濯機に入れてしまった紙ごみみたいになってしまった。
今回の宝探しは残念ながら失敗だ。カメラに収めた写真を、持って帰って学校の先生に確認してもらおう。
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