akinoshiroihana
2025-06-05 21:49:10
14405文字
Public
 

名刺置き場11





●ベン&ジェリーズアイスクリーム(食べられずに終わる)
free palestineネタです

「なあ、やっぱり帰ろうよう」
武蔵の不安げな声が途絶える気配はない
「何処へだい、どうやって」
「燃料がもたなくて落っこちそうだから住宅地じゃない広いところに降りたんじゃないか、ばか……いや強引に降りたんだけど」
「ソ連かどこかの亡命機みたいに」
「ゲットマシンに分かれず、こっちがこの国で勝手に防衛戦やってる巨大でいかにも管轄外な人型ロボットの恰好のままでな」

せめて横田じゃなく返還が進んでる府中にと早乙女博士のギリギリ判断さ、大急ぎで総理にお電話してくれるってよ。あとは18歳以下の俺達しか乗ってません、全員子供なんです、ていうところに賭けようや、とは投げやりな短い返事をやめた隼人だった。

1970年代の米軍基地内にやむなく緊急着陸したゲッターは、後年の仮想敵国戦闘機緊急着陸程の騒ぎにはならず(なにしろ日々飛んでいる)その際ほどの厳密な、米国のものであるその地に足を下ろすことを許さずという対応でもなかった。上空での死闘の後でも広大な横田ラプコンを博士の指示で迂回したせいか、パイロットスーツの代わりに日本古来のマーシャルアーツのヨロイに工事現場用のヘルメット姿の少年が、トイレに行かせてくれと泣き喚くのが認められた程度には。ほか二人は機体を降りることなく通訳を交えての取り調べと書類へのサインを求められていたが
「はぁすっきりした」
「こっちはすっきりしねえよ、二度と降って来るなとまでは言わねえが、トカゲ野郎の目がこっちのお国にも本格的に向いちゃ困るんだとよ、はあ」
「奴等、やっぱりまず俺達の国をしっかり滅ぼしてから本格的に地上に出て来る気なんだろうな。なんだってそんな……
「今のところの俺達が、戦争に負けた戦犯国家の協力も頼って作った兵力だからさ、」
いきなり人類丸ごととの総決戦に突入しにくい薄い壁があるとトカゲたちもわかってんじゃないか、完全な領海外に敵さんが顔出したこともないだろ?―――
「まあまあいいじゃないか帰ろうぜえ!」
日が傾いてきた空を見上げ呟く竜馬たちの言葉はそんな具合に搔き消された。

基地の中にはきれいな店も沢山あったと、帰りの道中武蔵は楽し気に話す。今度はお上りさんのきらきらきゃっきゃした声が止まらない。
「ハンバーガー屋の他にはアイスクリーム屋もあったんだ、屋台や売り子のおばちゃんじゃないきれいな店が!」
「そうか、じゃあそれも日本に来るかもしれないな、平和になったら」
「銀座三越なんかにでーんとよ。はん」
「旨そうだったなあ『チョコチップクッキー』とか『アメリコーン・ドリーム』とか」
「なんだそれ、でもきっと甘いんだろうな」
「きっとそうだぜ、『ミントチョコレートチャンス』に『コーヒーコーヒーバズバズバズ!』」
「ふうん」
「『caramel chocolate cheesecake』」
……ちょっと待て、それ一個に混ぜてあんのかよ?いっぺんにまとめて来させなさんな」
食が細くはないが神経質で食い貯めの効かない隼人は閉口したようであり、その気配に噴き出したらしい竜馬の笑い声も漏れ聞こえる。
「それにそれに、Ben & Jelly's calls Israel's actions in Gaza 'genocide' !……えっあれ長いな」
「ふふっ、ムサシおまえ、好きな物の話なら英語もペラペラじゃないか、怒られるのも代わってほしかったぜ」
「まったくだ」
「えへへえ」

全部終わったら、みんなで行けるといいな

そう約束したアイスクリームの味を、巴武蔵は知らないまま終わったし、彼の憧れたアイスクリーム屋が「殺すな」と叫んでいる

いまは20250603