ニシナ
2024-08-31 14:24:01
27671文字
Public チョイダリ
 

きみのとなりに(チョイダリ/弟たち)

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01



 きっかけは、確か夏休みだったと思う。
お盆を少しずらして帰省したわたしは、義弟のカズイとカズイの親友であるマサくんと三人で駅前のゲームセンターに遊びに行った。
わたしが上京して少しした後に大きな改装を行ったというそこは、雑然とゲーム機が並べられていただけの場所からまるでテーマパークのように変化していた。
「これなら一日遊べちゃうね」
床から天井まで、まるで別世界のようになっているそこで思わずそう呟くと
「ねーちゃんならそう言うと思った」
「今度、朝からずっと遊んでみるのもいいかもしれませんね」
と二人は笑顔で同意してくれる。
その様子は上京する前と変わらなくて、わたしは心のどこかでホッとしてしまう。大学に入ってからの数ヶ月、わたしを取り巻く環境はまるで変わってしまった。
それは夢見ていたことでもある反面、時間の流れの速さについていくので精一杯だったような気もする。
 大きなホールのような講堂で受ける授業。
 わからないことだらけだったカフェのアルバイト。
 コンパやバイトで知り合う色々な人たち。
そのどれもが新鮮で楽しいことばかりだけれど、こうして長く慣れ親しんだ街で気心の知れた人たちと過ごす時は自然な自分でいられるような気すらしてしまう。

「ほら取れたぜ、ペンペンのぬいぐるみ」
「リコさん欲しいって言ってましたよね? よかったら僕のもどうぞ」
喉から手が出るくらい欲しいと思っていたキャラクターのぬいぐるみをクレーン
ゲームで難なくゲットした二人は、一緒にプレイした時にいくら頑張ってもびくともしなかったわたしに躊躇なく渡してくれる。
「マサくんまで、いいの?」
「ええ。ペンペンもリコさんにもらってもらった方が幸せだと思いますから」
「くぅぅ……優しさがしみる……
マサくんが差し出してくれたペンペンをうやうやしく両手で受け取ると、横から頬にぐい、ともう一匹のペンペンが押しつけられた。
「なぁ、俺も取ってやってんだけど」
「だってカズイが取ってくれたやつは家に置いとくでしょう? 一緒に持って帰ればいいじゃない」
そう告げるとカズイは少し驚いたように目を丸くする。
「え、持ってかねぇの」
「うん。だってこの大きさのペンペン、二匹も部屋におけないよ」
学生向けの小さなワンルームに余裕はあまりない。
「ちぇー、俺のペンペンは留守番ってことかよ」
そう言うともう一度ペンペンを私の顔に押し付けてきたカズイは、ぶすっとした表情で大きな袋にそれをしまい始める。
「やっぱり、ワンルームって暮らしにくいですか?」
マサくんが聞きながらカズイと同じ大きな袋を私に向けて広げてくれる。
「あ、ありがと。うーん、慣れちゃえば狭いのはあまり気にならないけど……あ、でもユニットバスはまだ慣れないかな」
「そうなんですね」
ペンペンをしまいながらマンションのユニットバスの内装を思い出す。
入り方が良くわからなくて試行錯誤を繰り返した春、電気代の事を考えて換気扇を止めたことで起きてしまった足ふきマットのカビ……
数々の予想もできなかったハプニングに意識が遠のきそうになったところでふと
マサくんの質問の意図に気付き、わたしはマサくんを見上げる。
「そういえば、マサくんもこっちの方の大学目指すんだっけ。ひとり暮らしするの?」
「ええ、そのつもりです。決まったら色々相談に乗ってくださいね」
 マサくんは柔らかく微笑む。
「もちろん! 物件とか見るなら付き合うよ~」 
マサくんも大学生になるのかぁ、と感慨深く思いながら話していると、横からカズイがつまらなそうに私の腕をつつく。
「なんだよ二人で盛り上がって。俺だってそっち行くの知ってんだろ」
「だってカズイはこっちに来たら一緒に住むでしょう? 物件探しはおねえちゃんに任せて受験に集中した方がいいよ」
「な……勝手に決めんなよな」
ムッとした表情のままカズイはそっぽを向いてしまう。
マサくんはそんなカズイをからかうように「よかったね、カズイ」と微笑んだ。

「でも、二人が上京してきたらまたこうして遊べるね」
「そうですね、リコさんがそう言ってくれるならぜひ」
……どうだかなー、そう言ってねーちゃんが一番忙しかったりするじゃん」
カズイとマサくんと過ごすのはとても居心地がいいというか、安心できる。
来年になってからも、彼らが大人になってもずっと、こうして集まって三人で過ごせたらいいな、とわたしは思っていた。
――二人の気持ちも知らずに。


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