ゆの
2024-07-13 16:43:51
57084文字
Public あつむとあの子
 
639508

かけらの紡ぎ

あつむとあの子の本編連載 (サイト掲載:2023/08/19~2025/3/23完結)
隣の席の宮くんとゆっくり進む両片思いの話。サイト掲載済。
!名前変換しない場合はデフォ名が表示されます。
!夢主の設定が少し強めです。苦手な方はご注意ください。

4/4 17~21話(17~21ページ目)UP !完結



11


 現実はそう甘くない。よくわかっているはずだったのにどうしても〝きっとできる〟と期待をしてしまうのだ。
 準備万端、やれることは全部やった。だからこそ自分の中の期待値は大きくなる一方で、そして期待通りにできなかったからこんなに悔しいんやなあと数日振りのなじみある地元の潮風に触れて小さくため息をついた。
 あの席替えの後直接話をすることは減ったけれど、電話とメッセージのやりとりは変わらず続いていた。まるでふたりの秘密のようなそんなやりとりをしながら過ごしていたらあっという間に本格的にシーズンインして初戦を迎えた。
 全日本選手権の出場権を争う地方大会、とはいえシニアで初めてのその試合はこれまでと違ってプレッシャーの度合いが桁違いだと身をもって実感した。いつも仲の良い同期や先輩たちも試合となれば話は別。初めて感じたびりびりと極限まで張り詰めた空気に、いつもできていたこともわずかに何かがずれて上手くいかないまま本番を迎えた。
 結局そのほんの少しの、自分でもわからないその何かを修正できないまま試合が終わった。結果は五位。この後の試合の日程のあれこれで一応は全日本選手権への道はつながった。練習が足りなかったとは思っていなかったし先生たちにも初めてだからと言われたけれど、自分の不甲斐なさに悔いしか残らなくて何ひとつ納得できないままだった。

 重苦しい気持ちで向かう学校への道のりもどことなく足取りが重たくてますます憂鬱になる。その理由は“がんばれ”と言ってくれたその言葉に応えることができなかったから。そして、そのひとりのたった一言に心を揺さぶられて一喜一憂している自分が嫌になったから。氷の上にいる時だけは、それだけを考えていたいとそう思っていたのに。


 教室の入口で何となく中をうかがってしまう。思っていた人は席に居なくてよかったと胸をなでおろして中に入ろうとしたその瞬間、どないしてんと頭の上からその人の声が飛んできた。
 不意打ちすぎておかしな声を出してしまってなんやねん、とツッコミが入る。そっと顔を上げると言うまでもなく宮くんが立っていた。呆れた顔をして。

「う、お、おはよ……
「おー、んでなにそないなっとんの」
「なに、て、なにが……
「なんでそんなこそこそしとるん?」
「えー……っと、いやぁ……
「なんやはっきりしないなぁ」

 昨日返信もないし、と口唇をとがらせて拗ねたような顔をした宮くんにごめんとしか言えなかった。
 教室に入るのをためらって宮くんがいるか確認してしまったのは顔をあわせるのが気まずかったから。きっかけもなく返信をしなかったのは初めてで、その後もいくつか続けて届いていた宮くんのメッセージを開けず見ることができなかったから。それを見たら弱音を吐いてしまいそうだったから。何もできなかった情けない、言い訳ばかりつらつらと並べる自分を晒す勇気がなかったから。
 そんなことも言えずに黙っていたらふぅんと何かを言いたそうにしている視線を向けられる。それに耐えられなくてもう行くと告げて自分の席へ向かおうとすると、昨日、と少し苛立った声が背中に刺さる。思わず足を止めてしまったけれど振り返ることはできなかった。

「どうやったん? 教えてくれへんの」
……言わなきゃだめ?」
「言われへん理由、なんかあんの」
「そういうわけじゃ……
「そんな言いたないんか」

 ちがう、という言葉を遮るように宮くんがもうええわと大きくため息を吐いた。面白くなさそうな顔。それがスイッチになったみたいに何かがすぅーっと冷めていく。言いたくない、その通りだ。けれどどうしてそんな風に言われなきゃならないんだろう。宮くんなんか。

……なんも知らないくせに」
「あ?」
「ほっといてよ、言いたくないこともあるし」
「なんやと? 人がせっかく心配しとったのに」
「そんなこと頼んでへん!」
……ほぉん」

 ならなんも言うこと無いわ、勝手にせぇと背を向けて席に着く。軽蔑するような目を向けられたのが悔しくて思わず手を握りしめた。そんな勝手に期待してきて、勝手に呆れて。そんな気持ちをぶつけるようにその背をにらみつけながら思わずきらい、と吐き出して背を向けた。その私のひどい言葉に振り返った宮くんが怒鳴るように何かを言っていたけれどもう何も聞きたくなかった。
 逃げていると言われてもその通りだからしょうがない。けれど今はも何も、誰の言葉も聞きたくなかった。



 
「よお言ったなぁあんた、拍手喝采もんやで」
「おもしろがっとる……
「ちゃうて、なぐさめようと思ってんやんか」

 呆けていたら午前中が終わっていたらしい。お弁当も出さずにぼうっとしていたら目の前に人影が落ちて、声をかけられる。顔を上げるとあんた意外と負けん気強いもんなあとあやちゃんが楽しそうにそう言った。やっぱりおもしろがっとるやんと顔をそむけるとちゃうよ、と笑う。

「負けず嫌いで頑固、その負けん気の強さで今のあかりがあるんやんか」
……今度は泣かせに来とるん?」
「これはそうかもな!」

 それがあかりの強さでええところやしなとからからと笑うその顔に視界がに滲んで顔を伏せた。アイツもきっとあんたのそういうところ、その内ちゃんとわかってくれると思うで。そう言って優しく頭を撫でてくれる。その優しさが沁みた。

「でもな、もうちょっと……せめて私には弱音吐いてええんよ?」
「それは、」
「全部じゃなくてもちょびっとだけでも。全部は分かってあげられへんかもやけど、だからこそ」
……っ」
 
 ありがとうを言葉にする前に涙が落ちた。それが合図のようにとめどなく落ちるそれを見てミヤアツもきっと同じこと思っとるんちゃうのとあやちゃんが小さく呟いた。
 そうだったんだろうか。私が素直に情けないことを言ったりしても宮くんは呆れたりしないだろうか。弱い私を見て、それでもいつものようにふざけて笑い飛ばしてくれるんだろうか。そうだといいな、と思う。そしてぶつけてしまった言葉は取り消すことはできないんだと、宮くんに向けられた軽蔑するような目を思い出す。
 ひどいことを言った自覚は十分すぎるくらいにある。だから私がこうして泣いたり後悔したり弁解する権利もなんか、ない。そう思ったらますます泣けてしまった。