望月 鏡翠
2025-06-20 12:53:48
13440文字
Public リアタイ
 

シズメ 01

シズメ/三角 麻弓/交流作品


 シズメ高校は海が近い。山にも海にも近いというのは、自然科学研究部にとって理想的な環境だということができる。浜に降りる道はいくつかあり、入江になっている場所と外海に面している場所で、景色と見られる生態系層が少しだけ違う。麻弓が自然科学研究部として活動するのは、砂浜よりももう少し岩がちの場所だ。
 そちらの方が生き物が観察しやすい。
 汗を拭き、そろそろ水分補給でもしようと思って顔を上げると砂浜をシズメの生徒が走っているのが見えた。
 砂浜は何もなくて走りやすいように見えるけれど、足が沈み込むから動きにくい。だから運動部が鍛錬に使っている。
 今日走り込みをしているのは、バスケ部らしい。見覚えのある顔がちらほらと見えた。手を振ってみたが、それに応じているような体力的な余裕は、きっと向こうにはないだろう。
 やがて、体力作りの基礎練習が終わったらしく、規則正しい列が崩れてばらばらと校舎の方に帰って行った。戻る前に走ってくる人がいて、麻弓は手を止めて帽子の鍔を手の甲で押し上げた。
「せんぱ〜い、お疲れ様です」
 田口 遥先輩だ。
「お疲れ。こんなところで何してるの」
「磯の生き物観察です」
 満ち引きで潮溜りに残された小魚や小さなカニ、浅瀬にいるタイプの水生無脊椎動物。地上にいたら絶対に拒否感を抱いたであろう虫なんかも、岩場を歩くとさぁと逃げていく様をみることができる。
 今は麻弓が散々歩き回って臆病な生物は逃げてしまったあとだから、虫みたいな生き物がこの辺りに現れることはないだろう。
 同じ景色を見ようと隣に立ったはずの田口先輩は、磯ではなく麻弓の顔を見上げた。
「みすまゆちゃんバスケいける背だな」
 しみじみと足先から頭のてっぺんまでを眺めている。
「え!? 本当? いけるかもしれない」
 プロに言われると、できるような気がしてくる。実際田口先輩はプロではないのだが、文化部からみた運動部の三年生はその道のプロみたいなものだ。
 文化部には理解できないレベルで、運動が得意な人。
「ダンクとかできるかなぁ」
「練習したらできるできる」
 暇な時間に練習しにいくのもいいかも知れないと、麻弓は俄然やる気になっていた。