ゆの
2024-07-13 16:43:51
57084文字
Public あつむとあの子
 
639508

かけらの紡ぎ

あつむとあの子の本編連載 (サイト掲載:2023/08/19~2025/3/23完結)
隣の席の宮くんとゆっくり進む両片思いの話。サイト掲載済。
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!夢主の設定が少し強めです。苦手な方はご注意ください。

4/4 17~21話(17~21ページ目)UP !完結



10


「もう……みやくんのことがわからへん……っ!」
「いやミヤアツのこと解るの、片割れぐらいやないの?」

 放課後、教室でのあの出来事にフリーズしていた私に声をかけてくれたあやちゃんと寄ったカフェで思わず喚いた。片割れもよう解ってへんような気ぃするもんなぁ、と言いながらケラケラと笑うあやちゃんに恨めしい視線を送ったけれどあやちゃんにはちっともダメージにはならなくて、むしろネタになってしまった。笑いごとではなく結構な一大事なんですけれど。
 あの後すぐ、宮くんは廊下から聞こえた片割れくんの声に呼ばれて教室を出て行った。じゃあな、また明日と言いながら、ぽん、と朝とは違ってもっと優しく頭を撫でて。それを思い出してまた呻き声をあげてしまった。

「まるでカラフやな、夜が明けるまでに俺の気持ちを当ててみろ~ってか」
「それは超解釈すぎひん……?」

 ちょっと、いや大分違う。そうすると私が寝てはならぬ状態や。そうぼやいたらあやちゃんがそれや!どんぴしゃやんかと大笑いされた。いやそれや、ちゃうのよ。いくら私の今シーズン、その曲で滑るからと言ってもその例えはどうかと思う。そして実は夏のあの出来事以来、本当にちょっとだけ寝られていないことがあるのがくやしい。主に宮くんのことを考えて。夜明けはいつ来るんやろうと考えたけれど一生来ない気がして大きなため息が出た。
 本当に宮くんが何を考えているのか、何を思っているのか全然わからない。うぬぼれてしまいそうだからやめてほしいと、そう思う。私が、もうちょっとこの気持ちを上手く受け止められるようになるまでは――けれど。

……夜が明けたら、どうなっちゃうんやろ」
「せやなあ……、まあ大団円なんちゃう?ハッピーエンドやろ」
「そうなるんかなあ……
「え、そうなった方がええんちゃうの?」

 怪訝な顔をしたあやちゃんにそう言われて考えてみたけれどあやちゃんの言うハッピーエンドが想像がつかなくて、わからへん……とつぶやいたら難儀やなあと苦笑いされる。
 宮くんと私にとっての〝大団円でハッピーエンド〝は一体どんな形をしているんだろう。そう考えてみたけれどやっぱり想像がつかなくて何度目かのため息をついた。


 翌日、宣言通り席替えが行われた。いつもよりざわざわというよりも賑やかな空気の中でくじを引く。ところで先生、毎回これ作ってくるのマメやなあと思いながら最初に触れたその紙をつまんだ。開くとカサリと乾いた音を立てたそれに書かれた数字は7番。なかなかええ場所引いたなあと手元のくじをのぞきこんで先生が笑った。黒板に書かれた座席表を見ると窓際の一番前。一番前なのはさておいて、窓際はちょっとうれしい。
 少しだけ弾んだ気持ちで席に戻ると宮くんがどこやったと聞いてきたのでくじを見せる。真逆やんと言いながら見せてくれた宮くんのくじの番号と座席表を見比べて思わずほんまや、と口に出してしまった。廊下側から二番目の一番後ろ。ほぼ対角線上の位置だった。

「遠いなぁ」
「あ? ……えっ?」
「え、あ、だってほら、真逆やし……
「あー……、なあ真嶋

 無意識に出たその言葉を拾ったらしい宮くんが、えっと声をもらしてこっちを向いた。
 まさか拾われると思わなくてどうしようと次の言葉を必死に探していたら宮くんは一瞬何かを言い淀んで、そしてまっすぐな視線を向けて、さみしいん?とそう言った。

「どうなん?」
「えっ……と、その、」
「俺はさみしい」

 まるで時が止まったみたいだった。その瞬間、周りのざわめきも何も聞こえなくて静かにそう言った宮くんの声だけが響くように聞こえた。さみしい。そう静かにとても穏やかな顔でそうだけ言ったその言葉はまるでぽつりと落ちた雨粒みたいに心の中に染み入った。
 そうか、宮くんもさみしいんや。わたしもさみしいよ。そう声に出そうとした瞬間先生の声がかかる。全員引けたな、ほんなら移動しいや。その声に途端に全部の音が戻ってきてはっとする。

「ほなな、また」
……っ、うん」

 いつの間にか立ち上がって何もなかったみたいな顔をして宮くんが移動していくその背を見送って私も移動するかと立ち上がると、移動したはずの宮くんが振り返っていて目が合った。
 うそ、なんで。声も出せずにその視線に縫い留められたみたいに動けなくなった。そして宮くんもびっくりしたみたいに目をまん丸くしてこっちを見ている。動かなきゃと、そう思うのにその目から視線を離すことができない。たぶん一瞬、けれど永遠に続くんじゃないかって思うようなその刹那。宮くんの目尻がやわく下がって、口唇が綺麗な弧を描く。そして今度こそ背を向けて自分の席の方へ行った。

 びゅん、と風と氷を切る音が耳に入ってきて我に返った。
 あの後そこからどうやって新しい席に移動して、どうやって学校を出てここに着いたか全然覚えていない。いつもの習慣というのはおそろしい。無意識に学校を出てここまで辿り着いて気付いたら着替えて氷の上に乗っていた。
 リンクメイトが追い抜いて行ったその気配にはっとして立ち止まる……と危ないのでよろよろと減速しながらフェンスに向かって、そのままぐったりともたれかかってしまった。ここに来るまでの間、おかしなことをしていなかっただろうかと我ながら心配になる。
 その脇を通りすがったリンクメイトにどうしたん? と不思議そうな顔をして声をかけられたけれど、なんでもないと力なく答えてフェンスに身を預けて項垂れることしかできなかった。
 冷えたフェンスに首を垂れながら思う。トゥーランドット姫もあの夜、夜が明けるまでこんな気持ちになったんやろうか。この気持ちは私の一方的なものだと思っていたのに。これ以上〝好き〟がおっきくなりませんようにと思っていたのに。絶対うぬぼれたらいけないやつなのに。
 なのに、どうしてあんなに真っすぐためらいなく、なのに何も言わずに心の中に入り込んでくるんだろう。せめて何か言葉で言ってくれたら、そう思ってかぶりを振る。
 宮くんは、きっとカラフとは違うから。愛するトゥーランドット姫へ思いを告げるために奔走したカラフとは違ってきっと気まぐれなんやと思うから。そうじゃなかったら私のうぬぼれだ。そして私もトゥーランドット姫のように、その気持ちに真っすぐ正直にいられる自信がまだない。
 そう自分に言い聞かせていないときっと平静でいられないと、そう思った。