ゆの
2024-07-13 16:43:51
57084文字
Public あつむとあの子
 
639508

かけらの紡ぎ

あつむとあの子の本編連載 (サイト掲載:2023/08/19~2025/3/23完結)
隣の席の宮くんとゆっくり進む両片思いの話。サイト掲載済。
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!夢主の設定が少し強めです。苦手な方はご注意ください。

4/4 17~21話(17~21ページ目)UP !完結



03


 お昼休み、食堂から教室に戻ると珍しく宮くんに珍しいお客さんが来ていた。
 いつもは宮くんの片割れくんと一緒に来ていることがほとんどな角名くんが意味深な顔で笑いながらどうも、と窓に背を向けてこちらを向いて席に座っていたいた宮くんの横でしゃがんでいる。ひとりで来てるの珍しいなあと思いながら久しぶり、と返すと、治はちょっと用事で来てないよ、となんも言うてないのに教えてくれた。

「角名くんは人の心が読めるん?」
「いやだって顔に書いてあったから」
「そんな分かりやすかったん……
「まあね」

 確かにちょっと気にはなったけれど、なんでわかったんやろ。私がそんなに分かりやすかったんか、それとも角名くんの察しがよすぎるのか。去年も何となく話すことが結構あって、その時も思ったけれど、相変わらずよく人を見ているなあなんて考えていたら、これ、と何かを手渡された。反射的に受け取ったそれはスマートフォンだ。画面には何かの動画の再生画面が表示されていた。

「これは……?」
「週末の試合の動画。見る?」
「おい角名ぁ!」
「まあいいじゃん」

 急に慌てて角名くんを威嚇する宮くんに、見て大丈夫なんかな……と思っていたら、大丈夫と言ってにやりと笑う角名くんが私の手元にあるスマートフォンをどうにか奪取しようとしていた宮くんを阻んだ。
 見たいか見たくないかで言ったら、見たい。結構、いやだいぶ。いろんな宮くんをもっと知りたいという好奇心と、そういえば去年はなんだかんだと話題になっていたバレー部の試合は見られなかったんよなあという純粋な興味本位で、んもぉ!とちょっとかんしゃくを起こした子どもみたいになってしまった宮くんを尻目に、ありがたく見せてもらうことにした。
 再生するとちょうど試合開始のところで、侑のサーブからだよと角名くんの解説が入る。コートの後ろの方――エンドラインと言うのだと後から宮くんが教えてくれた――に向かって、そしてくるりと振り返った宮くんが相手コートを真っすぐと見据えて、左手を上げる。その手がぎゅっと握られると、歓声がぴたりと止んだ。

「えっ、なに!すごいこれ!すご!」
「だって、侑。よかったじゃん」
……うっさいわ……

 余計なことしよって……とぼやきながらも止めるのを諦めたらしい宮くんにちょっと申し訳なさを感じながら続きを見る。勢いよく上げられたボールをタイミングよく踏み切ったジャンプで合わせて、力強く打たれたボールが――ネットの白帯にすごい音を立てて当たってコートにコートに落ちた。
 流れを知っていただろうにあーあ、と半笑いでそう言った角名くんに宮くんがすごい勢いでにらみつけて舌打ちをした。この二人、仲ええのか悪いのかわからへんなあと思いながら二人の顔を交互に見ていたらむっとした顔をして宮くんがぼやきはじめた。

……だからいややってん、最初っから見んの」
「なんで?めちゃめちゃすごかったよ?」
「ミスったん褒められても嬉しくないし微妙やろ」
「まあ……でもほらこれ一本目やから……やない……?」

 ハァ?と顔をしかめて宮くんが言う。でもちょっと違うかもやけど、どんな小さな試合でも一本目のジャンプは着氷するまでめちゃくちゃドキドキするし、なんなら緊張してないって分かってるのに一番滑走は私もほんまに苦手やし。そういうもんか……?と宮くんはピンと来ない顔で首をかしげるけれどそういうものなんやないかなあ、と思う。そういうの、気にしないでプレイできる度胸はちょっとうらやましい。
 宮くんだったり角名くんだったり、ちょいちょい一時停止と横槍を入れられるのを聞きながら見ている動画は試合展開が少しだけ進んでいて、ちょうとタイムアウト開け――これは角名くんの解説だ――で稲荷崎がサーブを受ける側だった。
 素人が見てたら受けたら吹っ飛ばされてしまいそうなくらいの威力で飛んでくるボールがいとも簡単に上がる。その高く上がったボールが落ちるその真下にあっという間に宮くんがいて、そこからまたぽぉんときれいにボールが上がったのを見てきれい、と思わず声をもらしてしまった。たぶん、実際はもっと早くテンポよくあげられているんだろうと思う。けれど宮くんの手にボールが吸い込まれるみたいに納まった瞬間もう手から離れて飛んで行くその数秒間、まるでスローモーションのような映像にすっかりと見惚れてしまった。
 最初のサーブもそうだったけれど、まるでボールを操るみたいにトスを上げる姿に心臓がぎゅっとなる。なんだか、ずっと昔に初めてテレビでスケートを見た時と同じようにわくわくして、どきどきして、目が離せなかった。そんな小さな頃のことを思い出しながらすごいねぇとつぶやいて、画面から目を離して顔を上げた。

真嶋さんさぁ……
「え、なに?」
「いやぁ期待通りの反応をありがとう」
「えぇ……どういう意味なん?」

 うんまあ、と意味深に笑う角名くんに対して宮くんはなんとも言い難い渋い顔をしていた。何か気に障ることを言ってしまったやろか。それよりもやっぱり見られるのは嫌やったんかなあ。そう思ってそろそろお昼休みも終わるし、終わりにした方がいいかなとスマートフォンを角名くんに返した。

「もういいの?」
「うん、ありがとう」
「遠慮しなくていいのに」
「角名はもう自分とこ戻れや」

 たいそう渋い顔をしてそう言った宮くんにはいはいまたね、と言いながら角名くんはなんだか楽しそうに自分のクラスへ戻っていった。まだ渋い顔をした宮くんと取り残されてしまってちょっと気まずい。そんな顔するくらい嫌やったんかな。なんだか申し訳なくなってなんかこめん、と宮くんに言ったら何がやねん、とすごまれた。いやなんでやねん。

「見られるのいややったかなって」
「べつに嫌ちゃうけど……
「ほんま?大丈夫やった?」
「別に……まあでも見るんなら直接見に来たらええやん」
「試合とか練習って見に行けるん?」
「試合はまあ……ええんちゃう?」
「そうなんや、なら見てみたいな」

 絶対、生で見た方が楽しいもんねえ。と、そう言ったら宮くんは一瞬黙って、好きにせえとそっぽを向いてしまった。

「なんなん、やっぱ見られたないんやん!」
「ちゃうわ好きにせえ言うたやん!来いや!」
「そやってすぐ怒るから……
「怒ってへんわ!」

 ええから見に来いや。本当に見に行っていいのか駄目なのか分からないもの言いの宮くんの考えてることはちょっと、いやだいぶ分からへんかったけど。
 いつか、見ているだけで胸が高鳴るようなあのプレイを直接この目で見ることができたらなと思った。