akinoshiroihana
2024-10-13 20:31:35
15825文字
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名刺置き場8

メモ:ゲッター以外が入ったらここにその旨書くこと



朝、走り込みに出る時に、
竜馬が
玄関脇に活けられた山茶花に肘を引っ掛けた

乾いた音を立て、大ぶりの一輪が丸ごとあっけなく壊ればらばらに散る
「ありゃりゃあ」
あまりの完全破壊ぶりに、彼のせいではない武蔵が思わずの声を挙げた
「しまったな」
言って、床に散り落ちた花弁をざっと片付けてから出ようとして
梅重か紅梅色か長春色、とにかく少し赤みが過ぎるその桃色が白と同居する色は、
さっきベッドの三段目から降りる時に見下ろした、風邪の熱がやっと引いてきたらしい隼人と同じだった
行ってきなよと手だけ挙げた彼と同じにしとりとした手触りをしていそうな花の色がこちらを見ている
そんな事を思いつく自分は朝っぱらからどうしたことだと、
苦笑いをしつつしゃがみ込むリーダーに

何考えてんだかわかんないけど大体わかっちまうコレはなんなんだろなあと、武蔵はため息ついた




「竜馬の野郎はなにかってえとニコニコしちまってるけどよう」
武蔵が口をとがらせる
「赤いモンは危ねえんだぞ、赤信号だけじゃなく!」
隼人のマフラーや普段着みたいに赤いのが今の季節、山にあったら全部毒キノコなんだかんな!
今年はマツタケはじめキノコが豊作な一方、猛毒のカエンタケもよく生えているとは山で自主練して土産をぶらさげ帰ってきた武蔵の弁だ
「隼人とやっと仲良くなれたからってのろけてっと、下痢嘔吐腹痛、下手に触るだけでもただれちまうなんてことも―――
「それに動悸と喉の渇きか?恋でもしてるみたいじゃないか」
「おい~」
「でもマシンが赤いのは俺の方だし、隼人のジャガー号は白だ、それに当時の玩具の為のイラストやキャラクターソングだと水色なんだぞ?」
「メタはやめようぜぇ」
赤くて白くて水色であとはそうだな、黒。
白雪姫の色と空の色で隼人はできてるんだ、素敵だと思わないか
ああもう何か言ってくれよお隼人も!

これはもう駄目かもわからんね
おいいぃ~~
いや、俺がさ

青空を行く飛行機雲を見上げつつ、鮮やかな色のシャツに身を包んだ青年がそんな言葉を口にした


こんな雪の日にイチゴを摘んでおいでと妹娘は
いや、スミレの花だっただろうか

赤いペチコートの少女が継母とその姉娘に雪降る野に追い立てられるんだ
絵本の中、少女は黒い髪で、ちらりと見える貌は塗ってないくらいに真っ白かった
高名な画家が描いたはずなのに

窓の外にふりつのる雪を、ぬくぬくと眺めつつ竜馬はふと思い出す

そう確か前の戦争の、地獄の連作を描いた画家だった
だから暗い森の中、罪のない少女が出会った十二の月の精霊たちの、夜の森、囲む焚火、闇の炎のなんと力強く恐ろしくも見えたこと!
あんな精霊たちに「この子は良い子だよ」と言われたあの子は、手籠にいちごを詰ませてもらったあの子は、いやいやなんて!

「ただいま」
なんだいその満面の笑顔、そんなに待ち遠しかったかい
一面に白くなった大地を、鋼の剛さとは正直信じがたいすらりと細い脚で扱いできて
小篭にいっぱいの赤い実の上にも降った雪片は、派手やかな形に咲いた結晶の形もきっとまだ崩れようがない

もらってくるって言った温室イチゴ、この立派なのよりそっちの小さいクズイチゴみたいなのが、とにかくすごく甘くってさ、おい
うんうん隼人は流石だなあとその帰宅を妹娘の凱旋みたいに褒めたたえて迎えれば
「へんなやつ」
いつものシャツと同じ色のコートの肩口から雪を振り落とし、
帽子の中にたくし込んでいた長い髪をはらりとすべり下ろした隼人の、なんなんだいとの当惑も、
冷たく纏った外気に混ざる、一番甘い果実の匂いも
とても罪のないものに覚えるだなんて。
絵本を閉じるようにして竜馬は言わない、これは彼一人の秘密だと。