ななき
2024-04-14 01:18:50
10701文字
Public 吸死
 

紫煙で測る距離

(ドラロナ)煙草と距離がテーマの短編、連作。


五.薄い皮膚二枚(蜜月、本当に?)


 目を覚ましたら隣に銀の髪の恋人はいなかった。シーツの温度が、抜け出してからの時間を教えてくれる。
「煙草か」
 明かりのない部屋の天井をぼんやりと見上げる。
 しつこく言い聞かせた結果、彼は普段、吸わなくなった。それなのに体を重ねたあとには、私から逃げる言い訳のように手を出す。私が追って行けない、日のあたるバルコニーで私を殺す煙を吸い込む。そうしなければ退治人に戻れないとでもいうかのように。

 想われていない訳ではあるまい。逆だ。
 誰にでも愛情を振りまくくせに、受け取り方を忘れていた男が、ただひとりきりの愛を受け入れることを選んだのだ。選んだことに戸惑い、選んだだけでは足りない自分の中の欲に怯えている。
 本人も自覚していなさそうなその恐れが、ひどくいとおしい。選んだ相手だって同じように怯えているというのに、その可能性を思いつきもしないからまだまだ若造なのだと笑ってしまう。

 もうまもなく、煙と太陽の匂いをまとわりつかせた愛しい男が戻ってくる。悪い、起こしたか、なんてバツ悪げに言いながら最近覚えた額へのキスも寄越すかもしれない。
 それを受けながらまずは私をひとりにしたことを責めて、次にまた煙草を吸ったことを責めよう。ますます叱られた大型犬のような顔をする彼はきっと、なんとなく吸いたくなるんだよ、とか言いわけするだろう。切り替えないと仕事に障る、くらいの可愛げが見られたら及第点をくれてやる。
 そうしてから今日はスケジュールが空いていることを指摘して、もう一度腕の中に収めてしまおう。太陽が一番高くなるころまで、一緒に浅い眠りの続きを抱きしめていられるように。

 彼の怯懦などみえぬふりをする。いつかこの執着が身を焼き尽くす時まで。