望月 鏡翠
2025-06-20 12:53:48
13440文字
Public リアタイ
 

シズメ 01

シズメ/三角 麻弓/交流作品


 三角 麻弓は常々、科学の敗北を感じている。
 人に見えないものが見える。きっと霊感というやつがあるのだろう。
 そのことを他人に伝えても理解はされなかったし、原因もわからなかった。そのことで寂しい思いをしたかといえば、そんなことは全然なかった。
 言ったらよくなさそうだなぁと思ったんなら、言わなければいいだけだった。
 映画でよく見るような、死んだときの姿でグロテスクな格好をして現れるから怖いとか、見える人に狙いを定めて襲いかかってくるとか、そんな怖い目にも遭わなかった。
 お互いに見えているだけで、関わらないだけでなんの悪影響もないのならそれは通行人と変わらない。どこから来て、なぜそこにいて、これからどこにいく誰なのか。それがはっきりわかっているのが生きた人間で、由縁がわからないのは幽霊。
 はっきりと存在を認識したり、触れたりはできない。見えているのだけど、なぜだかあまり記憶には残らない。漫画の背景に存在するモブのようなもの。
 幽霊というのは何を調べたって〝非科学的〟な存在と書いてある。オカルトの存在だ。そうでなければ、気のせいかそれを認識してしまう人間の脳か精神に問題がある。あるいは別の現象を幽霊と名付けて、納得しているだけだ。
 しかし、麻弓は自分の正気を疑ったことはない。気のせいだとも、思わない。
 確かにある。だけど認識することも説明することもできない。
 幽霊を一つも説明できない科学は、幽霊という存在に敗北している。
 麻弓が科学に興味を持ったのは、それが理由だった。
 おかしいと思うかもしれない。自分が知りたいことを何も説明してくれないのに、科学を好きになることができるのか、と。
 できた。
 別にこれは試合じゃない。負けてるなぁと思うけど、三点先取されたら負け、なんていうルールはない。
 麻弓は昔、空が青い理由と海が青い理由は同じだと思っていた。だから水平線で、二つは混ざり合っているのだとなんとなく感じていた。実際は違っていて、空と海の間には何キロもの距離が隔たっている。
 でも麻弓が、世界で起こる現象を正しく認識できていないからと言って、空や海が存在しなかったり変質してしまっていたわけではなかった。解き明かされたあとの世界の人と、そうでない世界の人で物の捉え方が違っていただけだ。
 科学はそうやって、神や魔法やオカルトや錬金術を、別の言葉に置き換えてきた。
 今はわからないけれど、これからわかるようになるのかもしれない。
 そしていつかそれが解き明かされるとしたら、それを成すのはきっとそれは見えていない人ではなく、見えている人だ。
 海を見たことがない人は「海の青さと空の青さは同じなんだろうか?」なんて思うことはないのだから。
 だから麻弓は幽霊を説明できない科学のことを、科学の敗北だなと思いながらも嫌ってはいなかった。
 自然科学研究部の活動を心の底から楽しんでいた。
 この発見をした人は、きっと素朴な疑問を胸に抱いていたのだろう。
 葉っぱの葉脈の形の理由だとか、雲ができる理由だとか、魚が水の中で呼吸をできる理由だとか、蛹の中で何が起こっているのだとか、そういう目の前のことに対する疑問。
 それは、麻弓が幽霊をみたときにあれってなんだろうと思うのと、同じ気持ちのような気がするのだ。