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akinoshiroihana
2024-10-13 20:31:35
15825文字
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名刺置き場8
メモ:ゲッター以外が入ったらここにその旨書くこと
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おいおいなんだよ、と騒がしいのは竜馬だ
「便所がよ、すっげえイイニオイなんですけどこんなタチ悪イ事すんのはお前だろ」
お前からもすげえ甘ぁいさわやかでフワッフワの匂いがしてらあと。
「麓に降りたら木犀が盛りだったんだよ。」
だから街中香ってるようでわからなかったが、山の上に持ってきたらよく匂うし、今年はなかなかいい香りで
車内が散らかる花ですけれどと新聞紙に包んで持たせてもらったのが活けきれないとミチルさんが音を上げたからよ
『いつもきれいに使っていただきありがとうございます』なるフレーズが巷で使われるようになるより数年早く、ある日のIQ300 のコミュ力はそのフレーズを思いつき、その貼り紙と共に職員トイレに金銀の花を置いた。結果
「防臭剤の作り物の匂いとは段違いだろ」
「いやありがたみ出すぎて『失礼しました』だの言って出て来る奴もいたぞ」
ありゃあしばらく申し訳なくて出るモンも出ねえやベンピになったらどうする
「知らん」「にゃろう」
などと軽口。神無月。
金の花は「丹」の花と呼ばれて海を渡ったという。つまり、「赤い花」である。
●
勉強机で新聞を広げていれば
「なにか気になる記事でも出てるかい」、と差し向いに座り直して
ソファに寝そべっていれば
「隼人!」と寝てようが知ったことじゃない音量でまず声を掛けて、近過ぎるところまで来てしまっているから
「借りてくぜ」
「ん?あ、おお。」
弁慶の私物の本棚から借りたそれを開いて顔の上に乗せ、ソファの上寝転がれば、隼人、はやととほどなく探す声がする
ばたん、とドアが勢いよく開いた音にも応えずいれば、あ、と息を飲む気配と小さな独り言を戸口に聞いた。
本気で寝たいのかな、それとも一人でいたい方か、そう囁くように言いつつそろりそろり近付いて来て、人の顔の上の本を取り上げようとしたらしい手がびくりと止まる。
俺と同じで「それ」が怖いわけじゃあ全然無い。だが、一部を除けばどちらかといえば不潔なもの扱いで、生きとし生けるもの全般に愛情を注いで、その命の循環に目を向けるだけの広い心は持ち合わせちゃいない。だから、そんなお前だからぎょっとしてるんだ、そんなどうでもいいところに限り、俺達は同じだ。大切な事でも違っているのに、おかしいくらい。
本のタイトルは
食べら
れる虫
ハンドブック
取り上げる手はまだ、来ない
話したいことがあるんだ、ほんとうは。
●
土曜の夕方には戻っているよとの声を聞いたと思ったのは、火曜の夜明け前
その時予備部屋のベッドから出て行ったのか、身支度を整えた後もう一度ドアの隙間から囁いたのか
起き出した遅い食堂で、勝手知ったる飯屋のように味噌汁、魚と、蠅避けケースすみっこで生だか茹でだかわからなくなっていた玉子の笊から一つ掴みだして欠伸する、その傍で
「おーいおじさん雑巾くれ、大佐
―――
じゃない隼人が吐いた」
虫がいた動いてる、など言いつつ職員が騒いだから
ええよせよせ新聞紙とチリシ使いなと古風な言い方をする食堂の担当は戦前の人だった。俺達の戦っていた時みたいに。
ここ暫く、ネーサーには迷い猫がいるという。トカゲや鬼を退治していた時のように、仮の名前を一から考えてやるほどの暇もなかった頃のように、間に合わせの名前をもらって。犬だったら俺で猫だったらあいつというざっくりしたのでもないし、そうして存在を認めてやらなければ急に思い立ってそいつらを木箱や段ボールに詰めて町役場の処分場に持ち込んでしまうほど参っている者は流石にいないようだったが。
今の二号機のお嬢さんの名前をもらってないのかと聞けば、ネオゲッター二号機は空戦リーダーだからお前の色をもらったんだよ、赤猫は火事や放火魔の隠語だしオレンジ・キャットは粗忽者のことだから合わないにも程がある、と周囲も当人もな、と。そんな応えは「お前の色を」のところで突然の臨界点が来てそれ以上入らなかった。
そんなところに先日昔のやり方で「おう隼人じゃねえか」と俺が猫を呼んでこね回したから、以降猫はとりあえずみな「隼人」で、様々な条件を満たした黒猫が「大佐」に昇格するという「遊び」が所内にできてしまっているらしい。
どうだお前もゲロ吐いて頭がさえたか美人になったか、じゃああいつが帰るまで一緒にいようか隼人
そう話しかければふわふわした白い毛玉が、人の道着の中に爪を引っ込めず探検に行ってしまうから、その冷たくつべつべした感覚と共に透き通る爪でえぐられた俺はうはっと変な笑い声を挙げる
ぐいぐい尻を押し付けて親愛の情を示す隼人にああなんて恰好てめえからしやがるなど言っていれば
そこらの因習村以上に度し難いものを目にした顔の 一文字 號
●
暴風警報が出たらお休みなんだってさ、あした
ええ、じゃあまだ休校のお知らせは来てないのかい?こんなになってるってのに?
蠟燭の灯りだけが頼りの闇の中、驚きあきれた竜馬の声がある。ファミリーサイズのアイスのカップの底からテーブルスプーンでじか食いしていた彼の、だったが。
かつての結核病院とその傍の私邸の敷地を引き継いだ早乙女研究所だったから、軽井沢の別荘地帯よろしく、樅や松等の根の浅い木が多く、本日台風ともなれば、研究所はともかく早乙女邸は電線が倒木にやられたまま雨に降り籠められている。八月のおしまいの日曜日。
トカゲ野郎たちならこんな空模様は大喜びで動いたもんだったけどなあ、あいつらはどうかな、人間社会にもぐり込んで知らん顔するあいつらは。そう言いつつ隼人がラジオから聞こえる情報から、天気図をさらさらと卓上のノートに描く。
「積乱雲ってなに?」と博士に尋ねることもあった竜馬に一日以上の長のあった隼人は、自分の学校での事件があったあの日以来、そんな風に空の相を読み新聞を広げて敵の気配に敏感だった。この夏はもっぱら元気少年の自由研究の手伝いで、「天気予報と新聞の天気図とでわかること」なんていう呑気だが中学生以上の事を、それと気付かずやらせてしまっているのだが。八月の終わりも終わりだ、突っ込む暇なんぞあるものか、で。
さあ台風の足がノロマになってきてるぜ、こういう時は次はなんだい?
覚えたよ!この台風、進路を変える気だ!
闇の中オレンジの灯火の中、楽し気な声、すくなくとも今は。
冷蔵庫から救出されてきた客用アイスは、彼らで食べてしまっていいと言われたから。
ああ、だけど風がぜんぜん涼しいな、これは海の上の熱気を持ってくる台風が弱っちいんだ。明日は登校かな元気ちゃん
えええーとの声をほったらかしにして少し笑いながら「秋が来るな」と隼人が言ったしずかな声を、竜馬は舌の上溶け果てる甘いものとともに闇の中嚥下した。
夏の終わり 雨颱風 キャンドルナイト。
●
「台風一過だな」
一夜明けた玄関口の石畳は、風雨に好き放題されたいろんなみどり葉が赤いレンガに貼り付いて鮮やかだかけばけばしいんだか。
濡れそぼって朝日を受け輝く庭に出てみれば、数日前までの日差しと熱気と湿気の中を耐えるように泳ぐように、熱い寒天の中を歩いてたようなのが嘘みたいにからりと、そして強い風が吹いて。
「ゆうべまで押し合ってた前線が下がったんだ」
わかるよ、この気持ちいいの北の空気でしょ隼人さん!
得意げに言う元気ちゃんの傍ら、御名答、と笑って返した後は眠そうにしている早朝の隼人が、不意に昔のつれなかった頃の彼の背に重なって見えて、それであの頃の空気や匂いやいろいろが急に蘇る。今、風が吹いたから、そうだ。春の学園のグランドで、男も長い髪はあんな風にきれいになびくものなんだなとか、当たり前のことを物珍しく思ったとか、うなじを白く露わにした風に何故かぎょっとしたとか。しかしあれは物珍しいとかぎょっとしたじゃあなくて、つまるところ
「荒っぽくてけしからん、だがいい風だ、そうじゃない?リョウさん?」
「えっ、い、いや俺はなにもそんなつもりまでは」
一丁前に腕組みしてそう判じてみせた子供に、過去の自分を言い当てられた気がした彼がひとり勝手に大いに慌てた。
なんだその女子生徒のスカートの裾でも揺らした風に言うような?
―――
神隼人の後ろ髪は、無印第一話からちゃんと動かされている、だけのお話である
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