ツキシキ
2023-07-01 22:36:39
32841文字
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★男女カプ二次創作まとめ

暗殺教室¦WIXOSS¦未来日記¦デュラララ!!¦ボカロ¦ネウロ¦フォーチュンクエスト¦ハピツリ擬人化



秋瀬或曰く、我妻由乃は天野雪輝が女であっても愛せるか?(未来日記)


・秋瀬或→雪輝←由乃
・もしもユッキーが女だったら?というディスカッション
・実際に性転換はしない
____________



 空間のあちこちで機構と機構の噛み合う音が響く。耳鳴りに似た金属音、しかし発生源は見渡す限りどこにもなく、むしろ物一つない。壁と床とが同一化されているこの場は球体と呼ぶのがふさわしかった。
 居るのは僕、秋瀬或。
 そして等距離を保つ、我妻由乃。

「どういうこと?」

 声を出したのは我妻さんのほうだった。そこに居る者を確信した、強い眼差しで虚空を睨んでいる。

「ユッキーはどこ?」

 こんな風に僕らを隔離できるのは異次元存在、いわゆる神に他ならない。姿を見せないデウスへ我妻さんは食って掛かる。望ましいことにと言うべきか、僕は眼中外らしい。
 現況の確認。携帯は懐。探偵手帳と筆記具もポケットに忍ばせたまま。ついでに財布も。我妻さんもおそらくは未来日記を持っているのだろうが、どうやらその記述からでは愛する雪輝君の動向を読み取れないらしい。第三者から観測できないところに隔離されている。今の僕らと同じような状況か、あるいは暗闇に囲まれた空間……いずれにせよ神々の思惑が強いところだろう。

 ぽんっ、
 場が動く。

 クラッカーを放つような音に我妻さんが一瞬目を輝かせる。きっとその予想は外れだ。何もない空間から小柄な身体が回転して現れる。

「天野雪輝の場所を教えるわけにはいかんが、ここから出るのは簡単じゃ」

 説明役、ご都合の解決役、デウスの意思を歪める者。姿を見せたムルムルは軽快な動きで空中散歩をしながら、僕らの置かれた状況の簡明な説明を告げた。

「儂が求めるのは『愛の証明』!  より強く愛を感じさせた者のみをここから出すとしよう!  どうじゃ、ろまんてっくじゃろ?」
「ユッキーはどこ?」
「じゃから言うわけにはいかんと言うとろうに」
「ユッキーはどこ?」
「出たらわかるさ~わかるさ出たら~♪」
「ユッキーはどこ」

 僕は身を引いて、巻き込まれないことを第一に考える。案の定、我妻さんは衣服に刃物を忍ばせていたらしい。僕らを閉じ込めている歪曲した壁らしきもの、それを蹴り上げて彼女は跳躍した。ムルムルの首めがけて、瞬きの躊躇いすらなくカッターナイフが振るわれる。
 そして当然、彼女の殺意は届かない。

「方法は問わん! んじゃ、せいぜい楽しませてくれ~」

 ムルムルは役割通り、不条理な脱出条件だけを僕らに落として姿を消す。



 愛の証明。なんて、ナンセンスなんだ。
 我妻さんの失われた矛先は必然的にこちらへ向かう。その殺意をずらすべく、僕は何よりも真っ先に仮定を告げることにした。

「君は雪輝くんが女性になっても愛せるか?」

 それは僕のポリシーから言って、僕自身の愛を損なう仮定でもあった。
 性では測れない、しかし崇高ではない、ただ単純かつ純然たる事実として“僕が雪輝君を愛している”ということ。そこに僕と雪輝君が同性であることを持ち込んでしまえば、途端に眼鏡は曇ってしまう。
 それでも僕はこの過程を持ち込まざるを得なかった。単純な話、茶番劇には時間が必要だ。観客であるムルムルが冷静さを取り戻し、光景に飽きるまでの時間が。

「ユッキーはユッキーだもの。たとえどんなユッキーだって私は愛せるわ」
「なるほど愛せたとしよう。では、その先は?」
……先?」

 一閃は描かれることなく、鋭い視線で踏み止まった。我妻さんが僕の考えに協力しているとはとても思えないが、単純に雪輝君のことであれば気を引けるらしい。機を得た僕の口は流れるように動く。

「君の夢は“お嫁さん”なんだろう? 雪輝君が女性になったら、現行の法では不可能だ」
……そんなことはどうとでもなるわ」
「同性における結婚制度を日本でも確立させる? 良いだろう。外国に行く? それも手だ。さてでは、その先は? 君の夢見るものは“幸せな結婚生活”だけかい?」
……
「二人の間に子どもが生まれ、愛をもって育み、家族となる。君が雪輝君と“結ばれる”ことに固執していたのはつまりそういうことだろう? 雪輝君の存在は幸福のキーだ。しかし、将来的に考えると彼は君にとっての幸福の全てではない。拡大していく幸福の定義の一要素に過ぎない」
……
「さてここで彼が女性の場合。君の理想は叶うだろうか? やりようはある。養子もあれば人工授精もある。なんだったら神の力で、二人の愛の結晶という概念に新たな形相を与えても良い。
 だが、彼の存在だけで完結しないその愛は、本当に愛と呼べるのか?
 君は君の思う幸福の縮図を生み出す装置として、雪輝君を利用しているだけじゃないのか?」
……はっ」

 カッターナイフが投擲されたのは鼻で笑われる前だった。敵を倒すためには動作を気取られてはいけないと、彼女は感覚として知っている。
 半身で避けた僕の後ろで、カッターナイフがキンと音を立てて落ちる。この空間の物理的な破壊は困難らしい。

「見当違いも良いところね、秋瀬或」
「おや、どう違うのだろう」

 言いながら、僕は彼女の憤りの方にむしろ共感を覚えていた。訳知り顔で自らの愛を語られることほど不愉快なことはない。そして、僕らは自らの愛に踏み込まれることも好まない。だから彼女が、

「なぜおまえなんかに私とユッキーの愛を語らねばならないの」

 こうして説明を放棄したことだって当然の結果だった。僕自身が見当違いと知って論を講じたのだから。

「そもそも愛の証明なんて簡単なことだわ。おまえがいなければ、この場でユッキーを好きと言うのは私だけになる」
「なるほど簡明だ」
「なら死ね」

 彼女に武器を取らせないこと。疾走してくる我妻さんからあえて逃げることはせず、落ちたカッターナイフへ繋がる動線を遮ることに集中する。彼女に取らせては駄目だし、背後を見せるのも悪手だ。彼女が持つ凶器がたったの一本とはとうてい思えない。

「君の考えは暴力的に過ぎるけれど、ある点では正鵠を射ている。そう、愛は比較されうるべきものではない。そこに手段の好悪はあるにせよ、優劣は存在しない」
「ユッキーを愛するのは私だけでいいの。おまえはいらない」
「優劣は存在しないからと言って唯一である必要もないね。
 僕はこんなにも雪輝君を愛している!!
 さあこうやってわめいたところで、何で価値判断をつけるだろう。声量? 行為の規模? 雪輝君の反応? ナンセンス、まったくナンセンスだ」

 我妻さんは自分の力量をよく熟知している。だから僕に女の細腕で立ち向かおうとはしない。おそらく僕がこうして話している間にも、僕に向かい来るふりをして、即席手製の凶器を作成していることだろう。
 そろそろ時間切れだ。それに、雪輝君の安否が気になっているのは何も、彼女だけでない。



「ムルムル! 暇つぶしにしては長すぎると思わないか!」



 僕の呼びかけに、予想よりもあっさりとムルムルは応じた。
 空中にまるで畳があるかのように寝転び、くぁあ、とあくびを一つ。

「んむ。思ったよりつまらんかった」

 そして粗雑に指先を僕らの方へ向けると、瞬時に、あの無機質球形の異空間は姿を消していた。
 つまり、僕らの愛の論議は的確に、第三者を飽かせることに成功したらしかった。それはそうだろう。人の惚気話ほど退屈なものはない。

「ふぅ」

 無事、文字通り地に足の着いた元の世界だ。まったく、神ごときの気まぐれに人間様を巻き込むのはやめて頂きたい。



 見上げれば、本日も晴天。突き抜ける青空に目を細めつつ、雪輝君のことを想う。


 性別が違って何になろう?
 性別が同一で何になろう?

 つまるところこの点だけにおいて僕と我妻さんの見解は一致していた。

 天野雪輝が天野雪輝でさえあれば、何一つ問題はないのだと。


 自明の理は事件にすらならない。



 故に僕の今日は、何事もなく日常と呼ぶべきだった。






~END~