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ななき
2024-04-14 01:18:50
10701文字
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吸死
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紫煙で測る距離
(ドラロナ)煙草と距離がテーマの短編、連作。
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九.何よりも近くに(ドアバン三十周年)
「おかえり」
出版社との打合せから帰ってきた連れ合いを出迎えれば春の空気に紛れて、独特の苦味と甘さを含んだ煙の匂いが鼻先をかすめた。この香りもいつぶりだろうか。無言で消臭スプレーを押し付ける。壮年の男は、きまり悪げに笑いながら大人しく受け取った。
同居人達の賑やかなおかえりなさいを聞きながら、キッチンに立つ。コーヒーでも淹れてやろう。
湯が沸くのを待っていれば、肩口にゴリラが懐いてくる。私の太ももより太い腕が腰に回り、反対側の手は私の伸ばした髪を絡めとる。
あとはもうお決まりの流れだ。
もう大丈夫だろ? と消臭スプレーの花の香りをさせた男がすり寄ってくるのも、まだ臭い、風呂に入れ、と返すのも、じゃあ一緒に入ってくれよ、と潜めた声が耳元で熱っぽく囁くのも。
この若造が、煙草を完全には止めないのは、このやりとりをしたいがためではないかと少し疑っている。
私や同居吸血鬼達の前では棒つきキャンディをくわえる男は、今日どんな顔で煙を吐いていたのだろう。ふやけただらしない表情でもしていればいい。
腹は立たない。いつかの、紫煙を暗い目で追う擦り切れそうな青年はもういないから。
青年は、羽化したのだ。愛するのも愛されるのも上手で強欲な男に。プラチナのリングで自分を高等吸血鬼に繋ぎ、高等吸血鬼を自分に繋いで満足げに笑う男に。
……
私にとっては、相変わらずの五歳児ゴリラだが。
風呂は一緒に入るのか? 言わせないで欲しい。
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