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井見
2025-02-09 11:15:21
34431文字
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真Ⅰ二次
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【再録】ゆめはめぐりて
真1主人公の道中掌編集の再録です。サイトにあげたことのある6本の改稿+新規3本、磨耗している主人公についてのお話を詰めました。痛みも悲しみも拭えなくても。
あとがき:
https://privatter.me/page/66dc6af2077b6
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物言わぬ石像
シナガワの像は、いまだに僕を見下ろしていた。
凍りついた目すら開かない、物言わぬ石像。派手な服装を身に纏って、片手には
……
あのとき探していた、反魂香を下げている。でもそれは彼女のためじゃなくて、多分自分のためだった。
見たことのない格好は、誰かに着せられたんだろう。この場所の象徴。上に立つ人の服。文字通り彼は〝選ばれて〟いた。
でも僕はセンスが無いな、と思った。
僕の記憶の、彼の長い髪の毛は、気取ったみたいな彼をさらに華やかにしていて、赤いジャケットの明るさによく映えていた。クラスにいたら、きっといつも友達に囲まれていて、体育祭とかのイベントをしっかりとまとめたりしていそうだ。格好だけ見たら、たぶん自分からは友達にはならないタイプの男だった。
でも彼は見た目に反して、いや、見た目通りなのだろうか、どこまでもいい奴で。
街の通りにいる物乞いにはきまって金を与えようとしてしまうし、悪魔が命乞いをしていれば「ナカマにしてあげたらどうですか」と僕に打診する。ああいった手合いの悪魔が僕らを騙して奇襲を仕掛けてくるなんてことはざらにあるのに、彼はきまって一度は情けをかけようとした。
もしヒーローっていうものがいたら、こんな奴なんだろうと僕は思っていた。
長い髪も赤い服も、彼のためにあった。
だって目に焼きついているんだ。とっさに僕たちの前に出た、彼の赤色が。
それから遅れて、こんな暮らしでも手入れを欠かさない綺麗な茶髪がなびいて、いつものちょっといい香りがしたのを、僕は、よく覚えている。
だからこの石像は全然彼のことをわかってなかった。
これにはあの髪の毛は一本も無いみたいだし、服も変な儀式みたいなやつで、全然似合っていない。彼を引き立てる赤色なんてどこにも見当たらない。匂いだってするわけがなかった。
何より彼の、どうかしましたか、と微笑むその頬は、ぴくりとも動きそうにない。
この石像が彼だなんて、そんなわけないだろって言いたかった。格好だって場所だって表情だって、ぜんぜん彼じゃないじゃないか。
でも、この石像はやっぱり彼なんだって、気づくしかなかった。
表情のないその顔にある、綺麗な眉の形も、すらっと通る鼻も、女の子みたいに長い睫毛も、そっくり同じだったから。
*
「まだきみは迷っているのですか」
彼は言う。
あの石像が動いている。僕はそう感じる。
彼と同じ声で、彼が言いそうな言葉を発する。でも本当に彼なんだろうか。彼ではあるはずだとわかっていても
……
僕には、わからない。
「ぼくは迷いません」
そう言いながら彼の唱える魔法も、全部見たことがある。
目に見えない衝撃波が彼の手のひらから発せられる。頬が裂けた気がするけど、別にどうでもいい。手足と目があれば動ける。痛くないわけじゃないが、他の悪魔なんかに比べたら大して脅威でもない。でもそれは僕だけを狙うなら、の話だ。
彼一人に対して、こちらは僕たちだけじゃなく仲魔だっているから、全体に攻撃できる魔法で仲魔を減らそうとしてきていた。手数は脅威だ、だから彼の選択は正しい。やり口はいつもと同じだった。傷ついた仲魔たちの面倒を見るだけで、十分こちらの行動は封じられる。
そっちが仲魔を殺そうとするなら、コンピューターに戻しておこう。戦場には僕たち三人だけになる。人間はコンピューターに戻せないから、僕は振り返って指示を出した。
「僕が引きつけるから、君は後ろから回復をして」
必要のない指示だった。だって指示がなくても、いつもと同じだ。
ただ、手出しして欲しくなかっただけだった。
「本当に大丈夫?」
心配そうな声だ。でも譲れない。
「大丈夫」
言い切ってしまえば、彼女は優しいから、あまり反抗はしない。身を守るように武器を構え直して、いつでも魔法が使えるように、集中を始める。
「余所見はいけませんね」
同じ口調で、感情のない声だった。
「いや、君のことを考えていた」
僕は一歩ちかづく。彼の右手の反魂香が、振り子時計みたいに揺れている。
「そういえば、報告があるんだ」
反魂香の揺れが一番大きくなると、マハザンマが再び飛んできた。来ると思えば読みやすい。髪の毛の先がちょっと切れて、顔にかかった。
「覚えている、ロッポンギのこと」
僕はもう一歩ちかづく。
後ろから回復の魔法が飛んでくる。さっきの傷も含めて、ぜんぶ治った。すかさず、魔法じゃない攻撃
……
なんだろう、天使のはばたきみたいな烈風が巻き起こる。羽なんて生えてないのに。後ろに飛んで行ったら危ないので、風は斬り落とした。
僕は、また一歩ちかづく。
「あの後、反魂香を見つけたから
……
使ったよ。
さいごまで、君のことを気にしていた」
僕の幼馴染の最期は、君への言葉だった。
悪魔の身勝手で魂を囚われ、三十年も同じ姿のまま、三十年も君のことを忘れてなかったんだろうな。
君も彼女を気にしていた。僕は正直、すっかり忘れていたんだ。君のことで頭がいっぱいだった。君の魂はどこかで見たことがあるのと同じだった。反魂香さえあれば、君だって生き返るのかって思っていた。でも君は、その反魂香を自分のためじゃなく、彼女のために探してやろうとしていた。
だからそうしたんだ。君のために、彼女に反魂香を使ったんだ。
でも君は、いま目の前で動いている。
シナガワにあった石像そのままの姿で、君は言う。
「そうですか。ありがとうございます。
一つ気がかりだったので」
本当に?
言いたくなるのをこらえた。
彼の表情はぴくりとも変わっていなかった。安堵の微笑みなんてないし、勝手にやったことの怒りとかもない。石像とおんなじだ。
自分が体に帰れなくなっても、彼女のことを気にしていた君は、もうずいぶん遠かった。
さらにもう一歩、僕はちかづく。
「もし、あのとき見送ってなかったら
……
。
いまごろ君の彼女は、死ねないまま水の底かな。
それかあの海に溺れ死んで、ようやく死ねたと感謝するか?
どう思う」
右手の剣を握り直した。
刀身は常に燃えている。鞘から抜かれているだけで、周りの空気を焼き尽くす。この部屋の温度もどんどん高くなっている気がした。手に汗が滲んでいた。
目の前の彼には、汗の一滴も見当たらない。まだなんの攻撃もしていないから、血も垂れていない。
生身の石像は、僕に囁く。
「神の慈悲は、悪魔をも滅し、救うでしょう。
きみも、はやく救われてはどうですか」
「救いか。
ここもロッポンギも、僕にはおなじに見えるな」
与えられる享楽と、与えられる安寧。色あせた僕の目では、区別できなかった。
返事の代わりに発せられる衝撃波は、もはや後ろの彼女には届かない。もうあと一歩で僕の間合いだ。こんなに距離を詰めているから、ぜんぶが僕に突き刺さる。
頭が裂けたらまずいのかな、とは思うけど、どうもそんな威力は無かった。装備の表面は音を立てるだけで、崩れはしない。剥き出しの顔に傷はつくけど、すぐに治してくれるから問題ない。
いい加減、知っている魔法を使わないでほしかった。
新しいその格好、新しいその格好に、セラフから新しい力をもらったりしていたらよかったのに。
石像の彼は変わらずに、かつて僕が頼りにしていた魔法を向ける。
僕は魔法を使えないから、初めて君と一緒にいた時、何度も君のディアに世話になった。敵に囲まれたとき、君の脱出の魔法で何度も命を救われた。君が最後に覚えた蘇生の魔法は、君自身には使えなかった。
懐かしかった。
もう君はいなかった。
「迷っているのかと聞いていたけれど。
僕は迷っているわけじゃない」
君か彼か、ロウとかカオスとか、どちらにつくか決められなかったんじゃなかった。
僕は決めたからこうしていた。
握りしめた剣は、熱くて痛い。さっさと手放したいくらいで、でもそれはできない。
永遠に焼け落ちない刀身には炎が巻きついている。いくら振るってもその炎は消えない。斬った相手を残さず焼き尽くしてしまうから、僕には都合が良かった。
僕は最後の一歩をちかづく。
燃える剣を振りかぶった。
真っ白い服が、汚れた。
剣の炎は尾を引いて、僕のなにかを炙る。
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