mochita_rj
2024-11-16 17:15:13
24499文字
Public TwitterのSS
 

SS2023年分

1Pに説明があるよ


とある金曜の学校帰り。おれは通い慣れすぎてもはや何も考えずとも勝手に足が向かう、いつもの場所へと足を運んでいた。片手にはコンビニで仕入れた袋いっぱいのお菓子と飲み物。うん、お泊まりの分とはいえ少し買いすぎたかもしれねえ。露伴からぜってー「買いすぎだ」とか呆れられるだろうな。そして、アイツはしょうがないなあって笑うのだろう。
ああ早く会いたい!そんな事を考えながら、インターホンを鳴らして露伴が出てきた直後だった。おれがお泊まりのウキウキ気分どころじゃあなくなったのは。

「やあ、遅かったな」
「ちわーっス!露伴!来た……っス、よ……
「うげ、なんだその量。流石に買いすぎなんじゃあないの?」

あまりの衝撃に、おれは右手に握りしめたビニール袋をうっかり落とすところだった。当の露伴はおれの異常事態にまだ気付いておらず、やっぱり思った通りの呆れた顔をしていた。

「?どうした。固まって」

露伴は怪訝そうに首を傾げる。今のおれと違って、露伴は仕草も表情もいつも通りだ。……ただ1つを覗いて。

「おい、仗助?」
「な、な、」

露伴が眼鏡を掛けている。そう意識した瞬間、心臓はドックンドックンとうるさく鳴り始めた。手だって震えてるから、重いビニール袋はやっとの思いで握りしめてる。な、なんで?一体どうしちまったんだよ、おれ。露伴が眼鏡をかけている、ただそれだけじゃあないか。そんな簡単な事なのに、黒縁眼鏡をかけた露伴がおれにとってはどうしようもなくカッコよく映っていたのだ。

「まあいいや。とりあえずここじゃなんだから上がりなよ」
……っス」

眼鏡をクイッと上げてこちらを視線をよこす露伴に、おれはクラっと体温が上がって目眩をしかけた。もう靴を並べる余裕すらない。おれは躓きかけながら、必死にローファーを脱ぎ捨ててやっと思いで露伴の家に上がった。

「もう来るだろうと思っていたからな。お茶を入れていたんだよ」

魂が抜けた放心状態で露伴の後を着いていく。リビングの机には、2人分のマグカップが用意されていた。どっかの家具屋で見かけて『おれらみたいだから』とねだって買って貰ったやつだ。それぞれ犬と猫の絵がついている紫色と緑色のペアカップ。露伴はこれを買ってからというもの、「ぼく、猫かなぁ?」とか毎回不服そうにしながらも毎日使ってくれている。物にこだわる露伴は、自分の趣味で集めてる上品なティーカップだって使えるはずだ。それでもこういうペアのものをちゃんと使ってくれるとこ。本当そういうとこ、

「すげー好き」
「ん?何か言ったかい」
「ハッ!!」

あぶねえ!考えてた事が無意識に出ちまった。慌てて口を噤んで露伴の方を見ると、不思議そうな顔をしておれを、じっと見つめてる。あーその眼鏡すげえ似合う。すげえその、セクシーでかっぴょいい……じゃあなくて!

「そうだ、仗助。今日の学校はどうだったんだ」
「あ!?!お、おう。そうね?えーと、えーと」

ちょうどよく、目の前の露伴から気を逸らせる話題が来たので好都合だ。ええっと、今日
何があったっけ。ああそうだ、こんな事があった。そしておれは体育の授業でバスケをしてムキになりすぎてスタンドを出しかけたこと、億泰が授業中に大声で寝言を言って先生にすげー怒られてたこと。そんな取り留めもない高校生の日常を、露伴はふんふん、と相槌を入れながら興味深そうに聞いていた。そういえば一度、こんなおれのしょうもない話を聞いて楽しいのか?経験の多い露伴はもっと刺激ある生活をしてきたんじゃあないか?と聞いた事がある。露伴は「それはそうだが恋人がどんな一日を過ごしたのか知りたいだろ」と平然と答えていた。その時の露伴の表情はスゲー柔らかくて、おれよりも大人なんだなって実感させられて。

「好きだ……
「何が?」
「ハッ!?い、いや!なんでもッ!あち゛ッ!!」

おれの口のバカ!!突然脈絡もなく好きだとか言ったらおかしいだろうが!!誤魔化すように紫色のマグカップを煽ると、中身は思ったよりも熱くて吹き出すところだった。舌がビリビリ痺れて泣きたくなってきた。何やってんだよおれ。

「きみ、さっきからおかしいぞ。もしかして具合でも悪いのか?」
「へ、へぇッ」

隣に座っていた露伴が、おもむろに距離を詰めておれを覗きこんできた。今日1番に近い距離に、おれは思わず唾を飲み込む。少しずれたヘアバンドから出てきたさらりとした前髪の束が、眼鏡の黒い縁にかかっている。それがなんだか見てはいけないものを見せられているようで、おれは益々顔の熱を上がっていくのを感じた。これってもしかして、眼鏡フェチってやつ?

「め、眼鏡が。露伴、眼鏡ッ、眼鏡で」
「うん?眼鏡?ああ、近くばかり見る職業柄かな、目が悪くなってきたみたいでね。最近かけ始めたんだけど」
「ふっ、ふ〜ん

おれの意味不明な眼鏡の連呼に、露伴はそういえばきみに見せるのは初めてだっけ、と眼鏡をかけ始めた経緯を話し始めた。これ以上度が悪くなったら嫌だな、とか何か言ってるが、正直内容が入ってこねえ。だって、眼鏡をかけた露伴がおれにぴったりとくっついているんだ。どうしよう、もしこのままキスされたら?そのときは眼鏡はかけたままなのかな、それとも直前で外すんかな。男子高校生の真っピンクな脳内は、これから眼鏡の露伴とどうキスをするのかという議題でいっぱいだった。

てか、何で急に眼鏡の話?」
「えっ、あ、いや!!?別に、その」

まずい、完全に怪しまれている。明らかに様子がおかしかった奴が、突然眼鏡の話題なんかするからだ。おれがチラチラと露伴の顔を見ては、目を見開いてザッ!と慌てて視線逸らしていることに、露伴はとうとう気付いてしまった。

「何?もしかしてさぁ、きみ……眼鏡かけてるぼくに見とれたの?なーんて」
「な、はァっ!?み、見とッ……!!」
「え、マジで?」

わかりやすくうろたえるおれに、露伴はきょとんとした表情で呆気に取られていた。最悪だ!おれは露伴に鎌をかけられて、自分から墓穴を掘りに行ったんだ。己の愚行に耐えきれなかったおれはソファに倒れ込み、置いてあったクッションで顔を隠した。

「ぅ、うぅ〜ッ……!!」
「く、くくっ……ふうん、そうか。へえありきたりだけどきみ、こういうの好きなんだなァ〜」

クッションの向こうから、随分と楽しそうな笑い声が聞こえた。恥ずかしい恥ずかしい。穴があったら入りたいってこういう気分なんだろうか。恥ずかしすぎて逃げ出しちまいてえ。でも、今走り出したら足がもつれて多分盛大に転ぶ。

「も、なんなんスか、殺せッ!」
「ちなみに」
「うわっ!」

おれが握りしめていたクッションを取り上げられたかと思うと、次の瞬間おれの視界は、露伴の顔がドアップに映っていた。目を見開いて一時停止してるおれに構わず、露伴はニヤリと笑っておれの頬にするりと手を添えた。

「ぼくはきみが照れて顔が真っ赤になってるのも、」
「ッ、」
「恥ずかしさが限界超えて涙目になってるのも。全部よく見えるよ」

汗が滲むおれの額に、コツンと露伴の額が触れた。露伴は「熱いな」なんてくつくつ笑ってるけど、もうそれどころじゃあない。露伴のかけている眼鏡が軽くぶつかって、露伴が吐く息だって感じる距離。もうおれを見ないでくれ、いやでもおれは見たいから、せめて、もう少し落ち着かせてくれ。ぎゅううっと目を閉じて興奮を収めようとするおれを見て、露伴はまた楽しそうに喉を鳴らしていた。

「気に入ってくれたようで何より。恋人が惚れ直してくれるってんならずっとかけてようかな?」

露伴は眼鏡を中指で押し上げながら、にいっと意地悪そうな笑みを浮かべてそう言った。ばかばか、ずっとかけるとかナシだって。もしそんな事されたら、おれの心臓がもたねえもん。ていうか、惚れ直すどころか、ずっとMAXで惚れてるから直すなんて暇ねえし。

……でもまあ、こういう時は邪魔かな」

眼鏡をゆっくりと焦らすように外しながら、露伴の顔がおれに近づいてくる。ぺんだこができた指先が眼鏡のツルを摘むその光景におれは目を奪われ、夢中でその瞬間を目で追いかけていた。ちょっと待って、今のおれには心の準備ができてねえ。おれが言いかけたその言葉は、「待たない」と静かに笑った露伴によって塞がれた。