ななき
2024-04-14 01:18:50
10701文字
Public 吸死
 

紫煙で測る距離

(ドラロナ)煙草と距離がテーマの短編、連作。


四.隣に(コンビを組んだ長さが片手で足りなくなった。新しい肩書はまだなじまない)


 行き詰まった原稿から逃げるように事務所の窓を開けて煙草に火を付ければ、慣れ親しんだ香りがした。時刻は夜中の二時半。薄曇りが街の明かりを反射する空に、白い煙がゆらゆらと流れていく。

 また叱られるかな、なんて思う。これでも何度かの禁煙と失敗を繰り返した結果、かなり本数は減っている。イメージ戦略としても、もう使っていない。それでも手放せないのは手軽な気分転換だから。それと、片恋相手、もとい、最近恋人の肩書きをぶんどることに成功した吸血鬼に、煙草を叱ってもらうのが嫌いじゃないという甘えた理由もほんの少し。

 あの吸血鬼は俺が煙草を吸う度、臭い煙いと責めるが身体の心配もしてくれる。惚れた相手が気にかけてくれるなんて大事にされているようで、後ろめたくも嬉しくなってしまうのは仕方なくないか?ましてや望みのない一方通行と思っていた相手だったりしたら?もちろん、健康のためには止めるべきだとはわかっているんだけど。

 そんなことをぼんやり考えながら煙の行き先を眺めていれば、
「何回目の禁煙失敗かね、作家先生」
 ほら。
 リビングへ続くドアから、コンビの相方兼同居人、そして兼恋人である男が顔を出していた。煙を直接吸わないようにしながら、しかめっ面で。そういう表情してると吸血鬼らしくてちょっとだけ畏怖いな。
 どうやらコーヒーを淹れてくれたらしい。小ぶりのマフィンと一緒にマグカップが机に置かれる。うまそう。
「お前の方がよく知ってるんじゃねぇ?」
 数えるの得意だろ、というと眉間のシワが深くなった。
……真剣に君の肺を心配しているんだが」
 あ、やべ。一段階低められた声に本格的に怒らせたかと少し焦る。
 慌てて携帯灰皿を探る間に、はあ、と溜め息が聞こえた。呆れ混じりの声が続く。
「それ一本にしておけ」
 ドアを半分閉めながら、四白眼が悪戯っぽくニヤリとする。
「でないと、おやすみのキスは無しだ」
「は!?」
 そんなのしてもらったことな……してくれんの!?
 白手袋に包まれた手がヒラヒラと振られて、楽しそうな笑い声と一緒にドアの向こうへ吸い込まれる。

 そんなの、二本目に手を出すわけにいかなくなったじゃないか。