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井見
2025-02-09 11:15:21
34431文字
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真Ⅰ二次
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【再録】ゆめはめぐりて
真1主人公の道中掌編集の再録です。サイトにあげたことのある6本の改稿+新規3本、磨耗している主人公についてのお話を詰めました。痛みも悲しみも拭えなくても。
あとがき:
https://privatter.me/page/66dc6af2077b6
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灰
悪魔の死骸はやがて溶ける。りえと名乗っていたリリスも、もはや影一つない。
なら彼は?
視界の端に、常に彼の亡骸があった。戦っている隙に、目を離しているうちに、霧散していくんじゃないか。ずっと考えていたが、そうはならなかった。
彼の体は、最期の言葉を残したときのまま、音もなく横たわっていた。
彼の手をとった。赤い手甲と肉体が、触手めいたもので繋がっている。かろうじて触れられる手首を探った。何の動きもなかった。体を仰向けにして、着物のような布を纏った胸に手を当てる。脈動一つない。
彼は死んでいた。
悪魔と一つになった肉体でも、弱点は人間と同じらしかったから、とどめには胸を一突きした。肋骨の場所も人間と同じで、柔らかさも人間と同じで、刀を引き抜いたとき、不快な糸を引く感覚も人間と同じだった。
貫いた刀と同じだけの空洞は、もう治す魔力もなかったからか、そのままになっている。その穴から流れ続けてできた血溜まりは、彼がどうしても殺したがっていた男がつくっていたものとそっくりで、僕は全部いやになった。血溜まりに座り込んだ僕を呼ぶ優しい声にも、答える気にはなれなかった。声は次第に移動して、僕の耳元にきた。僕と同じように、彼の血の池に座ったのだとわかって。思わず顔をあげた。
「ねえ。彼、どうするの?」
生き返らせるには時間が経ち過ぎていたし、彼がそんなことを望んでいないことくらいわかっていた。
「置いていきたくない」
僕は呟いた。
なにもかも許されるなら、ここでじっとしていたかった。彼の肉体が硬くなって、ただの物体になっていくところを、茫然と眺めていたかった。血溜まりが乾くまで、僕が殺したんだってわかるまで、もう少し時間が欲しかった。二度目のことなのに、僕はまだ追いついていなかった。
「そうね。ここは寒そうだものね」
彼女は、彼の頬を撫でた。緑色の光がわずかに輝いた。まだ生きている細胞たちが、治癒の魔法で活気付いて、彼の顔の切り傷を塞いだ。
綺麗になった顔の、半分くらい開いたままの瞼を閉じたら、眠っているみたいに見えた。それでも胸の傷が痛々しくて、何か布があればよかったけれど、何もなかったので、僕は手のひらでそっと押さえた。まだ少し温かった。
僕は、彼の顔を、覗き込んだ。
彼はいい夢だったと言っていた。もう動かない瞼の裏には何も映っていないとわかっていても、僕にはまだ、彼が夢を見ているんじゃないかと思った。わるいゆめを。いいゆめを。
夢を。
夢の終わりが僕でよかったのだろうか。
後悔しているわけじゃなかった。多分これが、決まっていたことだった。
でも、りえが言っていた。
友達を殺して平気なのかって。
僕たちは、友達だったのだろうか。わからなかった。
僕たちは迷いなく戦った。戦うしかなかった。戦う必要はなかったのかもしれないが、彼らは僕の前に立ちはだかって、僕は彼らを殺すことを選んだ。
殺した後に平気じゃなくなったら、僕らは友達だったのかもしれない。でも僕は、ぜんぜん平気だ。二人とも殺してしまったのに、これから天使だって悪魔だって殺せる。いつもどおり戦える。だから二人は、僕にとって、友達じゃなかったのかもしれない。
確かにそうだ。一緒にいた時間だってそんなに長くはないし、一人だと危ないから連れ立っていただけだった。だから、そのとおりなんだ。
そういえば、彼と二人だけで話したことだって数えるほどしかないかもしれない。いつも大体三人で行動していたし、君はすぐにいなくなってしまったし。
いや一回だけ、二人きりになったときがあった
……
。
夢の中に似た訳のわからない場所で、仲魔を探しながら、恐る恐る歩いていたときのことだ。
殴るくらいしかできない僕では、悪魔に囲まれたらたちまち終わりだ。道の隙間に設えられている小部屋を開けるときの気持ちは、祈りだった。悪魔が出てきたら死。仲魔が出てきたら生。
そして、新しい小部屋がある。後ろからは悪魔が追いかけてきている。入るしかない、思い切って突入したら、中にいたのは悪魔じゃなかった。
そこにいたのは君だった。君は震えながらこっちを見て、安堵しながら息をついた。
君は僕の名前を呼んだ。
それから君はごまかすみたいに笑っていた。一人が怖かったのだと思った。僕も怖かった。
ここは何なんだ、おれたちはどうなっているんだ、そんなことを聞かれても、僕にもわからない。僕は、知らないって言った。君は納得した。
一人じゃなくなったのは本当にありがたかった。君の炎の魔法が敵を焼き、残った悪魔を僕が斬り落とす。戦いが安定した。さすがに囲まれて急いで逃げるときも、二人なら隙を作りやすい。君の痺れさせる魔法で何とか群れに穴を開けて、そこを突破する。そんな瞬間もあった。
君は僕の機械を羨ましそうに見ていた。悪魔がたくさん呼べるから。でも君はこの機械を使おうとはしなかった。君は怖がっていた。ずっと背負っていた銃だって、君は何故だか使いたがらなかった。君は怖がっていた。
新品のままの銃を指して、僕は理由をこっそり尋ねた。使いたくなければそれでいいのだけれど、振り回しもしない銃はただの荷物だ。
今は二人だったから、話してくれるかもしれないと思った。でも君は話してはくれなかった。思わしげに眼鏡を直すだけで、ちゃんと必要になったら使うから、気にするな、とだけ言っていた。
君は、魔法は使うのに、銃はあまり使わなかった。
大きなマシンガンをお守りみたいに背負っていて、使い方もわかっているくせに、なかなか触りたがらない。
一度だけそれが火を吹いたのは、僕が瀕死になったときだった。仲魔もみんな死んじゃって、もう終わりだってときだった。
懐かしいな。
思わず呟くと、隣から「そうよね」と同意の声が返ってきた。
「もし彼が助けてくれなかったら、わたしたち、今ごろ牢屋の中で溺れて死んでいたかしらね」
彼の冷たい手のひらに自分の手をそっと重ねながら、彼女は言った。
「まあ、捕まえたのもあなたなんだけど。不思議な人だったわ
……
もっと、話してみたかった」
彼女も彼女なりの思い出を振り返っていたのだとわかって、僕は不思議に思った。やることは同じだった。
そのまま彼女は目を瞑って、口元で何かを唱える。彼女の神聖な魔力が、さっきよりもたくさん彼の中に流れ込む。
「魔力の無駄遣いだって、怒らないでね」
彼は死んでいる。だから治癒の魔法をかけても、せいぜい見た目が綺麗になるだけだ。それでも彼女が何をしようとしたかわかった。さっきよりもさらに強い魔力を込めて、胸の痛々しい傷の、せめて外側だけを塞ごうとしていた。まだ少しだけ生きている細胞たちがにわかに活気付いて、お互いに手を伸ばしていた。
「
……
ありがとう」
彼女はついさっきもそうしていた。カテドラルの上の上で、彼女にとっても旅の仲間だった奴を殺した。でも彼女は涙も見せないで、生白い〝救世主〟の体の、焼け残った部分を治していた。
白い装束につけた真っ赤な血は取れなかったし、元から死人みたいだった顔はすっかり青色だった。変な気を起こさないように焼き切ったつもりだったのに、彼の顔だけは綺麗なままだった。僕は斬ることができなかった。代わりに僕が血みどろにして焼いた体を、彼女の魔法が綺麗に治した。
最初は、何でそんなことするんだろうと思った。僕は震えていた。震えながらまた、燃える剣を引き抜いたけど、力が出なかった。だから僕はパスカルを呼んだ。パスカルがため息みたいに漏らす炎が、ぱちぱちと彼の綺麗になった体を焼いた。パスカルの炎は特別だった。彼の灰だけが残った。
だからこれが二人目だった。僕が殺して、彼女が治す。二回目になって、彼女がなぜそうするのか、ようやくわかった気がした。すでに灰になった彼だって、本当はきっと同じことをした。
僕は彼の体についた血を、できる限り拭った。さっきもそうしてやるべきだったと思った。でも僕の服も濡れているから、まだ乾いていない血は擦れるばかりだ。生臭い臭いがつんと鼻をついて、僕の目を刺激した。
その間もずっと注がれていた彼女のきらきらした魔法は、彼の肉体を探り切ると、すうと空気に溶けていった。もう治せるものはないんだ。そして当たり前だけど、彼は目覚めなかった。
僕は再びパスカルを呼んだ。パスカルは、目の前のこの人が誰なのかわかっているみたいで、僕に鼻先を擦り付けた。匂いが同じなのかもしれない。僕はパスカルの首を撫でた。
パスカルは賢いから、お願いしなくても僕がやってほしいことをわかっていた。すう、と息を吸ってから、優しく炎を吐いた。彼の体がぱちぱちと燃えた。僕はそれを見ていた。燃え尽きるまで見ていた。
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