ツキシキ
2023-07-01 22:36:39
32841文字
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★男女カプ二次創作まとめ

暗殺教室¦WIXOSS¦未来日記¦デュラララ!!¦ボカロ¦ネウロ¦フォーチュンクエスト¦ハピツリ擬人化



ひとごろし(フォーチュンクエスト)


・トラップ×パステル
・ホラー? ヤンデレ? 電波
・キレるトラップに怯えるパステルを書きたかっただけ
____________



「ルーミィー! ノルー!! トラーーーップ!」

 叫んでも返事はなくて、ただ、くわぁんと音が響くだけ。
 わたしの頭は早くも真っ白になりかけていた。
 うろうろしてたら皆からもっと離れちゃうかも。ならじっとするべき? けど、いつ敵が襲ってくるかわからない。ああ駄目だ、それこそ叫んじゃったら敵が来ちゃうに決まってるじゃない。トラップにも前に怒られたのに。

 こんな状況、もう、わかると思うけど。

 案の定、またまたまたまた迷子になっちゃったわたし。マッピングもしていたけど、この洞窟は抜け穴や岩崩れが多いせいで、今となっては全然役に立たない。
 マッパーたるもの、方向音痴なんて言語道断。
 わかっちゃいるけど、治しようがないんだもの。

「ど、どうしよう……

 声に出してみても、こっちですよーなんて答えが返ってくるわけもない。じわじわと涙が浮かびかけた。



 そもそもの発端はヒュー・オーシだった。
 彼に持ちかけられた、洞窟の最深部を探索するっていうクエスト。低レベルでも倒せそうな経験値の高い敵が出てくると聞いて、わたしたちもいい加減レベル上げに勤しむべきじゃないかということになった。
 で、洞窟に入ってみたはいいものの、これが非常に厄介で。
 どうもこの洞窟、誰かの手が入ったダンジョンになっているみたいなの。穴を抜けたら岩盤が動いて戻れなくなったり、急に固いはずの地面が崩れたり。
 そのせいでわたしたちはパーティを2つに分断されてしまった。そこで合流できる道を探そうとしたんだけど……
 いつのまにか私だけぽつりとはぐれてしまったようで。
 どうにもできず、こうして途方に暮れているというわけだ。



「と、とりあえずもっかいマッピング……

 新しい方眼用紙を用意して、今いる位置を書き込む。円形に広がった空間、ここから左右と斜め右、3本の細い道が開けている。正直言って、どっちから来たのかもよくわからない。だってここ、似たような岩と壁ばっかりなんだもん。
 こうなったらどの道を行こうと変わらない。……気がする。

 なんとなくわたしは左の道に行ってみることにした。
 歩いていると、道がだんだんと斜めになってきて、しまいには完璧な坂道になってしまった。もし上から岩がころがってきたらどうしよう、なんて怖い想像もしてしまう。ずっと一本道が続くのはマッパーとしてありがたいけど、物音一つしないってのはちょっと心臓に悪い。

「あっ!」

 上りきった道の先は何もなくて、ぶっつりと道が途切れた感じになっていた。代わりに下の開けた場所が見えたのだけど。

 そこにトラップがいたのだ。
 なんとなんと、わたしと一緒に!

 一度、私そっくりの王女様に会ったこともあるけど……。あれは他人の空似というより、むしろ私自身だ。

「ん?」

 わたしがとっさに出してしまった声に反応して、トラップが上を向こうとする。それを偽物のわたしが留めた。自分の声を聞くってなんか変な感じ! 

「トラップ、あっち見て! あの壁、さっき動いてたのと似てない?」
……そーかぁ? おまえの記憶力は信用ならねーからなあ」
「ほんとだってばぁ」

 ぐぐぐ、トラップめ、相変わらず失礼なこと言ってくれる。言ったのは偽物に対してとはいえ、ムカッとした。



 とにかく、あの偽物をなんとかしないと。
 あれの正体はもう十中八九予想がついた。ドッペルゲンネル。前にDMのダンジョンでも会った、パーティメンバーに化けて襲ってくる厄介な敵。あの時は“そのままの笛”っていう便利アイテムがあったから良いけれど、あれはもう使用回数を越えて壊れてしまった。
 まさかもう一度出会うことになるなんて思っていなかったし、あの様子じゃトラップも気づいてない。

 ここから飛び降りるには距離がありすぎるし、わたしの運動能力じゃ足を痛めるのは確かだ(なさけないけど)。大声を出して気付かせるってのも良さそうだけど、下手に敵に気づかれるとそのままトラップもやられてしまうかも……
 どうしよう。
 ぐるぐる考えている間にも下では岩盤のチェックが進んでいる。

「おぉ、確かにこりゃ動きそーだな。おまえにしちゃやるじゃん」
「えへへ、ありがとう」

 うわあ、わたしじゃあんなにおしとやかに笑えない。鏡を見るよりずっと違和感があって、すっごく気味悪い。というかトラップ、おまえにしちゃ、って何よ! 
 一人で突っ込みつつも、ドッペルゲンネルの監視は忘れない。今はまだ横並びになってるから良いけど、トラップが奴に背を向けそうになったら注意しないと。



 と、ここで今さらながらにひらめいた。ここからクロスボウで狙えるかもしれない!
 矢を準備して狙いを定める。でも、まだ二人の距離が近すぎてトラップを巻き添えにしそう。声をかけたらかけたで、敵が動いてトラップを傷つけるかもしれないし……
 ああもう、じれったい!

 わたしがもやもやとしている間にも、トラップは偽物のわたしと一緒に壁の点検を続けていた。で、ちょっと眉をひそめて、偽物のわたしの方へ手を出した。

「どうかした?」
「ショートソード、持ってんだろ。貸せよ」
……なんで?」
「スイッチっぽいのが見えるんだけどよ、岩が邪魔で手が届かねー。それでちょっとどけてやろうかと思ってさ」
「ああ、そういうことね」

 ショートソードを手にしたトラップは奴に背を向ける。瞬間、偽物のわたしがニタァと不気味な笑みを浮かべた。
 マズイ!

「トラッ────」
「ところでよぉ」

 わたしが叫びかけたところで、トラップが急に振り返って偽物のわたしを見た。同時に偽物のわたしの顔もさっきの殺意満々の表情から、いつもよりも大人しいわたしらしく戻る。

「なに?」

 偽物のわたしに、トラップはものすごく真剣な――罠外しの時にも見せないような、まじめくさった顔をして、尋ねた。

「パステル、俺のこと好きか?」



 ………へ?
 絶句、って、こういうのを言うんだろうか。
 口は呼びかけようとした形のまま開けっぱなし。クロスボウを構える手の力が抜けて、ずりりと落ちかける。慌てて構え直して、でも、狙いを定めるとかそんなことできるわけない。

 だってだって、トラップの言ってることの意味がわかんなくて、あれは偽物のわたしへの質問だけどパステル宛なわけで、そもそも壁のスイッチの話をしていたはずで、えっと。

「同じパーティーの仲間だもん、好きに決まってるじゃない!」

 わたしの戸惑いをよそに、あろうことか偽物のわたしは、にっこりと満面の笑みで答えた。



 ………う、ん。
 一瞬で、動揺しきった頭が覚めてしまう。
 わたしじゃないわたしの声で出されたその答えはすごく正しくって。なんだかんだ憎まれ口を叩いていても、トラップも、皆も、ここまでずっと一緒にやってきた大切な仲間なわけで、もう家族みたいなもので。そう言われればそうなんだけど、むしろそれ以外の答えなんてあるはずがないんだけど、なんだか。
 ………なんだか、偽物に言われるのはとっても嫌だ。

「はい、決定」
「え?」

 ふ、と我に返ると、トラップがショートソードを偽物のわたしに振るっていた。

「ひっ!?」
「~~~~~!?!?」

 ぱっと飛び散る赤色、声にならない声が漏れる。
 トラップに、斬られた。
 ううん、斬られたのはわたしじゃないんだけど、姿がなまじ一緒だから、シンクロしちゃってる。
 けど、良かった。トラップ、気づいてくれたんだ!

「おまえ、何だよ?」

 言いながら、トラップは冷たい目で偽物のわたしを見下ろす。偽物のわたしは足をやられて、座りこんでいた。じわじわと血がにじんでいて、見ているだけでも痛々しい。わたしがああなったら、想像するだけでぞっとする。
 偽物のわたしは苦しげな表情で、か細い声で、トラップ、と呼びかける。もちろん、彼は惑わされるわけなかった。

「っざっけんな。その真似、やめろ!!」

 ぐわん、とトラップの叫び声が響くのが早いか。
 ショートソードが、偽物のわたしの喉を切り裂いた。わたし、が、ゆっくりと倒れ込む。スローモーションみたいな動きから目が離せなかった。
 倒れた拍子に裂けた喉が晒されて、いっそう派手な鮮血が飛んで、トラップの顔や服にも、まるで雨みたいに降りかかった。トラップはそれを乱暴に手で拭って、もう動かない偽物を足で蹴り倒す。ガッガッガッ、振動で偽物のわたしが揺れるたびに血が溢れる。トラップの靴もズボンも汚れていくけど、本人はそれすら目に入ってないみたいだった。ただじっと偽物のわたしを睨みつけている。わたしの姿をしていても、ためらいはない。

 俯いていて表情は見えないけど、トラップは、ひどく怒っているみたいだった。それこそ、わたしがここで出て行ったら、また偽物かと怒鳴られて、最悪殺されちゃいそうなくらい。頭に血が上ってるっていうのかな。怒りっぽいトラップではあるけど、ここまでキレたのは初めて見る。

 正直に言うと、すごく、怖い。

 もちろん、敵は嫌だし偽物がいるのは気味悪いよ。倒しといた方が良いのもよくわかる。でもね、それ以上に、トラップがどうしてそこまで怒っているのかがわからなかった。前にドッペルゲンネルに会った時は、あんなにキレてなかったのに。

 本当ならすぐにでも声をかけるべきなのに、か細い息が漏れるだけ。どうしてわたしはトラップなんかをこんなにも怖がっているんだろう。わたしの喉は音を出すどころか、息を呑むことくらいしかできなくなっていた。



 ガン、とアーマーを蹴り上げる音が響いて、あとは静かになる。偽物のわたしの死体は、そこに転がったままだ。
 トラップは大きなため息と共に、独り言みたいに呟く。

「こうなりゃ、こっちの道が合ってんのかも怪しいとこだな……

 引き返そうと思ったのか、こちらを振り返って、

……!」

 その顔にはまだ血がこびりついていて、ぞっとして、思わず慌てて振り返って逃げ出した。



◇◇◇



 来た道を黙々と引き返しながら、考える。

 ────あれは、本当にトラップ?
 ────トラップが、あんなに怖い、なんて。

 いや、でも、あれは本物のトラップのはず。だって、もし彼が偽物だとして、モンスターの同士討ちなんてあり得るの?

 あの憎まれ口はすごくトラップそのものだ。でも、トラップはたとえモンスター相手でも、あんな、死んだ相手に追い打ちをかけるような奴じゃない。とはいっても、あれがわたしの形をしたモンスターなのは確かなんだから、それを攻撃するのだっておかしなことじゃない。
 ひょっとすると、あの敵がわたしの姿をしていたせいで、ここまで神経質になってしまっているのかもしれない。トラップの虫の居所が悪いのはしょっちゅうだし、いまさら怯えることはないのかも。
 そうやって前向きに考え始めたところで、あの鮮血を思い出して身震いしてしまって……



 頭の中でいくつもの「でも」「だって」を組み合わせて悩む。
 悩みながらも坂道を下り直して、円形の開けた場所に戻ってきた。

「パステル、か?」

 少し疑うような調子で声をかけられた。

 
 
 聞き間違えるはずはない、トラップの声だ。ちょうど別の分かれ道から来たところみたいで、もちろん、あのドッペルゲンネルを倒したときの血もそのまま……

「おい」
「やっ!」

 伸ばされた手をつい強く払ってしまう。指先が震えているのが自分でもよくわかった。
 わたしの反応にトラップもびっくりしたみたいで、呆然とこっちを見つめてくる。普段ならこんなことしたら舌打ちされて文句を言われそうなもんだけど、わたしの様子がおかしいのを、トラップも感じ取ったらしかった。

「トラップ、その血、だって、本物……

 頭がいっぱいいっぱいで、もう、うわ言みたいなことしか言えなかった。服や頬についた真っ赤な血が、怖くて仕方がなかった。トラップが本物だろうと偽物だろうと、関係ないくらい。

「あー……

 トラップはわたしの視線を追って、それから自分の服を見て、改めて気づいたかのようにごしごしと擦ってみせる。もちろん、血はとれない。

「その様子だと、おまえも会ったみてーだな」

 ごまかすように乾いた血がついた手を後ろに回す。わたしは会った、というより、見ていたんだけど、それを言うとわたしまであの偽物みたいな目に合いそうな気がしてしまって、だんまりを決め込むしかなかった。

「まあ俺は本物だから信じろ……って言ってもどーにもならねーよなあ」

 トラップはいつもの調子で面倒くさそうに唸る。その反応が、今はすごく合わない気がした。

「と、トラップはなんで、わたし、が本物ってわかるの?」

 声を出すのが何故か苦しくて、切れ切れに尋ねる。目の前のトラップは初めこそちょっと疑い気味に声をかけてきたけど、もうわたしが偽物だとは思ってないみたいだった。

………べっつに。勘だよ、カン」

 わたしが本物だとわかってくれたのは嬉しい、けど……
 もう、どうしたらいいのかわからなくなってきた。じわじわと目に涙がたまってくる。泣いてる場合じゃないっていうのに!

「パステル」

 滲んだ視界が塞がれる。嫌だと払う間もなく、わたしは抱きしめられていた。



 少なくともわたしには絶対に言わない、トラップの甘い声が響く。たぶん、街中で声をかけられた女の子とかは、こういうのにうっとりするんだろう。
 でも、今のわたしはうっとりするどころか、動くことすらできなかった。むせかえりそうな血の臭い。

「あれ、見てたんだろ」

 ぞっと背筋を冷たいものが通り過ぎた。声の調子はさっきと変わっていないのに、冷たく聞こえるのはなんでだろう……

「あれって、なんのこと……?」
「言わなきゃわかんねーの?」

 知らないふりをしていたのが気まずくてとぼけてみたけど、逆に自分で自分を責める形になっちゃって、どんどん息苦しくなっていく。なんて言おうか迷っている間に、トラップが口を開いた。

「俺が偽物のおまえを殺したところ、だよ」
「っ」

 わざわざ、殺す、という言葉を選ぶのは意地悪だと思った。

「見てたよ……

 そう答えるしかなくて、トラップの顔を見るのが怖くて、うなだれる。
 いっそ、あの時トラップが偽物のわたしを殺したときのように、目の前の彼も殺してしまえば良いのかな、なんて。残酷すぎる考えも頭をよぎった。けれど、絶対に絶対このトラップが偽物だとは言い切れない。どんなにトラップらしくなくたって怖くたって、結局剣を向けることはできなかった。

「だよなあ。おまえだったら、フツー俺が血まみれだったらまあ、キャーキャーわめくと思ったんだよ」
…………

 憎まれ口に反応する余裕も、もう無かった。すっかり神経が擦り減ってしまって、何も考えたくなかった。疑うのは、疲れる。

「うし、じゃあ行くぞ。マッピングとちんなよ」
「うん……

 いっそ、こんな怖いトラップ、偽物でいてくれれば、良いのに。お願いだから、偽物でいて。

 だって、ねえ。
 わたしを殺した人なんて、仲間と、言える?

 方眼紙を準備しながら、そんな、一番恐ろしいことを考えて────




 あとはもう、見て見ないふりをした。





~END~