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ななき
2024-04-14 01:18:50
10701文字
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吸死
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紫煙で測る距離
(ドラロナ)煙草と距離がテーマの短編、連作。
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八.今度こそ、隣に(この先を考え始めた)
原稿に行き詰まって唸ること三十分。まとまらない単語達が脳内でマイムマイムし始めた。
日はとっくに落ちたがこの街はまだまだ活動時間。先も長いし一息いれようと、机の引き出しを開けた。シュガーレスの飴が一袋入っているはずだったのだが
……
ないな? みつからない。代わりに出てきたのは封の開いた煙草が一箱。まだ残ってたのか。
最近は禁煙しているというよりは、止めたと言える。もうこいつに頼って気分転換することもなくなった。そもそも近年は売っている所が減っていて手に入れにくいというのもある。
それなのにこうして出てくるのは稀に、退治の小道具として使うことがあるからだ。小さい火種と煙というのは場合によってはとても便利なので。
とすると、これは古寺の依頼のときか、ビルの地下駐車場のときのやつ。どちらにせよかなり前だ、湿気てないといいんだが。
引き出しに戻そうとして、手を止める。もったいないし、久しぶりに一服するのもいいかもしれない。
一本、抜いたとたん、コーヒーの香りと共にドアが開いた。入ってきた男は、俺と、俺の手の中の煙草を交互に見ると
「ほう? 口寂しいと?」
と片眉を吊り上げた。
「あ、馬鹿、ちがう、これは」
押しとどめる間もなく、コーヒーと焼き菓子が机に置かれ、
「いや、待、んぅ」
問答無用で顎が捕えられ口づけられる。当然のように深いやつだ。その上、興が乗ったのか体温の低い手が腰やら腹やらを探り始める。営業時間中だぞエロ吸血鬼!
差し込まれた指で背骨を撫でられてさすがに拳を振り抜けば、砂山が出来上がる。そこから即座に形作られた痩躯の男は、責めるような目でじとりと俺を見やがる。
「まだ吸ってねぇ!」
「知ってるよ。私死んでないもの。でも目も覚めて丁度だったろ」
はいはい、と人の髪をかき回して、しれっとしている相棒が憎い。もう俺もいい歳なわけで、万が一依頼人が入ってきた時にこんな場面を見られるわけにはいかないというのに。
俺が唸る間に、吸血鬼は打ち出した原稿の束を手に取った。
「これ書きあがったところまで? 見るぞ」
お行儀悪くデスクに小さい尻を乗せ、赤ペンを手に、原稿をめくりはじめる。そのうなじには、ちょろりと黒髪の尻尾が踊っていた。
その背中を見ながら、煙草を引き出しに再び放り込んだ。どうも構ってもらいたかったと誤解された気がする。確かに仕事以外で煙草を持ち出すのがそういう時が多いのは否定しない。それにしたって常にえっちなことがしたかった若い頃じゃあるまいし、構ってもらうにしたって、別にそれを狙ってるなんてことは、
……
全くないとは言わないけどさ。
そういう甘やかし方をしたおまえが悪い、と責任転嫁して背中に向かって舌をだす。
せっせと朱入れしてくれているらしい肩の上、首の動きにあわせて尻尾がひょこひょこと揺れる。
相変わらず細い背中は、マントを羽織らなくなった。依頼人に会うのに軽装の方が都合がいいんだと。そう、依頼人だ。数年前から、こいつ自身も依頼
――
退治なんて出来るわけがないので、話を聞く相談役だが
――
を受けるようになった。そのため書類上も、備品から所員に格上げになっている。名実共にビジネスパートナーだ。
まさか仕事をするようになるとは、ピスピス甘ったれ引きこもりお坊ちゃんも、この街で暮らして何か思うところはあったらしい。
この変化が多少なりとも俺の影響だったなら、こいつに遺す跡としては充分だ。この先、数百年を生きるとしても、きっと遺る。
充分なはずだ。それなのに、足りないと思うのは何故だろう。寂しいと思ってしまうのは。
不用心にも退治人に背を向けて、声を掛ければきっと無防備に振り向くだろう。それでいいのかよ、真祖にして無敵の吸血鬼。
お前は、俺をどうしたいんだよ。
それで、俺は、どうなりたいんだろうな。
「なあ」
「ん、ほれ。こことこっち、辞書引いたほうが、っん」
振り向いたその手から紙束を取り上げ、肩を引き寄せて唇を塞ぐ。不意打ちに弱いのは昔からだったろうか。
「っ
……
、さっきは殺したくせに」
拗ねたように言うが、目の端と耳の先にピンクをのせてではたいした説得力はない。しかし、うん、なかなか。
「かわいーのな、お前」
「
…………
~~っ!バーーーカ!!老眼ゴリラ!煙草クサ造!」
おい、まだ老眼始まってねぇし煙草は吸ってねぇぞ。
指の間から逃げた尻尾はすべすべと触り心地が良かった。
「今度こそ煙草止めんと二度と唐揚げ作ってやらん!」
「えっやだ!」
バタンと勢いよく閉まった扉はもう一度は開かない。
引き出しの煙草をゴミ箱へと放り込む。
煙草止めた! 絶対だ!
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