akinoshiroihana
2025-03-22 23:18:01
12058文字
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名刺置き場10






朝だ、五月だ。花粉が終わって梅雨もまだ来ない、ゴールデンウィークは休み返上で、一文字酒店はずっとフル回転だった。
あの日、全部終わった後、神さんは俺ん家の古い酒類小売業免許を法人化し、最近の酒屋免許じゃできない全種の酒の通販が可能な量販店として、メタルビーストにぶっ壊された店をでっかく復活させた。曰く、今後の免許には無い大きな強みがあると。お袋に挨拶に行って頭を下げ、俺のことを謝罪し今後俺がどの道を選んでも家が大丈夫な道を相談し、各方面じぶんでこまごま顔出してくれて。酒からギフト商品に業務用商品、輸入食品まで充実させ、社員の研修もやってくれたとか聞いたのは、ゲッターから降りてきた俺と流竜馬を神さんがぶん殴り、ここんとこは素直に殴られてやろうぜなんて言い交わしていた俺達がICU送りになった数カ月後だった。

渓は返って来ていた、身体が残ってた渓の方は。心が先に融けてしまうのをゲッターの中で見たけど、剴みたいにあの幸せな満足感に飲まれなかったからまだ帰れたのか、ただの深い眠りだったみたいに。そして俺が目覚めるまでお袋を手伝ってくれていたという。
「で、お前らどこまで行ったよ」
流竜馬が聞いてくる。ああそうじゃねえな、と呟き
「結局どっちにしたんだ!?ってとこからだよ」と。

まあ嫁に行くのが酒屋なら里帰りの土産も悪かねえんだろうがよとかわかんない事を言ってる彼は何かを勝手に許したようでありつつ勝手に寂しそうなそぶりをする。
「って言いながら業務用の樽に座んじゃねえよ!その銀色の、店のノボリ立てる金具じゃねえよビールが5ℓ入ってんの!だから台車に乗せてあんだろバカやろ」
まったく、あん時は絶対アル中な悪い飲み方してやがったくせに、と言えば、あそこじゃ炭酸入ってるやつはそうそう飲まなくってよ、と"赤みち"の消えた向こうに住んでいた男は、悪い、と腰を上げる。最近じゃ飲るのはあいつが来た時ぐらいかな、とも。つまり流竜馬は、あの薄暗い薄汚れた深酒をやめたらしい―――

―――いま
計器が示している曜日、時間、そして西暦
ああ、この下に広がる世界には正しくそれだけの時間が過ぎた
先程までのあれはこの地の情報がゲッターに浸みて俺に見せた一瞬の都合のいい夢だ
いまあの人の声が確かに聞こえた、最後に聞いたときとさして変わらず
それでも

「直ぐに追いついてやるって言ったじゃねえかよぉ……いや、いいやちがうなそうじゃない」

違う、あの時タラップを降りて帰れなかった俺が、消えた俺が、消失ポイントと無関係な時間と場所に、「発生」しただけ
運命はしょっちゅう理不尽だったが、今の俺は存在自体が理不尽で間違いだがあんたの助けにだけはなる理不尽で悪い奇跡だから、あんたにこの姿を見せればあんたの普段は見えない傷は、消してやれない傷がまた増える。

『応答しろ、黒いゲッターロボ!』

ねえ、
あれからあんたの傷はいくつ増えた?