●高校〇年生
『男子の列の前の方から女子の列へ』
学年フォークダンスで足りない女生徒の分をそう教師が指示した時、ジョーホーあたりだろうか、いかにも情けないエエエェ~っとの声が上がると共に
「やいやい!気に入らねえな、後ろからにしろい、背がちょいっと足りねえだけの奴らにそれでケチを着けるもんじゃねえや」
武蔵だった。
それにでけえ奴が女役だったら、野郎同士でお手て繋がなくってもいいだろ⁉
男子列の後ろから五分のニ程度にいて、どちらに行くか微妙な立ち位置の武蔵の主張だったが、これには一理あったから、体育祭終盤の少しダレてどうでもよかったり、千載一遇のチャンスを待ちわびていた一部の生徒がシャキリと動いた。
だから体育祭実行委員を務めていた竜馬が、遅れて外縁に加わってみれば、
「ああっ
……」
そう若き正義感と誠実さに満ちた声まであげて彼が驚きあきれたことに、金の十字架が白い胸に踊る隼人は、彼の次の次の次くらいのパートナーとなるべく、向こうの列でくるりとターンして、絵に描いたように長く優美な指をしならせ手を打ち合わせた。
ああ、一昔前にこんな流行歌があったと竜馬は思う。高校二年生ではなく三年生の歌。多分もうかけがえのない友となって久しく、そこまでにあった涙や怒り程度では済まない憎しみさえも今は愛おしいと思える相手との歌。かけがえのないものとなった月日はしかし最初から終わりが決まっていて、その時がもはやさして遠くないと感じる頃の。
だからフォークダンスはスポーツの秋の体育祭だろうか、それとも文化祭の後夜祭か、いっそ日の落ちた校庭で祭の為に作った立て看板等を燃やす盛大な篝火を囲んで踊るのか。
ダンスで手を取れば"甘く匂う黒髪"とは、彼等が同じく愛した女子生徒であり、共に見た美しい青春だろうか、それも素敵だろう、とても。だが。
目の前の女役の男子がよし終わった終わったとばかりに愛想なしに、くるくる回る事もせず突っ立って竜馬に次の相手のところまで進めと顎で促したから、彼はそうした。女役に回った男子たちは「別に怒っていません」「だからといってたのしいわけでもありません」との表明か、そんな雑な踊り方で役をこなすものが多そうだった。だがそこに背の高い隼人が見えないスカートの裾をつまんで『ごきげんよう』をした後、いっそシャープにターンして次のパートナーへと両腕を後ろ手に上と下、差し伸べてみせている。彼より背の低い男子生徒に配慮して屈んでくれる様子は少しもないが、『手を取っているポーズだけしてついてきな』ということらしい。そしてどうやら隼人前後の男子達は彼のやり方に倣っていた。
竜馬は歩みを進める、そして白い両の手を握りしめた。隼人の驚いた目が言葉もなく振り返る。冷たいが思ったよりやさしいような手応えの皮膚と温度を両手に感じながら竜馬はその静謐の目を、名高い業物の刀身みたいな不思議に冴えと澄みを覗き返す。
俺たちは欠けてはならない仲間だが、かけがえのないも友じゃない、まだ。
お前のために泣いたり憎むこともしていない、まだ。
だけど
夏の気配のいっそう近付く頃、さいしょの季節が終わろうとするだけの頃。その黒髪は甘く匂った。
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