ニシナ
2024-08-31 14:24:01
27671文字
Public チョイダリ
 

きみのとなりに(チョイダリ/弟たち)

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05



「そうだったんですか、それは大変でしたね」
マサくんは突然の電話にもかかわらず、いつものように穏やかに対応してくれた。
「それで、リコさんはどうしたんですか?」
「相談に乗ってくれてありがとうとは言ったけど、結論は話してないよ」
「それならよかったです。当事者として、そこは一番最初に聞きたいと思っているので」
「あっ、そうだよね……ごめん」
 何も考えずに現状報告してしまったけど、マサくんの気持ちに立ったらそれは決して気分のいいものではないだろう。
もう一度謝ると、マサくんは
「いえ、でもそうやってリコさんが向き合ってくれたことが嬉しいです」
と優しすぎる返事をくれた。
「でも、お試しで他の人と付き合うのはやめてくださいね。変なことけしかけるなってカズイに怒られるだろうし、俺も嫌です。」
「それはないから大丈夫だよ。納西くんもそう言うつもりで言ったんじゃないと思うし」
「そうでしょうか? その人、案外本気かもしれませんよ」
珍しくマサくんが反論してくるので、わたしは「そうなのかな」と思ってしまう。
「でも、リコさんが安易に流される人じゃないことはわかっていますから、心配はしていません。こうやってなんでも話してくれていることで俺は信頼されているっていう
自負もありますし」
長く一緒にいるからこそ、わたしのことを分かってくれているマサくん。
……でも、もしわたしがマサくんじゃなくてカズイを選んだら、もうこうして話したり、三人で遊んだりできなくなっちゃう?」
わたしはふと気になって変な質問を投げかける。それはとても意地悪な質問だったようで、電話の向こうのマサくんは少しだけ黙ってしまった。
……もしそうなったとしても。あくまでもしもの話ですけど、変わらないと思います。
リコさんやカズイがそれを望んでくれるなら、ですけど」
「それじゃあ、マサくんは?」
「少しだけ時間がかかるかもしれませんけど……俺は大丈夫だと思います」
自信はないですけどね、とマサくんは付け加えるように言った。
「正直なところ、自分でもわからないんです。言わなければ変わらなかったのかな、と何度も考えました。それはいい意味でも悪い意味でも」
 マサくんはもしかして後悔しているのかな、と思っているとエスパーの様に
「自分で言ったことは後悔していません。ずっと考えていた事ですし、その行動によってどうなるかもある程度理解した上でのことですから」
と言ってくれる。
「そっか……ずっと」
「ええ。ずっとです。言って終わることは怖いですけど、言わないまま終わる可能性の方がずっと高く感じて、俺が我慢できなくなったんだと思ってください」
 そこまで想ってくれていたなんて全然気が付かなくて、わたしは急に申し訳ない気持ちになってしまう。
「気が付かなくって、ごめんね」
「謝らないでください。まだ結論も聞いてないですし、俺は今までずっと、リコさんには気付かれないようにしていたつもりです……もっとも、カズイにはさんざん言われてましたけどね」
『弟(俺)の前でねーちゃん口説いてんじゃねーよ』というカズイのツッコミは、確かにいつもマサくんがわたしだけに優しくしてくれたときに発動していた。
あの時はまさか、あれが本気のツッコミだとは思っていなかったけど。
「話は変わりますけど、オープンキャンパスの件はよろしくお願いしますね」
「あっうん、うちの大学にも来るんだよね? 案内なら任せてよ」
「ありがとうございます。カズイは案内なんていらないって言ってたんですが、少しの時間でも俺が会いたくて」
 マサくんの直接的なアタックにわたしは面食らってしまう。
「弟の親友からのレベルアップを目指しているので、それくらいは言わせてください」
楽しみにしてますね、というマサくんとの通話を終えた後、怒涛のアタックに目の前がクラクラしてしまった。

『変わらないと思います。リコさんやカズイがそれを望んでくれるなら、ですけど』
どんな時でもカズイやわたしの気持ちを優先してくれるマサくん。
彼がそう言った時の気持ちを思うと、わたしは胸のあたりがぎゅっと苦しくなるような気がした。

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