ツキシキ
2023-07-01 22:36:39
32841文字
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★男女カプ二次創作まとめ

暗殺教室¦WIXOSS¦未来日記¦デュラララ!!¦ボカロ¦ネウロ¦フォーチュンクエスト¦ハピツリ擬人化



クリティカルヒット!(暗殺教室)


・千葉×速水
・下の名前で呼ぶ話
____________



「凛香」

 私の名前を呼んだのは、意外にも低い声だった。聞き慣れた声の、聞き慣れない響き。じっと相手を見る。前髪越しのターゲットは今日も変わらない表情だ。

……なに?」
「弾の予備持ってたらくれないか」
「いいけど」
「サンキュ」

 いつも通りの会話、おしまい。弾は明日には帰ってくる。千葉はそういうところ律義だ。
 そう、いつも通り。だから私は違和感を指摘しそびれてしまった。


 
◇◇◇



 私の立ち位置は常にフラットだった。
 黒髪は嫌、でもギャルってほど派手じゃない、男好きでもなければ、女子としか話さないってわけでもない。体育は嫌いじゃない、勉強はそこそこ好き、音楽は割と好き。

「千葉」

 フラットを目指してきたつもりだった。でももしかすると私の声だけは、周りと比べてちょっと異色なのかもしれない。
 困るとか嫌とか面倒とか、そういうのをカモフラージュしていこうと迷彩色を目指してきた私の声は、すっかり冷たく響くようになった。けどこれもわざわざ変える気はない。

「ん?」

 千葉が振り向く。ビッチ先生のよく言う猫撫で声とか、竹林達の言ってる萌え声(律みたいな?)とかで呼んだらどういう反応を返してくるのか、気になりはする。

 例えば、今ここで『ねぇ千葉くぅん』だなんて。

 ……ない。無いわ。



「放課後、射撃訓練付きあってよ」
「おう」

 いつも通りの会話、おしまい。
 私達は愛銃を手に、山中の狙撃ポイントへ繰り出す。



◇◇◇



「おう」と「うん」が私達の会話のほとんど。授業中や殺しの時間はそれで全然問題ない。予定通りのポイントに、聞き慣れた弾音を当てる。会話だっておんなじ。それだけ。
 でも、今日はわざと射線をずらしてみることにする。

「あのさ、千葉」
「ん」
「私の名前呼んでよ」
……なんで?」
「いいから」
「速水」
……

 そう、まだ射線は計測通り。凛香って呼ばれる違和感は、あの日の一回きりだった。
 千葉は黙った私に伺うような視線を向けてくる。前髪で隠れてるけど、こういうとこはけっこうわかりやすいと思う。だから私も遠慮なく、致命的に、言葉の射線を切り替える。

「なんで下の名前で呼んだの?」
「へ?」
「呼んだじゃん、前。凛香って」

 沈黙。考え込んでる。割と長い。
 もう答えが返ってくる前にわかった。これ、絶対覚えてないやつだ。

……そうだったか?」
「覚えてない? 弾貸した時」
……

 千葉は黙ってるとよく怒ってるって言われるらしい。こんなにうろたえてる時だってあるのに、皆わかんないのは、ちょっと不思議。

「すまん」
「別にいいけど」

 私だって別に怒ってるわけじゃない。だけど、私は千葉ほどわかりやすいタイプじゃないらしい。だからたまに伝わらない。やっぱり声が冷たいせい? 千葉に誤解されるのは、なんかちょっと、癪に障る。名残惜しく言葉が続く。

「勘違いしないでよね。理由が気になっただけだから」
「おおーツンデレ」
「撃つ」
「すまんマジで」

 指先でトリガー。勿論撃ちはしない。殺意に関しては千葉だって射程を読み間違えない。結局のところ私はちっとも怒ってないって伝わってるはずだけど、それでも千葉は少し悩むよう口を閉ざす。
 きっと、私を凛香と呼んだ理由を探してる。思い出そうとしてくれてる。
 やっぱり、千葉は律義だ。いいやつ。

「多分、女子が呼んでんのが移ったんだろうな」
「ビッチ先生も凛香呼びだしね」
「だな。それに、こう……

 千葉は口を動かす。小さい声で、三文字ずつ。は、や、み。り、ん、か。交互に口ずさむ。

「速水」
「うん」
「凛香」
……ん」

 男子で私を凛香なんて呼ぶ奴はいない。前原に呼ばれかけたこともあったけど、物珍しさに固まってじっと見てたら何故か苗字に直された。理由はまあなんとなく、察せなくも無いけど。
 とにかく、慣れないせい? 男子の低い声で名前を呼ばれるのは、なんだか。落ち着かない。

「凛香」
「もういいでしょ」
「いや……うん。呼びやすい名前だなと」
「苗字も同じ三文字なのに?」
「はやみ、ってなんか口がもごもごする」
「悪かったわね」
「あー、そうじゃない」

 千葉は軽く首を横に振る。髪の隙間、鋭い瞳、でも時々見えると安心する。視線を奪われて、油断して、

「凛香のほうが俺は好きってだけ」

 次の瞬間撃ち込まれた。



……そう」

 ふいっと視線が逸れる。射線を変えたのは私だったはずなのに。ターゲットはきちんと視界に入れてないといけないのに。だって、しかたないでしょ。好きなんて弾丸、聞き慣れてない。
 そもそも、初めに呼び方を変えたのは千葉のほう。だから今回は千葉が一枚上手、たぶん無自覚なところが恨めしい。
 一手返したくて、浮かぶのは安直なアイデアで、わかりやすい直線距離をすぐに撃つ。

「龍之介」

 でも、これだって全然致命傷には届かない。

「お、うん?」
……龍之介」
「どしたよ急に」
「千葉って下の名前長いよね」
「まあ……そうかな」

 反応は芳しくない。ビッチ先生の入れ知恵を使うべき? でも、私が甘えた声なんて。それって自爆と変わらなくない?

「やっぱ千葉って呼ぶ」

 慣れない銃を使ってこっちが仕損じるなら、初めから使わない方が良い。呼ぶたびに一呼吸置かないとダメなんてきっと無理。心臓が耐えられない。
 だから、私は銃を置く。
 なのに。

「じゃ俺は凛香でいいか?」

 第二撃はけっこう重い。かっと頬が燃え上がる。表には多分出てないと信じてそしらぬそぶりをする。こっちの弾はあんまり効いてないのに。ずるい。

「好きにすれば」
「おう」
……
……

 用件おしまい、そしたら沈黙。いつもの空気が戻ってくる。
 でも、撃ち抜かれた穴は変わらない。そしてこれから何度も連射されることが、確定してしまった。しかも、さっそく。

「凛香」
「なに」
「とりあえず呼んでみた」
「そう」

 千葉の声のトーンは変わらない。私だって多分、表情筋は動いていない。
 この時ばかりは自分の仏頂面がありがたく思える。ダメージを食らってるなんて、バレたらそれこそおしまいだ。
 だって距離感は絶対大事。これ以上を求めたら、私の弾は何一つなくなってしまう。

 だから、まずはこの相手の新しい弾に慣れないと。

「凛香」
「だから何?」
「練習」
「なによそれ……

 千葉は口元をはにかむように緩めて、今度こそ用事は終わりとばかりに背を向けた。一人だけ満足げ。私はまだスコアを叩き出せていないのに。でも千葉の動きは正しい、呼び名にずるずるこだわるのも馬鹿らしい。建前にした本当の射撃訓練だってまだメニューは一つもこなせていない。だから、切り替えるのが一番。


 でも、私はなんだか負けた気分。悔しい。

 次は勝つ。
 ……どう勝てばいいのかもわかんないけど。

 とにかく、私の名前と立ち位置をフラットに戻すことが目下の目標だった。



 まずはあの低い声で響く呼び名に慣れることから。
 いつか、千葉が再起不能になるくらいの、心臓直撃な弾丸を叩き込めるように。






~END~