ロンド
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Public 奈落の大穴
 

Lost Children【再録】



   一 ライザ、気まぐれに厄介事を持ち込む




「私たちの長期休暇をもぎ取って来たぞオーゼン! 旅行しよう!」
「嫌だね」
「なんでだーっ⁉ ここは喜んでって返事するところだろうが白笛の私が誘ってるんだぞー‼」
 招いてもいないのに窓から土足で飛び込んできて無遠慮にオーゼンの襟元を引っ掴みぐわんぐわんと揺らしてながら、なぜ都合のいい返事が返ってくると思っているのだろうか。いやライザなら本気で思っているにちがいない。オーゼンが逃避している間に常人なら目が回る勢いの速さで揺すぶりはじめたのがうっとうしくなってきたので、ぐいと首根っこを引きはがし、うるさい猫を天井に向かってぶん投げる。
 吹き抜けづくりの天井に一度バウンドしてライザがべちゃりと地べたに叩きつけられる。そんなじゃれあい程度ではかすり傷ひとつ負わないうえに、まるでめげないライザは俊敏にオーゼンのそばに寄って来て、今度は断りなしに膝上に居座る。ごろにゃんと頬をすりよせてくる様子は家人に慣れきって野生をわすれた猫だ。ただし、ネコ科でも肉食の獰猛な類だ。
「なぁ、オーゼン……
 いよいよオーゼンは報告書を投げ出して革張りの椅子に深く背もたれた。意気揚々とライザが首に腕を回して絡みついてくる。昔は羽のように軽かったというのに、ずいぶん体重も身長も伸びたものだ。それでもオーゼンには誤差のようなものだが。一方で暴風っぷりは格段に増大した。白笛になってからは権限の範囲がとんでもなく広くなったので、やることなすことがいちいち被害甚大である。
 白笛二人が同時に休暇を取るなんて組合本部の上層部が頭を抱えていそうだな、とオーゼンはライザの後頭部をあごにぐりぐり押しつけられながら思う。考えをまとめている最中だ。気が乱れるのでやめてほしい。
 いいかげん暑苦しくなってきたので、オーゼンはまとわりつく奈落髪を根本から思いきり引っ張った。
「痛っだぁ!」
「重い。降りな」
「はぁーい……。でもゴンドラ素手で運ぶオーゼンには重くなんかないだろー?」
 しぶしぶとライザは膝から滑りおり、流れるように机に置かれた報告書をちらと指でつまみ上げて顔をしかめた。ライザは書類仕事がいっとう嫌いなので、印を押すほかは部下に丸投げしている。旦那であることをいいことに、トーカはよく駆り出されている。
 せっかく仕分けしているのに荒らされるのは不服なので、オーゼンはライザの手から紙きれをひらりと取り上げた。
 ひと吹きの涼しい風が窓から入ってくる。顔を上げたライザの長い奈落髪がはためき、窓から差し込む日の光に透けてきらめいた。
「一緒に行くだろう? オーゼン」
 観念したため息すらも前向きアクセル全開なライザには効きやしない。ライザはオーゼンにタックルをかまし、熱烈すぎて暑苦しい抱擁を贈った。