河童の皿箱
2025-04-02 09:15:59
11966文字
Public 旧作
 

赤気

娑楽斎とランブラのお話。



 2人で黙々とアトリエに篭って、絵を描く。初めは鉛筆で。次に絵の具を溶いては、彼はローラーで、私は毛筆で。互いに互いの画材を貸しあって。慣れない筆に苦戦しながらも、心にはふと楽しさが湧き上がり、そして心が筆に乗る。
 あの日、落とし物を受け取った時から、毎晩のようにここに通って約半月。共に絵を描いている。わたくしは彼にローラーの使い方を教えて、彼はわたくしに筆や彫刻刀の使い方を教えてくれて。いつしか、わたくしたちは互いに、互いの先生になっていた。

「できましたわ」

「っし、こっちも」

 2人同時に画材を置く。パレットに広がった色はもう随分と混ざってしまっていたけれど、キャンバス上の色は自分なりに納得できる色だった。月夜に照らされる山と、競い合うように聳え立つ色鮮やかな摩天楼この家の周りの景色。光の表現が特に難しかったけれど、何回も挑戦してきて、やっと上手くいった。
 筆を洗い、簡単な片付けを終え、席を立つ。隣に彼が来ては、感嘆の声を上げた。

やはり、先生は透明感のある絵がその、すごく上手、ですね。これは、この辺りの景色だ。あの街を表現するのに、こんなに氷のように透き通っている作品を見るのは、初めてです」

「あぁ、よかった。伝わった! そう、そうよ。初めて来た時、この山を降りる時に見た色がね、キラキラしてて、鮮烈でずっと描いてみたかったの! 先生は何を描いたのかしら?」

 彼が描いた絵をひょっこりと覗いてみる。そこには、伸びやかな快晴の青と、徐々に広がりゆくグラデーションに、霞のような雲が描かれていた。いつも見るような空。けれどその空は、きっといつかに彼が見た空なのだろうか。

「まあこれは、ここから見える青空かしら?」

「大雪の次の日、こんな感じの青空だったんです。キンと冷えて澄み渡って、綺麗な青空で。あの日は搬出に雪かきに追われて大変だった。塗りムラができてしまったのが心残りですが」

「あら、ムラ? どこかしら

「あ、あー探さないでください、恥ずかしいんで」

「ふふっ、冗談よ。少なくとも、わたくしの目では全然わからないわ」

 彼の作品は、昔からの癖か、色がすごく鮮やかで、どこか現実離れしたものが多かった。もちろん、この空もそうだけれどいつもよりもずっと、色が淡くて写実的で。ほんの少し教えただけでもうこんなに上手に描けるだなんて、感心した。
 そしてこの空に描きたい、とも。ここにあるのは、まだ真っ白なキャンバスのようなものだから……そう考えたところで、あぁそうだ。人は空を描いて、それで完成するのが大抵だと思い出した。
 そうして、キャンバスの空を眺めていれば、ふとアトリエの戸がトントンと叩かれた。

「娑楽斎、居る?」

「ん、あぁ。開いてるけどちょっと待ってくれ。あー、と先生」

「大丈夫よ。どうぞ」

 返事をすると、ドアが開く。そこには、あの客間の絵に描かれていた、可愛らしい女の子が立っていた。

あ、お客さん。いらっしゃい」

「ふふ、こんばんは。お邪魔しています」

「おい、セアミン先生、すみません。こいつ、あんまり空気読まなくて」

「あらあら、良いのよ。あなたもそろそろ敬語を抜いても良いけれど?」

「や、先生は先生ですからうん」

「娑楽斎、縮こまってる」

「ほっとけって。ほら、どうしたんだ?」

「ちょっかい出しにきた」

「ちょ

「うそ。フェスのスケジュール届いた。はい、これ」

 セアミンと呼ばれたその子は、懐に抱えていた大きな光る板を娑楽斎先生に渡す。それにすっと目を通せば、すぐに返した。

「先生、その

「ふふ、良いのよ。これから忙しくなるんでしょう? この半月、すっごく楽しかったからまた手が空いたら、一緒に遊びましょ?」

「すみません、せっかく来てもらっているのに」

「あら、わたくしが暇でおしかけてるのよ。わたくしのわがままばかり聞いてくれることないわ。応援してるわね」

ありがとうございます。……そうだ。次会う日まで、これを