ゆの
2024-07-13 16:43:51
57084文字
Public あつむとあの子
 
639508

かけらの紡ぎ

あつむとあの子の本編連載 (サイト掲載:2023/08/19~2025/3/23完結)
隣の席の宮くんとゆっくり進む両片思いの話。サイト掲載済。
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!夢主の設定が少し強めです。苦手な方はご注意ください。

4/4 17~21話(17~21ページ目)UP !完結



04


 まだ夏本番は迎えていないはずなのに、どうしてこんなに暑いんやろう。あと一限を残したところでどうしても飲み物が欲しくなって教室を出ようとしたら、なあ、と声をかけられた。顔を上げると知らない女子の、先輩、なんだと思う。知らん人やけどきれいな人やなあと思っていたら、侑居る?呼んでくれへん?と言われた。どこか人を見下すような、そんな感じのよくないものを感じるもの言いに少し嫌なものを感じたけれど、無下に断ることもできなくて教室の中に引き返した。

……宮くん」
「なに、どしたん?」
「お客さん来とるよ。宮くん呼んでって」
「は……うわ」

 扉の方を見てげぇ、とあからさまに顔をしかめた宮くんの表情は見えているはずだけれど、そのきれいな先輩はにっこりと笑ってこちらに手を振っている。明らかに面倒くさそうな顔をした宮くんのことは気にも留めていない様子だ。そんな二人の温度差に、隣の席になって初めて話をした私でもそれとなく聞いたことのある話をいくつも思い出して、こういうことかと腑に落ちた。
 なんでもいいけど早よ行った方がええんちゃうかな、というか巻き込まんでほしいなと少し失礼なことを思っていたら、宮くんはこれでもかというくらい大げさなため息をついて教室の出口へ向かっていった。
 あれ、彼女やろ?と言ったのは宮くんの側にいた銀島くんで、もう〝元〟らしいけど、と言ったのは角名くんだろう。宮くんと一緒にいた二人のそんな話が、聞きたかったわけではなかったけれど耳に入ってきた。それに何となくつられてそちらに意識をやってしまって少しだけ後悔した。
 明らかに近い距離。宮くんは距離を置こうとしているように見えなくもないけれど先輩の方はそうじゃなく、見ようによっては身体を押し付けるようにも見えた。入口の前であの調子なのを見てしまったからなのか何となく気が逸れて、水分補給は早々に諦めて自分の席に戻ったもののなんだか心がざわざわと落ち着かない。あんな場所でよおやるなあ、とあやちゃんがあきれたようにぼやいたその言葉には何も答えられなかった。
 ちょっとかわいくて、スタイルよければ誰でもええんやて。
 去年同じクラスだったその子が何かを含んだように言ったのを思い出した。目を腫らしたその子が少し離れたところにいた私らにも聞こえてるくらい、まるで言いふらすように言ったその言葉が今になってよみがえる。あれは本当なんやろうか。今起きたことを振り返ると事実なような気もするし、けれど何か違うような気もするし。
 ——違う、て思いたいだけかもしれないし。
 そんなことをぐるぐると考えてしまって、思わずもう一度宮くんたちがいる方に視線をやるといつの間にか二人の姿はなくなっていた。話をするにもこの場でするものじゃないだろうから、きっとどこかしらへ移動したんだろう。知らないその人と一緒にいる姿が見えなくなったことにどこかほっとして、そして主のいない席を見てまた落ち着かない気持ちになった。
 予鈴が鳴って、いつの間にか角名くんは自分のクラスへ戻ったのかいなくなっていて、銀島くんも自分の席へ戻っていた。なのにいつまで経ってもわたしの隣の席にいるべきその人だけが、戻って来ない。早よ戻ってこないかな、とも戻ってこなければいいのになんて思う。
 ——なんでやろ。なんだかいろんなことがもやもやとする。





 どこか落ち着かないままその日最後の授業が終わった。宮くんは当然と言えばそうだけれど、授業の途中で戻ってくることはなかった。
 このまま、顔を合わせずに今日が終わるんかな。その方がいいようなそうじゃないような。またぐるぐると同じことを考えながらパタリと机に突っ伏したら、ふは、と後ろから気の抜けた笑い声が飛んできた。

「珍し。何そんななっとんの」
……なんも」
「そう?」

 顔をあげると物珍しいものを見たような顔をしている宮くんがいつの間に戻ってきたのか席についた。誰のせいやと。理由もわからないくせにとりあえず目の前の宮くんに聞こえないようにこっそり悪態を吐いたら何がおもしろいのかこちらを向いたまま笑っていた。今はちょっとだけその顔が腹立たしい。

「彼女さん?と何してたん?」
「なんもしてへんわ。てか元、な」
「元……

 そ、元。と何を思っているかわからない顔で小さく呟いた。曰く、なんかちゃんとせななて思て、と。それは何に対してなんだろう。そう思って何が?と聞いてみたらなんとも言えない顔をした宮くんは何でも、と言って席についた。

「なぁんか、今はバレーだけしてたいて思うわ、って」
「まあ、それは私も思うけど」
……ほんま?」
「今、自分に必要って思うことに一生懸命になるのっておかしいことやなくない?」

 私はそう思うけど、と言うと一瞬目を見開いた宮くんがそのとおりやなと言って笑ったその顔がどこか吹っ切れたような表情でなんだか安心した。私がそう思っていることだけど、学校でみんなとわいわい過ごすのも本当に楽しいと思う。けれど。それを他の誰にも言うつもりはないけれど、もしも叶うならスケートのことだけを考えて生きていたいと、思った通りのことだけを言っただけだった。だから宮くんが同じように思ってくれたことがなんだか嬉しいと思う。
 噂はあくまで噂。今はそういうことにしておこう。本当はただの噂ではないかもしれないけれど、少なくとも今私の目の前にいる宮くんは私にはそういう人には見えないから。私が今見ている、その事実だけを受け止めたらいいのかな、とそう思うことにした。