akinoshiroihana
2024-10-13 20:31:35
15825文字
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名刺置き場8

メモ:ゲッター以外が入ったらここにその旨書くこと





仕立て屋が寸法を間違えてね
寸法、耐久性、使用可能年数その他出鱈目だから、仔猫程度の時間しか入らない
仕立て直しを急がせているが、その間素裸でいるわけにもいかん、この子の御母堂の皮でも着させてもらっているのだよ
何度となく死に臨みしかし向こうには行かなかったひとの声

猫は九つの命を持つというからか
そうでなきゃあの人を気に入らない連中は蛇とか何とか陰で呼ぶ、ギルガメシュの蛇
衣を脱ぎ捨てさえすれば、何度も死を逃れてきた、と

薄闇の底でふれたその体は黒くつべつべとして、巨大な猫の形をしていた
猫、カラカル、ヤマネコ、ジャガー
でもこれじゃ結局裸じゃん、と言いつつ咽喉から胸へとなでおとせば、むう、よせ恥ずかしくなる、などと獣は唸った。剥製にも彫像にもないなまめかしい感触と熱と匂いをまとって何をいまさら、そうからかっている青年のジーンズの裾が何かに引かれた
採寸ミスの小さな神隼人は、年相応の成熟と生まれたての生き物の混ざった柔らかく純度の高い肢体と貌でぴゃー、だかにゃー、とだけ声を出し彼らの注意を惹いた


おやおや猫だがまるで新生児室の音だ、私のおれおれしい泣き声ではなく。私のせいで生まれてこられなかった子供の声かな。
獣が聖獣か神獣っぽいことでも言ってればいいのに、そんな自虐を言いつつ小さい神隼人を嗅ぎまわるから、號は小さな人型を庇うように抱き上げよせよと言った
なんだそんなのの方がお気に召したか、ふふ、そうかそうか
うすくらがりの奥、黒く長く艶めいた猫の尻尾が、太い鞭のようにぴしぴしと床を叩いている。気に入らないのを隠せてないのにきづいているのかいないのか

なんだったかな、昔読んでた本の最終回でさ
『目も口許もみんなあのひとそっくり、だけどこの子の魂は真っ白なのね』
母になってそう喜ぶ女がいたんだ
彼女が一緒にいたくていられなくて救いたくて救えなくて諦めても愛したことが変わらなかった魂はそこに無いせめてものっていう、のがさァ……あんたは欺瞞だって否定できる?
それは號らしからぬ弱い語尾だった

ふむ
これは一号機乗りのバカバカしく広いストライクゾーンがなせる技(ワザ)か、業(ワザ)かな
……なんでそこで俺を他の誰かとまとめちまうかな
いつか『残酷な人だ』って言われちまいなよきっと、あんたのこと好きになったやつに

誰の夢とも知れない夢でのそんな語らい
小さな神隼人の髪の間からもう二つ、つややかな柔毛で覆われた耳が生えてきて、青年の両手のひらの上、薄闇の天井を仰いでにゃ――ぁぁ、と長く鳴く。どうやらそれは、隼人ではなく仔猫としてすっかり熟した。

まだやってこない仕立て屋を、ただ待つ間の、夢
隼人が今の衣を脱ぎ捨て死を越えて、また次の務めに赴いてしまう前の、夢
夢として見ることが許された幸いな最後の舞台仕立ては、しかしそんな風にぎこちなかった。