望月 鏡翠
2025-06-20 12:53:48
13440文字
Public リアタイ
 

シズメ 01

シズメ/三角 麻弓/交流作品


 ペットボトルが光を浴びてキラキラと光りながら、蒼穹に飛び出していった。
 水飛沫が噴き出して、麻弓は悲鳴をあげた。掛かった水は大した量ではなかったし、ペットボトルに詰められていた水はほぼぬるま湯になっていた。
 きっとすぐに乾くだろう。
 帽子の影から見上げる空が目に痛い。
 ペットボトルを二本切って組み合わせる。幅広のビニールテープでしっかりと密閉をして、空気入れと接続できる発射口と羽を取り付けたら、ペットボトルロケットは完成する。
 道具が揃っていれば小学生でも作ることができる簡単な工作だ。飛ばすだけなら簡単。しかし、その気になればいくらでもこだわることができる。
 中に入れる水の量はどのくらいが適切か。
 翼は大きい方が安定するけど、空気抵抗にならないようにまっすぐとりつけなくてはいけない。
 角度はどのくらいが最適か。
 調べたらきっとすでに誰かが調べて書いてあるであろうことを、自分たちの手で実際にやって調べていくことに意義があるのだ。
 ポンプで空気を送り込み、発射する。長さを確保した手作りのロケットの行方をみんなが見守った。
 発射地点で水を入れたり空気を注いだりする係。
 落下地点で距離を計測する係。
 そして人にぶつからないように、周辺の人払いをして安全を促す係。
 役割を分けてやっているけれど、遠くからロケットを見ているだけの人なんかは暇だから、たまに交代する。
 回収されたペットボトルが戻ってきた。
 水を入れ、ポンプにセットする。
「角度変えてみる?」
 玄間先輩が発射台の角度を確認しながらいう。
「そうですね」
 水の量は最適を見つけたと思う。あとは角度の問題。そしていい具合に風に乗ればもっと距離が伸びる気がする。麻弓は発射台の高さを変えた。分度器で測り直して伝えると、先輩が手元のボードに記録をした。
「そろそろ接着剤の強度が心配だよね」
「確かに。固いんでしたっけ」
「そう。柔軟性がないから圧力かけたときに割れるかも」
 耐水性を持ち、適度な柔軟性と気密性を保ってくれる接着剤が一番いい。そんなものはいくらでもあるのだが、学生の身分で手が届く金額と量かどうかは話が別だ。ロケットの口を固定するためなら、少しでいいのだ。
 今はたまたま部室に残っていた接着剤を使っている。乾くとカチカチに固まってしまうし、防水性が保証されたものでもない。どのくらい持つかわからないものだ。
「ラストチャンスのつもりで気合い入れて飛ばしますか」
 空気入れを押し込む。最初の数回を過ぎると、ポンプが重たくなってくる。インドア派には結構な重労働で、二人で交代しながら限界まで空気を溜めていく。
「いきまーす!」
 校庭で待っている人に手を挙げて合図する。
 再び、ペットボトルロケットが飛び出して行った。
 空が眩しくて、麻弓はその行く末を見失う。
 あ、と誰かが声を出した。
 やばい、と他の誰かの声が続いた。
 ペットボトルが学校の敷地のフェンスを飛び越えていく。
 風向きが良かったのか角度が完璧だったのか、飛びすぎた。
 焦った声はやがて落胆に変わった。
 結局、そのとき飛び出して行ったペットボトルロケットは見つからず、最高記録となりそうだったデータを取ることは叶わなかった。