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望月 鏡翠
2025-07-01 01:19:03
23156文字
Public
リアタイ
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シズメ 03
シズメ/三角 麻弓/遊泳期間作品
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修学旅行に行けなかったのは残念だけど、全校生徒みんなでお泊まりなんて、なかなかできる経験ではない。麻弓はそのことにワクワクしていた。
同じ班や、同じクラス、同じ部活。あるいは友達。
そういう人たちと隣に寝ることはあっても、全くクラスも学年も違う人と隣同志になることなんて、学校生活を通じて初めてだ。
体育館に並んだ布団の中から、自分が寝る場所を探す。早い者勝ちというほど野蛮ではないけれど、やはり端っこの方が人気だ。
のんびり荷物を下ろす場所を探していると、同じくのんびりと寝床を探している家入先輩と同じ場所に立っていた。
「隣いいですか」
「いいんじゃないでしょうか。誰の荷物も置いていないみたいですし」
「じゃ、お隣〜」
そこを自分の場所と定めたら、早速荷物を広げる。カメラを持っていらないものは全て置いていく。
「二ヶ月くらいって言ってましたね」
放送の内容を思い返す。
「そうですね。案外長い」
「サーティワンの今月のフレーバー食べられないってことかぁ」
何味があったのだろうかとチェックしようと思ったが、インターネットがつながっていなかった。残念だったような、知ってしまえば食べられなかったことを後悔しただろうから、知ることすらなくて正解だったのか。
「それは確かに残念です」
甘いものが好きな家入先輩も、残念そうな顔をしている。備蓄の食料にお菓子はないだろう。誰かがこっそりと冷凍庫にしまっていてくれたりしないだろうか。
まだ冷房の風が行き届かない、人が過密の体育館は暑かった。
◇◆◇
人の声や気配が気になる神経質な性格をしていなくてよかったと、麻弓は心のそこから思った。一人っ子のはずなのに、この大雑把さはどこで培ってきたものなのだろう。
夜が開ける頃から、誰かが予定したものなのか止め忘れただけなのか、あちこちでアラームが鳴っていた。一番早いアラームは普段部活で早起きしている誰かだろうか。それとも洗濯機を早めに使いたい誰かなのかもしれない。
何人かがのそのそと着替えて、体育館の外に出ていった。ラジオ体操の企画があるらしいから、それに参加しにいったのかもしれない。
麻弓はぼんやりと布団の上で天井を眺めていた。
体育館の天井はどこまでも高い。誰かが高く打ち上げすぎたバレーボールやバスケットボールが、隙間に挟まっている。あれが落ちてくることってあるんだろうか。
ふわふわとした気分で高いところを眺めていると、自分が天井に落ちていくような錯覚を覚える。天井から目を離し、寝返りを打つ。
ボールが二つ。いや、ボールというには、柔い。
(家入先輩って胸大きいんだな)
布団から起き上がり、体育館の中を見まわした。男子の立ち入りが禁止されているわけではない。朝になって部活の道具を取りに来ている人がいたら、ちょっとした事故になる。
「おはようございます」
「おはようございます。先輩セクシーすぎるから服着ましょうよ」
ひとまず毛布を上から被せた。
出かける予定もなく、やることといえば学校内の探索と海の生き物の観察。ジャージのままでもいいんじゃないかな。アイロン持ってきてないから前髪終わってるし。誰か貸してくれないかな。この異常な状況では髪の毛を雑に後ろに括ってうろついていても、誰も気にしないんじゃないかな。
色々考えたあと麻弓は結局着替えたし、髪の毛も直した。アイロンは人から借りた。ありがとう。今度飲み物奢ります。
この世界が終わりになるその日までは、女子高生のプライドを保っていようと決めたのだ。という格好いい理由なんかではなく、単に寝汗をかいたから服を洗いたかったのだ。
洗濯機を回して干す場所を探すところから、一日は始まった。
ボートで海を探検して、日焼けで疲れ切った体を引きずって自分の布団に戻ってくる。明日はアラームがなっても昼まで寝てしまえそうだ。
家入はもう隣に戻ってきていた。
「先輩は今日何してました?」
日には焼けていなさそうだ。
「部室に少し顔を出していました」
先輩は何部だっただろうか。文化系の部活だった気がするから、学校が海に沈んでも部活動に大きな影響はないだろう。
翌日、麻弓は海の生き物の観察に乗り出していた。日焼け止めが最終日まで足りるのかどうか心配だ。
夜、寝る場所に戻ってきたときだけ、今日会ったことを共有する。
「今日は海の生き物を観察してました」
「私は今日はテニスをしていました」
先輩はテニス部だっただろうか。寝ぼけまなこで家入の話を聞いているうちに麻弓は眠りに落ちていた。
◇◆◇
海に沈んだ学校での生活は、意外と穏やかだった。
命を脅かされていなければ、人はこんなものなのかもしれない。今週起こった大きな事件といえば、洗濯物をちゃんと止めておかなかった人の服が海の藻屑になったことくらい。
一階の窓から外を見れば、すぐそこにあるように見えるけれど、実際は水面から十メートル以上離れている。竿を伸ばしたって届かないし、潜るにも素人じゃちょっと厳しい深さだ。
ちゃんと宿泊中の衣服は足りるんだろうか。下着じゃないといいけれど。だって海の中を漂っていて、他人に見られたら恥ずかしい。他人事だったので可哀想だなと思って、自分は気をつけようと心に決めた。
生活習慣がもっと乱れるかと思ったが、インターネットも繋がらないと夜にソシャゲの周回もしない。そのまま日が落ちていきものが見えなくなると眠って、早く寝た分、朝も早起きしてしまう。
隣に寝ている家入も朝は早起きをしていて、麻弓が起きる頃には目を覚ましている。初めはびっくりした薄着も、だいぶ見慣れた。慣れてしまえば目の保養だ。人にはいろんな顔が一面があるらしい。真面目に見えた先輩の意外とだらしないところとか。
しかし、起きたあともずっと着替えていないというのは珍しかった。
朝ごはんを体育館に持ってきてくれる人はいない。備蓄をとりに行かないといけない。運が良ければ料理ができる人が作った美味しいご飯を分けてもらうことができる。お腹が空かないんだろうか。
「どうしたんですか?」
「着替えがなくなりました」
「着替えが?」
一大事だ。麻弓はジャージで寝ているからそのままで歩いてもだらしないくらいで 済まされるけど、家入がそうなったら事件だ。プラジャーまで見えている。
昨日はどうしていたんだろう。
「洗濯の配分を間違えました」
「そういうことあるかもしれないですね」
「昨日の服、着れると思いますか?」
「夏場だからちょっと気分的に嫌かも」
麻弓は枕元の鞄を漁る。もう面倒くさくてほとんど中にしまっていない。自分の領土と決めたところに置きっぱなしだ。
「これ着れます?」
自分のシャツを引っ張り出す。動きやすい格好でいるから。しばらく出番がなかったシャツだ。
「スカートはこれ」
ひとまず、洗濯物が全部おわるまでだ。愛美先輩に押し付けてきた。
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