akinoshiroihana
2025-03-22 23:18:01
12058文字
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名刺置き場10





その花が美しいのは、山の管理が疎かになっている証拠だというが

今年も藤の花が見事だから来い、と自慢げに、麓の黒電話から連絡してきた男の招待に神隼人はため息を一つついたようだった。なにせ、先々週山桜を肴にという話も無かったか。
「神社や寺みてえだからかな、このシーズンになると俺ん家の周りの山には自殺志願者みてえなのがよく湧いちまうぐれえすげえんだよ」
いまどきの花は、かつての浅間山よりは列島のどこであれおおむね早かろうが、
「それは早めの五月病に罹患した連中だろう」
自分の戦場に耐えがたくなった者達だろうとの言外の憐れみを言葉にしてから隼人は電話の相手もそうであったと舌打ちした、だが幸い相手は構ったふうでもない。
「あーそうそう?それ?だからよ、寺に勝手に住み込んでる連中にも今はそういうの見かけたら止めるようにパトロールに出す期間にしてんだ」
だからうるさいのがいねえんだよ来いよ、と子供の悪巧みが上手くいっている時か、秘密基地からのお誘いか、そんな風にちょっぴりのわくわくを隠したような手招きが受話器の向こうから聞こえる。電話の向こうの彼の目はきっとあの静かな淡い紫を映し、あたたかい微風にきらめいている、こちらまでその色に染められそうな。
「桜と違ってはっきりいい匂いもするからさ、結構別世界だぜ」
嘗て戦後この国の寺社では、ぱっと「花の命」を擲(なげう)つことを良しとはさせまいと、桜を切り倒し長く咲く紫陽花に植え替える動きなどもあったのを、廃寺の彼は知るだろうか。いやいや知るまい。

「手首を切ったり薬をザラ飲みしたのも見回ってるあいつらがすぐなら間に合う、ぶら下がる方はこの辺逆に、丁度いい高さの枝もねえだろうと思ってたら最近はむしろドアノブ高さで吊るスタイルがメジャーになってきやがったんだって?おおやだね、ったく」
「あれは適当なところで止めていれば結構気持ちがいいんだ」

號が聞いていないのを確認してから、彼は受話器から友の耳へ毒を注ぎ込んだ。