望月 鏡翠
2025-06-20 12:53:48
13440文字
Public リアタイ
 

シズメ 01

シズメ/三角 麻弓/交流作品


 シズメ高等学校は生徒の服装にうるさい方ではない。
 入学する前に調べていたわけではなく、地元だったからたまたまそこに入学しただけなんだけど、いいとこ選んだなって思った。
 女子もスラックスでもいいから、冬場だって命が助かってる。
 それでも守るべき形があるっていうのは、わかっている。形が違っているからって、知らないから破ってるわけじゃないってことは、わかってほしい。許される範囲でどれだけ、自分の好きにできるのかという戦いをしているだけだ。
 そう、これは戦い。
 戦いは、情報戦が命。漫画にもそう書いてあった。
 服装指導は抜き打ちでなければ意味がないはずだけど、情報は少し前から伝わっている。
 鞄の内ポケットを探る。ポケットティッシュと印字が全部消えたクタクタのコンビニのレシート、そしてネクタイが入っている。ワイシャツのボタンを一番上まで留めて、ネクタイを締める。
 閉めようとした。
「待って、久しぶりすぎて結び方忘れた!」
 ゆっくりしている時間なんてないというのに。スカートを短くしているのがバレないように、誰かにスラックスも借りてこないといけない。
 オロオロとしながら廊下に飛び出す。こうしている間に生活指導の先生がきたら、観念して席につけと言われるに決まっている。処刑場から少しでも離れて時間稼ぎをしなければ。
 ネクタイを締めてくれる人を探さないとだけど、そんな人を探しているのがみられたら、普段全くつけずに生活しているとわかってしまう。
「ぶつかるよ」
 よそ見をしていた麻弓は、慌てて身を翻してそこに立っていた人影を回避する。廊下に飛び出した麻弓の目の前に、眼鏡の男子が立っていた。
「光成くん! いいところに」
 三井 光成。一組の人だからきっと教室に帰るところだったのだろう。
 問答無用で首にネクタイをかけて捕まえた。
「服装検査があるって! 聞いた?」
「うん。そうみたいだね。早く教室に戻ったほうがいいよ」
「ネクタイ結び方忘れた!」
 突然首にネクタイをかけられても、驚きや戸惑いというのはない。何を考えているのかわからないけど、そういう顔をしているというだけで、怒っているわけではないのだ。困っているときに助けてくれるいいやつだ。
 制服をちゃんと着ているから、ちゃんと結べる人に違いない。
「そうなんだ」
 言いながら首にかけられたネクタイを、そのまま結び始める。察しが良くてありがたい。結び目を作ったあと、緩めて首から抜いて返してくれた。ネクタイを結べる人でも、人に結んで挙げられる人と自分の手元にないとやりにくい人がいるらしい。不思議だなと思うけれど、そもそも自分の首に結ぶときですら、おぼつかない麻弓にはわかるはずのない感覚だ。
「ありがとう! あとでお礼しにいく!」
 麻弓はネクタイを首に掛けて、長さを調整しながら部室棟に走った。まだスラックスの問題が解決していない。ゆっくりお礼をいうのは、服装検査の後になりそうだった。
 学年毎やるだろうから、制服を借りられるのは他のクラスではなく他学年の人しかない。自分と同じくらい背が高い人で他の学年の知り合い。心当たりは部活動くらいしかない。
「頼もう!」
 部室の扉を勢いよく開くと、中にいた人がびっくりとして動きを止めた。玄間 裕一郎先輩だ。HRで教室に戻るところだったらしい。
「道場破り?」
 突然勢いよく飛び込んできた麻弓をみて、首を傾げる。
「いえ、服装検査です」
「三角って風紀委員だっけ」
「スラックス貸してください〜」
 頭を下げ、両手を合わせながらにじり寄る。
「ああ。される方か。二年生今日なんだ」
 顔を上げる。裕一郎先輩と身長は同じくらい。きっとサイズも同じくらいのはずだ。
「お願いします」
「いや、まあいいけどね」
「では、その代わりと言ってはなんですが、私からはこれをお貸しします」
 自分が履いているスカートと交換し、走って教室に戻る。
 スカートは足元が心許なかったと、後に先輩は教えてくれた。