enoki181
2022-09-16 19:55:13
49074文字
Public リプレイ
 

【モノトーンミュージアム】奇妙な国に潜む影 ~呪われし地と囚われの花婿~【リプレイ】

シナリオクラフトのログ。紡ぎ手たちが因習村に乗り込んで花婿を救う話。
PL:成海さん、守部さん、柳さん、エノキ


▼シーンプレイヤー:エメリヤン・ストロガノフ

エメーリャ:ヒルダ様の言葉に甘え、一足先に店兼住居に戻った。
イワンを椅子に座らせ、夏ミカンソーダを出す。隣のおっさんがたくさん収穫できたからって譲ってくれたものを絞って火にかけておいた汁を、ソーダで割ったもの。

イワンの後ろに回った。随分汚れて乱れてしまっている髪を梳き、油を塗っていく。

「イワン、なんで無抵抗のまま連れていかれたんだ」

指先に力が入らないよう気を遣った分、声に怒りが混ざってしまった。

イワン:飲み物を飲んで一息をついたら、エメーリャから抗議の言葉が発せられる。

……異形の手によって無辜の民が苦しんでしまうのは、たとえ自国でなくとも許せないんだ。その可能性があるのなら、僕はどんな手を使ってでも止めたい」

エメーリャ:離れてた期間はそんなに長くないけど痩せた気がする。体を見下ろして、少し苦しい気持ちになる。
滅びた俺たちの国には大きなほつれがあって、王家の者が異形討伐を行なうことで威光を示していた国だった。この人が未だに王家の使命を背負っているのが苦しい。

「あなただけが犠牲になって苦しむのはいいって?」

辛くなかったわけがないのに、助けてとも言わない。

イワン:「構わない。それが僕の……贖罪なんだ」

エメーリャ:「……そこまでしてイワンが背負うべきものなのか。その、贖罪ってやつは」

イワン:「……君にまだ言ってなかったことがあるな。あの日――国が滅びてしまった、僕たちにとって運命の日の」

僅かに視線を下に向けて、ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。

……国のほつれから出てきた異形が暴走し、霧深き緑の国は滅びてしまった。……異形を暴走させたのは、王だ」

それは、僕にとっての父。
彼の王は伽藍となり、国を滅びに導いてしまう。それが滅びの物語の真実だ。

「王が何故伽藍になってしまったのか、今となっては分からない。だが、後継者として生まれた子どもが僕だけというイレギュラーな事態は以前から起こっている。長年の時間をかけて、何かが綻びてしまったのだろう」

だがそんなことはどうだって良い。

「だがそれは王家が滅びる理由になっても、民たちが巻き添えになって良い理由にはならない。……だからこれは生き残った王家の、僕の責任だ」

ならばせめて異形を討伐し続けようと誓った。
それが彼らの慰めになるのかはわからない。でも、そうしなければ僕が僕を許せないんだ。

エメーリャ:髪をひとつにまとめながら、黙ったままに言葉を聞く。
国王様がそのようになっていたなど、全く気付かなかった。異形に襲われる城の中は混乱を極め、詳しい状況はわからなかったのだ。
俺は御標に従い、王子の身代わりとして命を落とすつもりだった。王子さえいれば国は再建できるのだから。
けれど、口走ってしまったのだ。「死ぬのは怖い」と。
城の大人たちは責めなかった。イワンと俺をまとめて逃がした。

「違う、俺の責任だ。あのとき、俺が、」

――死ねなかったから。
そっと呑み込む。
この言葉でイワンが救われるわけではない。

……俺にも背負わせろよ。一人でどこかにいかないでくれ」

髪をまとめ終え、向かい側に腰を下ろした。イワンの瞳を真っ直ぐ見つめる。

イワン:「――僕は」

胸の奥がかき混ぜられる。たまらなくなって、胸を押さえた。

「僕は、君がいつか、影武者のことも、国のことも忘れて、幸せになって、君だけの人生を歩んでいってほしい、そう望んでいるんだ!」

ただ一人生き残った、忌まわしき、それでも確かに愛していた霧深き緑の国の最後の民。
君だけは、どうか幸せになってほしい。
だけどそれを言葉にしたら、余計に胸が痛くなる。

ああそうだ、それなら中途半端に傍に置いていることが良くない。こうして異形を狩ることにも加担させてる。だからこんなことまで言われてしまうんだ。

――行かないで。

それを言いたいのは、きっと僕の方なんだ。

エメーリャ:「……王家の責任というなら、民の気持ちを大事にしてくれよ」

向かい側から手を伸ばせば、胸元に当てられた掌を簡単に掬うことができてしまう。イワンの側からは無理だろう。身長差や性差に、俺たちが別々の人間であることを感じてしまう。それが、たまらなく嬉しいんだ。

「イワンと離れてる間、どれだけ苦しかったか。護れないかもしれないことが、どれだけ怖かったか」
……わかって言っているのならいい。これが俺の贖罪だと、あなたが言うなら、喜んで受け入れる。けれど、俺は義務やしきたり、ましてや御標に従っていない。そんな理由であなたと共にいるわけじゃないんだ」

両手でイワンの手を包み、撫でた。

「イワン・リゾルート。国を出ても王家を名乗り続けるあなたを誇りに思う。あの日々を忘れたいなんて一度も思ったことはない。幸せはいつもあなたと共にあったんだ」
……俺の幸せはイワンの幸せだ。影武者だからじゃない。今なら伝わるか?」

イワン:「エメーリャ……

手に彼の感情が、体温と共に伝わってくる。
……あたたかい。

「僕は……君がいてくれたから、王家の人間で在り続けることができた。昔も、今も……

きっと、これからも。
君が僕を知っているから、僕の名前を呼んでくれるから、僕は何者にでもなることができた。

「エメーリャ……本当に、本当に君の幸せは、その形で良いのかい?」

エメーリャ:「イワンこそ、忘れてしまった方が楽なら……

決定的な言葉を伝えようとする時、いつも躊躇してしまう。肯定された時が怖いからだ。
しかし、この躊躇は違う。イワンが別の誰かのものになってしまうことが起こって、離れる未来の可能性に気付いたら、どうしようもなく苦しい理由を見つけてしまったから。

……いや。苦しいところも一緒に背負うから、共に歩んでいきたいな」

イワン:「……うん」

ずっと、抱え続けていたものが溢れてきてしまう。
それは止まることなく、ぽろり、ぽろりと落ちて行く。
これでは王家の人間失格だ。

「ありがとう」

あたたかな気持ちと、安心した気持ち、それから――
この胸の中にある、ざわつくような、熱いような、苦しいような、それでいて不思議と幸福になる、この感情は一体なんだろう。

「ありがとう、エメーリャ」

分からなくて、だから僕はそう言うことしかできない。
君なら分かるのだろうか。

エメーリャ:「……うん。俺も、ありがとう」

片手でイワンの目元を拭う。
あなたが俺の名前を呼んだ時。影武者としてじゃなくて、俺自身をしっかり見てくれた気がして、凄く救われた気持ちになったんだ。

「触れても?」

手も髪も、触れるのに戸惑いはないはずなんだけど。
唇にぎりぎり触れないところを指でなぞる。

イワン:不意に心臓が跳ねる。
だけど全然嫌だと思わない。むしろ嬉しい、そんな気がして……

……いいよ」

だからこんな子どもみたいな言葉で返してしまう。

エメーリャ:掌全体で頬を包み、身を乗り出す。うるさい心臓の音なんて聞こえないふりをするために笑う。

そっと、緩やかに唇同士を触れさせた。
何度も俺の名を呼んでくれた唇は案外小さくて。もっとあれこれと考えてしまう前にと、すぐに距離を取る。

「こういうの、もう断ってくれよな」

揶揄うように手を持ち上げ、指先にも唇を落とした。

イワン:「はは、そうだね」

あ、鼓動が早くなってくる。なんだか不思議だ。
やっぱり君と過ごす時間は、僕をただのイワンに戻してくれる。

エメーリャ:ちょっとだけぎこちない空気が漂っているけど、嫌なものじゃない。そのうち慣れるのだろうか。

何を言えばいいのかわからず、迷った挙句、もう一度イワンへとキスをした。