akinoshiroihana
2025-03-22 23:18:01
12058文字
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名刺置き場10





近隣からの戴きものだと食卓に上がったそれに、竜馬はああこれは、と目を大きく開き、隼人は少し首を傾け、弁慶は逃げ出した―――

鶉肉は昭和40年代には焼き鳥の変わり種として雀同様それほど珍しくもなかった。しかも洋食で小洒落た形になって出て来るよりも姿焼きや丸の肉で取り扱われやすかったので、鳥獣全般を愛でる彼にあたっては。

「小骨が多いけど味が濃くって俺は好きですよ、」
懐かしい、と笑顔になり、骨、取ってやろうか?と隣で箸の置き場に戸惑っている風の隼人に嬉々として話しかけていた竜馬が
「だって美術の授業でも静物画で見た事あるだろう?皿の上に並べられた果物と狩りの収穫物らしい小鳥、あれは結構な確率でウズラで」
「うるせえ」
追いかけて行った弁慶はカーポートの端で鳥籠の修繕に黙々と勤しんでおり、竜馬をぶった切った。
「なんで食っちまうのかな、それもあんなカッコで。ウズラがよく鳴くのはいいことなんだぞ、だから昔は戦場にだって一緒に連れて行ったんだぞ。すぐに飛び上がって頭をぶつけちまう奴等だからって、専用のカゴだってあるってのに」
「ああ―――
言われてみれば、弁慶の手にあるのは籠の天井が板や柵ではなく網を貼った特殊な鳥籠だった。そういう長い事愛された存在なんだよ、と言外に抗議をしている格好にもなった弁慶は、伝書鳩を可愛がっていた幼い頃に中華飯店で旨い鳩肉料理を出された話などをもものがなしく披露した。
「だいたい、最近は人間のせいでどんどん減ってきちまってるってのに」
鳴き鶉というのは既に絶滅してしまったのだという。大量生産大量消費の人間世界が傍若無人に生きようとするからそんなことになるのだと、なんだい人間サマは一番進化してるつもりかい、増えすぎて自分たちのエサを賄えなくなったから自然を―――世界を壊してようやく食い繋いでるだけだろうが。

人間が、普通ならできなかったぐらい遠くの種を持ち込むから植生もまた―――草木も乱れ、元から咲いてた花は新しい花に飲み込まれもする。
今パラッパラっと咲いてるだけの西洋タンポポが将来日本タンポポを駆逐しちまうだろうなんて言われてるの、信じるかい?逆に向こうに行ったイタドリが食える野草だなんて思ってもらえなくて、繁殖し放題になって悪魔の植物扱いされたりさ、それのどこがいちばん進化したものの勝利なもんかよバカバカしい、もの知らずな俺達が踏み荒らし毟って余計なものを捨て、乱された場所に起きる荒れ地の淘汰さ

打ちっぱなしのコンクリートが終わる砂利の庭端に咲く燃えるような金色の花とその傍に咲く、ほんのわずかクリーム色を優しいかのように帯びた白い花、それが滅びると言われても実感が湧かないが、それはいやだなと竜馬は思う。特別な、やわらかい鳥籠でしか飼えない、いくさばまで共に来る鳥の未来が危ぶまれるというのも。
「そうだなあ、ウズラが旨いのは確かでもそれはわかる、こいつらがいなくなったらきっと悲しいよ」
そう言いつつ彼の脳裏に何故かよぎったのは、去年の春、武蔵に投げられるのに合わせて彼の胸を踏み台にして跳ねて、校舎の二階まで飛んでしまって周囲を驚き呆れさせた、出会ったばかりの隼人の空への無言の跳躍だったり、あの頃手を焼かされたつれない白い横顔だったりしたのを自分ひとりのものとして秘めたまま、竜馬は言う

「こういう今のアタリマエの『綺麗』が消えないでくれるなら、俺は多分思ってるよりずっと頑張って、自分でも驚くんだ」
「へっ、いったいなんだそりゃ」