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隼人が、2Hの鉛筆の尻で自分の喉元を搔いている。
何度か繰り返すそれが、無聊を慰める猫みたいだなと思っていれば
「ん、隼人それ虫刺されじゃないか、蚊か」
「まだ早いだろ、五月だぜ」
引き出しから手鏡を出すでもなく、隼人は白い喉を白い指先で撫でた。微かに透けるような透明感ある白の中に、ぽつりとほの赤い色が当人も知らぬ間に灯っているるからアブやハチのしわざじゃなかろうに。
「掻くなら薬をつけておけよ、出動中にパイロットのスーツの下がむずむずするのはたまらないだろ」
ほらベンケイの奴がレガースやマスクの下をボリボリやってる音はマイクが拾っちまってるだろ?ああいう。
「へっそれを言うなら敵さんとしのぎを削ってる真っ最中に『頑張れっ!!』て叫ぶお前さんの顔がサブモニター一杯に映って、顔から滝のように謎の汁たらしてるのは何なんですかね、リョウさんよ」
「
―――汗だよ、死闘のさなかの大汗だよ」
「ゴルゴかよ」
などうそぶくから、こちらもむぅと口をとがらせ、ナースの絵が描かれているメンソレータムの缶を手にじりじりと隼人にせまれば、勉強机から逃げ出した背の高い彼を壁際に追い詰める。少しだけ上にある白いのどぼとけ。
オーケイわかった悪かったよ謝るからやるなら早くしてくれ。ベンケイさんはムサシほどのんびりしてねえから、俺達だけでこうやってるとすぐ難しい顔になるんだ、
寂しがり屋かね、と天井を仰ぎ考える隼人に、それはお前だろう、と苦笑しつつ軟膏を指で掬えば
「ああもう!おまえらそういうイチャイチャばっかしてんじゃねえ!」
廊下を横切りつつ、不機嫌そうな太い声があって、隼人は声に出さず、ほらぁ、と唇の動きだけで嘆いて寄越した。
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祟りかな
そんな単語が漏れたのは、およそそんな言葉が似合わないと思う隼人の薄い唇からだったから、俺は映画『エクソシスト』ばりにぐるぅりと180度振り向く勢いで、居間から三人部屋へ消える隼人のコツコツよく軽く響くのが気持ちいい靴音を追った。
「何かあったの
―――どうした」
後ろ手で閉じかけた扉をとらえれば、すぐ後に続く者がいるとは思わなかったらしい隼人が目を見開く。何かあったのか尋ねようとした先に目についたもので問い方が変わった、隼人の白い喉元には茶色い絆創膏がべったり貼られていたので。
「いや、ベンケイさんがよ、『これ見よがしにテラテラさせねえでくれねえか』って溜息ついてさ」
「え」
「ここの、これ。お前が軟膏塗ってくれた虫刺され」
「うん」
「キスマークだと固く信じちまってて疑わねえんだよ」
虫刺されだぁ?馬鹿野郎、まだ五月だ生物の活動時期も知らねえ奴が
など言って、のしのしとロボの散歩に行ってしまったのだという。
二年生の終わりごろのムサシならたまにもぞもぞと物言いたげにすることがある程度だったのが、ベンケイは一年で最早歯に物着せない。
もうじきムサシの月命日だからさ、あいつの祟りか積る恨みも一緒に来たのかと、と酷いことを言いつつ自分の首に長い指を這わす隼人はどうやら本気でムサシに詫びたい気分にもなったのか、言ってて本気でしんみりしたのか。
取り敢えず早乙女邸の裏の池に、ボウフラが湧いちゃいないか見に行こうと思った
あんなところに痕を付けやしないんだから、おれは。
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