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ゆの
2024-07-13 16:43:51
57084文字
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あつむとあの子
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かけらの紡ぎ
あつむとあの子の本編連載 (サイト掲載:2023/08/19~2025/3/23完結)
隣の席の宮くんとゆっくり進む両片思いの話。サイト掲載済。
!名前変換しない場合はデフォ名が表示されます。
!夢主の設定が少し強めです。苦手な方はご注意ください。
4/4 17~21話(17~21ページ目)UP !完結
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兵庫から飛行機で約二時間。景色も気候も全く違う場所に降り立って思わずうわぁと声を上げてしまった。国内外通じて寒い場所での試合は初めてではなかったけれどこれまで縁のなかった北海道、時期も相まってなのか初めての寒さと思った以上の真っ白な景色に何故だか気持ちが高揚するのが自分でもわかった。
「すっ
……
ごい! 真っ白や! さむい!」
「北海道初めてやったっけ、珍しいな
あかり
ちゃんがそんななるの」
寒いところは初めてではないよなぁ
……
と先生がこぼした声に我に返った。遊びに来てんのとちゃうのに、子どもみたいにはしゃぎすぎた。ごめんなさい
……
と振り返ればええのよ、と何故か楽しそうに言う。
「いつも通り元気ならええのよ」
「うう、もうちょっと落ち着きます
……
」
「今くらいの方がこっちは安心するわ」
昨日の朝はどうしようかと思ったもの、と言われて何も言えなくなった。あちらこちらで心配をかけてしまっていたのかと思うと頭を抱えたくなったけれど、そういうこともあるわよねぇと肩を抱かれた。そういうこともたくさん経験して強くなるんよ。大丈夫。そう言った先生の顔を見つめれば一歩ずつ行きましょ、と笑いながら言ってくれた。
心強いなぁと思う。そして抱かれた肩の温かさを感じて、ふと昨日のことを思い出した。今はまだ授業中だろう。すっかり見慣れた、少し背を丸めて肘をついて、どこを見るでもなくぼんやりとしているいつもの宮くんの姿が目に浮かんで少し笑ってしまった。
ああ、大丈夫や。笑みとともに漏れたいつもよりも白い息が消えるのを見つめながらなんとなくそう思った。
空港からの移動で電車に乗り換えて、やっと落ち着いたところでコートのポケットで携帯が震える。誰やろ、と画面を見ると着いたん? と一言。誰からかはすぐに分かった。いや授業中やん
……
と思わず画面に向かってツッコミを入れると、それを聞いていたかのようにぽこぽこと通知が増えていく。めっちゃねむい。そっち寒いん? 雪あるん? なんか動物おった? 美味いもん食うた? 既読もつけてへんのにどうして。まるで小学生の質問攻めにあってるような問いかけに呆気にとられる。
授業中ちゃうの、と返せば間髪入れずに真面目か! とひと言スタンプとともに返ってきた。真面目に授業を受ける気のなさそうな返信にまた当てられても知らんよと思いつつ、めっちゃ寒い、真っ白やった、今電車乗っててホテル向かってご飯の後に公式練習行く。そう空港のエントランスで撮った真っ白な景色の写真とともに送ったところで間もなく終点のアナウンスが流れて顔を上げた。車窓の景色は相変わらず白い。いつもと違う場所にいるのをようやく実感して本番が刻々と近づいているのを感じる。明るいままの画面を閉じようと目を落とすと通知が増えている。試合って感じやな。もう大丈夫やと思うけど。そこで途切れたらしいメッセージにやっぱり先生に見つかったんやろかと思いつつ、ポケットに携帯をしまって電車を降りる準備を始めた。
本番はまだ、といっても色々と目まぐるしい。宿泊するホテルについて間もなく会場に向かって公式練習、からの開会式だ。リンクを使えるまでは少しだけ時間に余裕があって、全国に散らばる仲間でありライバルたちと束の間の再開を楽しんだ。
「
あかり
ちゃん! ひさしぶり~!」
「ひさしぶり! グランプリの試合見てたで~かっこええねあのプロ」
「でしょ! めっちゃお気に入りなの~」
「衣装もええんよなあ、めっちゃ似合っとった」
今シーズン一緒にシニアに上がった所謂同期の子と盛り上がっていると、同世代の子たちが集まってきた。せっかくだからみんなで写真でも撮りましょうとなってみんな各々携帯を取り出した。私も、とそのタイミングで取り出した携帯に通知がひとつ。誰やろとその通知の言葉をを読んで、えっと小さく悲鳴を上げてしまった。
「何~? どうしたの?」
「えっ、あっ、なんでもな
……
」
「大丈夫? 顔真っ赤じゃん
……
、あっ」
「待って! ほんまに!」
やだいつの間に?! 彼氏? 優しい~! どんな人? いつから? 写真無いの?! 等々。とっさに画面を伏せたけれど見えてしまったようで目ざとい子たちが根掘り葉掘り聞いてくる。参加選手全員ではないにしろ女子がこれだけ集まるとさすがにかしましい。ほんまに違うん、ただの同級生で、同じクラスの、となんとか抵抗してみたけれど取り付く島もなかった。否定する私をよそに想定外に盛り上がってしまって、誤解が解けたのかどうかあやしいまま公式練習の時間が近づいてようやくその輪が解散となった。今日、質問攻めにあう日なん? 宮くんの質問はまだかわいらしいものやったなぁとため息をついた。
「おつかれ、大変だったねぇ」
「そう思うなら助けてほしかった
……
」
「何だかんだみんな好きじゃんそういう話。それにしても本当優しいね彼氏」
「やからちゃうんやって!」
ホントに違うのかぁ
……
と言いつつ疑いの目をかけてくるその子に違いますぅ、うちの学校部活やってる子多いしクラスうみんな仲ええし応援してくれてんねんもんとまるで言い訳みたいな反論をしたら、いやうちもですしと返されてしまった。
「でもさ、ただの同級生って思ってる相手に〝何もなくてもいつでも連絡して〟なんて言わなくない?」
「そんなこと
……
なくない?」
「無くなくないよ」
あとさ、頼って欲しいんじゃない? ちゃんと返信してあげなよ、待ってるんじゃない? と意味深に笑った彼女がいいなぁ、と言い残して練習へ行ってしまった。
待ってるんかな
……
と独り言ちながらまだ開けていないその通知を見つめる。開いてちゃんと読んでしまったらうぬぼれてしまいそうだ。けれど。それじゃあ今までと同じだなと思い直す。
練習を始めるまであと少し。宮くんはもう部活に行ってしまっただろうか。それでもいいから聞いてほしい。なんでも、と言ってくれたその言葉に甘えさせてほしい。やっぱり緊張するしみんな上手だし、うまくやれるか不安だし。それでも、練習とは違うそのひどくひりついた空気の中に居られるのはやっぱり楽しいと思ったこと。
——
そしてそこに挑む、弱気になってしまいそうなわたしの背中をほんの少しでいいから押してほしいこと。
いつものように茶化すように笑って、それでも側で頑張れと言ってくれるとそう信じて返信ボタンをタップする。送信が完了するのを見届けて画面を落として立ち上がった。すぐに返信は無くてもどうしてか心強い。
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