mochita_rj
2024-11-16 17:15:13
24499文字
Public TwitterのSS
 

SS2023年分

1Pに説明があるよ


片手で握りこんだビデオカメラの液晶のモニターを開き、電源が点いた事を確認する。以前露伴が取材とかで使っていたやつらしいが、見覚えのない用途もわからないボタンなんかがいっぱいだ。それに加え腕にずっしりと感じる重みも相まって、おれの家のとは比べ物にならないくらいいい代物なのは確かだった。

「あー、あー、これ音ちゃんと入ってっかな?」

画面チェックにと、適当に壁や床にカメラを向けつ階段を登り、廊下を歩き進む。「また高そうな花買ってきてんなあ」だとか言うおれの独り言もしっかりマイクに入ってるのだろうか。そんな事をぶつぶつと呟いている内に、目の前には目的の扉があった。

「えー、こちらが岸辺露伴センセーのお部屋でっす!」

勢いよく扉を開けば、仕事の手を止めて椅子ごとこちらを向いている露伴と目が合った。まるでまるで待ってましたと言わんばかりの体勢。途中であろう原稿も机の端に寄せて明らかに休憩中と言ったところだか、呆れたように眉を寄せた露伴の次の一言なんかすぐに予想がつく。

「きみさァ……いつもいつも道場破りか何かか?人の部屋に入る前にはノックはしろと言っているだろう。あのな、もしこのぼくじゃあなかったら、」
「ハイハイすいません、わぁーってますよ。でも露伴も階段登る音でおれが来るっての、わかってんでしょ」

じゃなきゃ俺の方を振り向いて待ち構えてるわけがないし、中途半端な原稿だって片付けてないはずだから。おれがフフンと得意げに鼻を鳴らしてカメラを向けると、露伴ははあ、とわざとらしくため息をついた。

「マナーの問題なんだよ……と言ってもきみは聞かないんだろう。だからもういい」
「お、露伴先生優しーっスねえ!」
「そんな事より!わざわざぼくのビデオカメラなんか持ち出してきて何だ?インタビューごっこでもするのかい」
「んー惜しいっスねえ〜でもちょっと違うかな」

露伴はじゃあなんなんだ?って不思議そうな顔をしてるけど、正直おれも返答に困る。漫画家としての露伴にインタビューってのをしたい訳でもねえし、何をしてるのかって聞かれるとおれもよくわからないのだ。ただおれはなんとなく、

「おれと一緒にいる露伴を記念として残しておきてえっていうか。そんな感じ」
……ふうん、なるほど。それでビデオという訳か」
「そ!せっかくこんないいカメラあったんだしさ。記録に残しておけば後から見返せるだろ。一緒に旅行に行った思い出とか、こんなふうになんでもない日常もさ」

露伴は腑に落ちたような表情をして、それからふっと笑った。「じゃあカメラはそのままぼくに向けておけ」と続けた露伴の言葉通り、おれは画面いっぱいに露伴の姿を閉じ込めた。

「あー、ぼくらがこれを見返すのはいつになるかはわからないが……そうだな、先に今のぼくの事でも話しておこうか。岸辺露伴、27歳。仗助とは付き合って6年になるよ」

そっか、もうそんな長いのか。付き合った当初は露伴に脅されたのか、とか、1ヶ月で別れるだとか、康一達はじめ周りに心配されたっけ。おれも露伴相手に正直こんな長続きするとは思わなかった。だが、一緒に過ごしてみれば不思議と何年も前から恋人だったと錯覚する程には、居心地が良かったのだ。

「そっちのぼくは今何歳だ?まだこの家に住んでるのかな。つい最近破産して差し押さえまでいったのを、ようやく取り返した家なんだ。大切に住めよ」

ソファへと移動し、カメラから視線を外しておれと目を合わせた露伴は、隣をポンポンと叩いた。露伴は「座れ」と明らかに言っているが、正直おれ自身が写るつもりはなかったんだけど。まあせっかくだしな、と握っていたカメラを机に置き、露伴の言葉に従った。

「えーっと東方仗助。23歳……なあこれ、自分が撮られてるって思うとなんか恥ずいっス」
「きみはカメラを向けられ慣れてないからな、しょうがないさ」

余裕こきやがって、ムカつく。ちぇっと口を尖らせたおれの表情も全部ビデオには残るのだろう。おれは何年経っても露伴からはガキ扱いだ。これを見ている将来のおれはもっと大人っぽくなれてんのかな。

「そっちのおれはまだ露伴と付き合ってんのかな?まあこれを見てるってことはそういう事かあ……うーん、何話せばいいんだろ」
「23歳の仗助君は露伴の事が大好きっス♡とか言っとけばいいんじゃあないの」
「な、なに言ってんスか!これ残るんスよ!そんな事言うわけねえだろっ!」
「ふうん、じゃあぼくが代わりに言ってあげようか?」
……へっ?」

隣から手が伸びてきて、ぐいっとからだを引き寄せられた頃には露伴の顔が目の前にあった。片手でヘアバンドに手をかけた露伴の“合図”に、おれはまさか、とひくっと喉を引き攣らせた。

「あっちのぼくらがまだ付き合ってるか、だっけ?……当たり前だろ、このぼくの事だ。いくつになっても離すわけがない」
「ちょ、んーーーッ!?!?」

画面の向こうに見せつけるように、露伴はおれに唇を押し当てた。何度も角度を変えてしつこく長いキスを施す露伴に、何で急にスイッチ入ってんだよ、とか言いたいことは沢山あるんだけど。頭がくらくらして働かないから、結局露伴の服を握りこんで縋るしかない。やばい、うまく呼吸できないせいで、本気で目が回りそう。腰が砕けて後ろに倒れ込む寸前、おれの腰を抱えて、己の身体に寄りかからせた露伴はカメラの方を向いた。

「はは、そっちの仗助はキスは慣れたかい?こっちのきみは6年経ってもこれだよ。あれの方もなかなかウブで──」
「あー!あー!何言ってんスか!!もう撮影中止!アンタはもう喋らねえで!」
「なんだよ、きみが撮ろうって言ったんだろ」
「いやこれ残るんだから!!恥ずかしいことはすんなって言ってんスよ!」
「ぼくは恥ずかしい事なんか何もしてないが」
「テメーはよくてもおれが恥ずかしいんだよ〜〜〜ッ!!」

ようやく言い合いが落ち着いた頃には、カメラのバッテリーは切れていた。記念すべき撮影第1回はお蔵入りだ!と心に誓ったはずなのに、10年後そんな事も忘れて、露伴とまたこの部屋で再生する未来なんか知る由もなかった。