enoki181
2023-03-07 15:49:35
53569文字
Public リプレイ
 

【モノトーンミュージアム】霧晴れの空、輝く■【リプレイ】

前作→【モノトーンミュージアム】奇妙な国に潜む影 ~呪われし地と囚われの花婿~【リプレイ】 https://privatter.me/page/664995cb534e0
PL:成海さん、守部さん、柳さん、エノキ


▼エンディングフェイズ PC2

ヘルマンクルーク:結婚式――の、前日夜。
こんなにおめでたい夜なので、ワタクシ達は立派に夜更かししています!
童話も最後まで読みました。
持っていたお菓子も一口いただいてしまいました。しかも上のイチゴだけ。
あとはもう明日を迎えるだけ?
いいえ!まだまだやること……やり残したことはいっぱいあります!

「もうすぐ明日が来てしまいますねぇ」

ピエール:本当は早く眠って明日に備えるべきなのでしょう。結婚式の大役――司祭のお役目を任されているので、絶対失敗できないのです。
けれど、ヘルくんと語らう夜は楽しくて。時間の流れが早くて、気が付くといい時間になっていました。

「結婚式、あの時ぶりですね。楽しみです」

夜更けとは不思議なもので。ふんわりと避けていた、ヘルくんと出会った村のお話だってできてしまう。

「そうだ、明日が終わったらどうしましょう?僕、そのお菓子が作られた街に行ってみたくて」

外からやって来た方のお土産だったお菓子は、一番いいところをヘルくんに食べられてしまいました。怒りはせず、らしいなぁと笑うのですが。それなら次は一緒に食べたいじゃないですか。

ヘルマンクルーク:「いいですね!興味のあるところ、良いと思ったところ、何を思わなくとも行ってみたいところ……ぜーんぶ制覇してしまいましょう!」
わっと両手を挙げて、喜んでみせる。
本当はこんなことしてないで、明日に備えたほうがいいのはワタクシも勿論わかってます!
眠たいピエールを起こすなんてそんな心の痛むことはできません。
けれど同じぐらい、今のような時間が必要なことも知っています。
一番大事なのは、君が大人になるための時間。

「それで地図と手記を作ったら、きっとワタクシ達だけの世界です!忘れられない思い出がずっと残りますよ!」
別れに際して何かが欲しいと思うことは、人間皆同じですよね?
私はもうやめてしまいましたが。

ピエール:「忘れません。言ったじゃないですか」

にこにことした眼差しでヘルくんを見ます。
そういえば、大事なことを忘れてしまうのは嫌だ、と言っていました。国の中で何かあったのでしょうか、はっきり話してくれない気がします。なんでヘルくんが国に入れるのかも、本当は本人がわかっているんじゃないかなって。

「ヘルマンクルーク。君はずっと僕の隣人」

彼に託された言葉を口にして、嫌な予感が過ぎりました。僕はもう子供じゃないから、察することだってできてしまう。

……ずっとって、いつまでですか?」

ヘルマンクルーク:「……
さすがに、そこまで気付いていたか。

「あなたが忘れるまでずっとです!」
「もしワタクシが本当に隣にいなくても、ピエールの心の中で、ワタクシは傍にいますからね」
名残惜しいですが、ここまでわかっていればもう大丈夫でしょう。
と言っても、いきなり別れを切り出すのは悪魔の所業ですね。
ワタクシはあくまでやさしいので、そんなことはいたしません。

ピエール:一瞬、ヘルくんの影がぶれて、姿が消えた気がした。
慌てて瞬きをしたら元通り。

けれど、僕たちは元通りじゃいられない。
そんな、もうすぐお別れみたいなこと、言わなくてもいいじゃないですか。はっきり言葉にしなくても、そうと言っているようなもの。

「じゃあ、明日は美味しいものを食べて。さっきのお菓子、二人分買いましょう」
「食べ物だけじゃなくて、建物も見たくて。あと、海、僕はまだ見たことなくて。近くまで行くのは大変って聞きますけど」
「まだ僕が腰を落ち着けられそうな国を見つけられてないから。まだまだ見て回りたくって。でも、ずっと旅するのも悪くないなって」
「制覇できなくてもいいから、せめて、それくらいは」

涙で見えにくくなっても、今は君の姿が消えない。

「ヘルくん。心のだけじゃなくて、ちゃんとここ、隣にいてください……まだ、僕は……

ヘルマンクルーク:あなたの大きな瞳が涙で輪郭を失っていく。
いけないいけない、いつかのための言葉が気が付けば今になっていた。
大人になるなんていったって、一瞬でそうなれるわけではありません。
少しずつ、少しずつ、ワタクシの姿が遠ざかっていく日が訪れる。
きっとそうなのでしょう。

……すみません」
手袋を外した手で、そっと彼の髪を撫でた。

「では、こうしましょう。ワタクシはずっと、あなたの隣にいます」
「夜が明けても、式が終わっても、日が暮れても」
「今はまだ……その時ではないですもんね」

ピエール:今触れている指先の感覚も、いつかはわからなくなってしまうのでしょうか。
情けないとわかっていながら、頷くことしかできませんでした。

ヘルマンクルーク:「今日はもう眠りましょう」
背をとんとんと叩いて、涙を拭ってあげました。
こんな状況になってまで大丈夫です、なんて手放しに言えるワタクシではないけれど。
ピエールがいつか一人で立てるようになるまで、あるいはそうなっても、傍にいなければと思った次第です。
どうか、どうか、その日まで。
ワタクシを隣にいる人でいさせてください。

ヘルマンクルーク:窓辺から差す光があなたの頬を照らしている。
風に乗って陶笛の音が運ばれてくる。
空は澄み渡るように晴れ、雲一つないいい天気。
これは司祭のお仕事、絶対うまくいきますよ。

ピエール:寝てしまったら君がいなくなるんじゃないかと怖くて、随分ぐずってしまいました。あまりに子供っぽかったなぁと反省しますが、起きてもヘルくんの姿があって安心します。

「おはようございます、ヘルくん」

袖を通したいつもより豪華な服は慣れなくてソワソワしますけど、ちゃんとできるはず。目が腫れていないことはばっちり確認しました。

「昨日のこと、皆さんには内緒にしてくださいね。恥ずかしいので」

ヘルマンクルーク:「おはよーございます!ピエール!」
「ヒミツにしておきますよ。ダイジョーブです!」

ヘルマンクルーク:いつか、今度、どこかの世界のまた明日で会いましょう。
その一日一日という花を摘みながら。
ワタクシ達はこれからも"ずっと"一緒です!

シーンエンド