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ゆの
2024-07-13 16:43:51
57084文字
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あつむとあの子
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かけらの紡ぎ
あつむとあの子の本編連載 (サイト掲載:2023/08/19~2025/3/23完結)
隣の席の宮くんとゆっくり進む両片思いの話。サイト掲載済。
!名前変換しない場合はデフォ名が表示されます。
!夢主の設定が少し強めです。苦手な方はご注意ください。
4/4 17~21話(17~21ページ目)UP !完結
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この何か月かでいろんな顔を見た気がするけど、まだ知らない顔があるんだなあとやっと動き出した頭でそんなことをのんきに思う。当の宮くんは何も言わない私を見てさらに焦っている。ここまでひどく転んだのは久しぶりだったけれど、これは結構日常だから心配しないでほしい。そう伝えようとしたけれどそれを遮る宮くんの声でかき消されてしまった。
「大丈夫か⁈」
「だいじょうぶ
……
それよりなんでおるん
……
?」
「え、なんでて、それは、アレや
……
」
はっとした顔をした宮くんが気まずそうに顔を逸らす。何かをもごもごと言っているようだけど残念ながらその声は届かない。たくさんのどうしてが頭を駆け巡って、何とか立ち上がったそのまま後ずさる。ゆっくりと滑りながらリンクのちょうど真ん中らへんにたどり着いたところでひどく転んだ衝撃と、思いもよらない人がそこにいたという驚きで熱くなった身体がようやく落ち着きを取り戻すようにすうっと冷えていくのを感じた。
おい、こっちこい、こら! リンクサイドから叫んでいる宮くんの声が飛んでくる。誰もいない静かなリンクに響き渡るその声がなんだか可笑しくて思わず笑ってしまう。それに気付いたのかさっきよりも声を張ってくるから、いよいよ声を出して笑ってしまった。
「おいこらほんま、いい加減こっち戻ってこいや!」
「ふ
……
、ごめ、まって
……
」
「おま
……
なに笑っとんねん!」
「ごめんて
……
、待ってほんま」
早よせえ、と急かすように呼ぶその声が、語気は強いのに全然怖くなかった。
さっき昇降口で向けられた視線のように何もかも無くなってしまったかのようなあの恐怖は一つもなくて、笑っていたはずなのに気付けば涙がぼろぼろと落ちてくる。隠すことができなかったそれを拭いながらゆっくりフェンスの方に向かうと嘘やろ
……
と小さく声が聞こえた。
「笑うか泣くかどっちかにせえって前も言うたやろ」
「っごめ、なさっ
……
」
「謝るんならとりあえず泣き止めや」
「ごめ
……
みやくん、ごめんなさい、ひどいこといっぱい言ってごめん
……
」
もっと言いたいことがあったはずなのになんとか声を絞り出したその言葉だけで精一杯だった。何かに縋らないと下を向いてしまいそうで手をついたフェンスを握りしめる。ごめん、と言い切ったその瞬間また視界が滲んでぼやけていくのを感じて頼むから涙はこぼれないでほしいと願った。泣いて縋りたいわけじゃなくて、ちゃんと話をしたいから。
「
……
話ってそれか?」
「え」
「メッセージ、くれたやろ。ちゃうの?」
「うん、そう
……
」
「せやろ」
せやったらはよ泣き止めや。頭の上から降ってきた声は今までで一番優しくて、今の私には逆効果だった。止まれと思う気持ちの強さに相反するようにぼろぼろと情けないくらいに涙が落ちる。宮くんはあの夏の日みたいに慌てる様子も全然なくて、しゃあないなあと言って笑った。
「
あかり
ちゃん、そろそろ整氷入れるから上がれる?」
「
……
っ先生、もう一回! もう一回だけ曲かけお願いします!」
「んー
……
いいけどそっちの彼は大丈夫?」
「あ、そか
……
」
私が泣き止むのを待っていてくれた宮くんと落ち着くまで何でもない話をしていたら、絶妙なタイミングで先生が戻ってきて、閉館の時間が近くなったことを知らせてくれる。今日は何も出来ていないことに気が付いて思わずもう一回をお願いしたけれど、宮くんに練習を付き合わせる訳にはいかないなと思い直した。
「なに? やらんの?」
「うん、もう遅いし宮くんも帰り遅なってまうし今日は終わりにする」
「ええやん、
真嶋
がスケートすんの見てみたい」
ええ機会やしと宮くんがにやりと笑う。その顔を見て俄然やったろ、の気持ちになるから不思議だ。
「ええとこ見してや」
「まかせて!」
「言うやん、期待してんで」
宮くんの言葉を背にリンクの真ん中へ向かう。さっきよりも脚が軽くて滑る気がするのはさすがに現金すぎるなあと自分を笑ってしまう。どの曲にするかは言わなかったけれど先生にはきっとこれだけでどっちの曲かはわかるはずだ。
スタートポジションについて、心を落ち着かせるように小さく息を吐いて曲が鳴るのを待つ。大丈夫、やれる。不思議と不安は全然なくて、今ならなんでも出来るような予感がした。
「
真嶋
が言う〝わたし全然すごない〟はもう絶対信用せんぞ」
「なに突然。そんなこと言うたっけ?」
「言うたわ! あんなん全然すごいやつやんか! もっと自慢せぇ世界チャンピオン!」
「ジュニアのやけども
……
てか自慢なんてせんよ」
「はぁー
……
ほんま腹立つわ」
なんやねんこいつ
……
と信じられないものを見たような顔をして宮くんがため息をついた。自慢したくてスケートしとるわけちゃうし、と言い返せばそうやないわ! とさらに返された。なんやねんは私のセリフだ。
今日の最後のもう一回は、完璧とは到底言えない出来だったけれど大きなミスもなくて今日の中では一番良かったと言えるものだった。滑り終わった頃にはもう閉館時間で、今日の振り返りやらなにやらする間もなく慌てて帰り支度をして帰り道についた。
気付いていなかったけれど先生がちゃんと動画を撮っていて、帰る準備をしている間に送ってくれていたから家でちゃんと見直そうと思いながらまだぶうぶう言っている宮くんを見上げる。ちょうど街灯に照らされた金の髪が綺麗でまるで最初のあの日みたいに目を奪われた。きれい。あの日と同じように声に出さずにいたはずなのに、そう思ったあと一瞬間をおいて宮くんに〝は?〟と凄まれた。
「え、今私声に出てた?」
「
……
なんっやねんお前
……
」
「嫌な意味ちゃうよ」
「せやったらどういう意味や」
「光に当たったら、きらきらしてきれいやなぁって思って」
さっき、街灯のところで、と言ったところで宮くんが立ち止まる。なんだか不機嫌そうな顔をしてでっかいため息をついた。
「ごめん、こういうの言われるの嫌やった
……
?」
「ちゃうけど
……
、おま
……
」
「え?」
「なんでもない!」
もう行くで! と背を向けて早足で歩きだす。何なんあれ
……
と呆けていたら、早よ来いやと足を止めてくれないまま振り返って向こうで叫ぶ宮くんに何が何だかわからないままその背中を追うべく駆け出した。
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