ツキシキ
2023-07-01 22:36:39
32841文字
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★男女カプ二次創作まとめ

暗殺教室¦WIXOSS¦未来日記¦デュラララ!!¦ボカロ¦ネウロ¦フォーチュンクエスト¦ハピツリ擬人化



カードと旅する男(WIXOSS)


・紅林姉弟、香月×遊月
・時系列はspread
・ルリグの通訳係としてモブセレクターが登場する
・ゆづよさんの真実を聞いた香月君がハートブレイクして逃避行に走ったらどうなるの、なバッドエンド(悲恋?)IF話
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 郊外行きの電車は僕たちを除いてほとんど無人だった。互いを避けるように人がぽつぽつと座り、広すぎる間を埋めるように、次の駅名が妙に間延びして呼ばれては空しく響いていく。
 無断欠席の言い訳はどうしよう。そう思って、誰に言い訳する必要があるのかと考え直す。遊月がWIXOSSに惑溺し始めた頃から授業をサボることは少しくらいあった。親だってきっと器用な花代さんがやり過ごしてくれるはずだ。同級生なんて言わずもがな、僕らを気にするようなやつなんて…………
 嫌な方に行きかけた思考を打ち切って、誤魔化すように遊月へ話しかける。

「電車賃が浮くのはラッキーだよね、って言ったら怒るかな」

 カードケースは電車の揺れに合わせてふらふら揺れた。併せて遊月の怒り声が聞こえた、気がしたので思わず口元が緩む。代わりに手首に巻いた革紐をキツくして、うっかりでも遊月を落とさないようにする。



 行き先どころかどこで降りるかも決めていない。僕の心構えができないうちにも電車は止まり、深呼吸するように扉が左右に開く。惰性で僕は座り続け、扉に区切られる景色を見やる。
 出入りするまばらな人すら背景に溶けていく。その人の中にその人がいない可能性を、ルリグにとって替わられた女の子たちの総数を、無根拠な想像で計上してみる。

「あなた、男の子なのにセレクターなの?」

 だから、その子に話しかけられて初めて僕は、知らない女の子がすぐ近くまで来ていたことに気が付いた。



◇◇◇



 その子は僕の隣に当然のように座ると、ふんふんと頷いたり相槌を打ったりし始めた。演技を感じさせないその仕草で、彼女も選ばれた女の子なんだとようやく信じることができた。
 WIXOSSプレイヤーはどうしても警戒してしまう。ほんの数日ふらついているだけなのに、僕らに接触をしてきた人は両手を越えるくらいの数になっていた。

 遊月はどんな姿になっても目を引くらしい。願いを叶えようと奮闘する女の子だけでなく、コレクターやバイヤーらしい男性まで声をかけてきた。説得でなんとかなるなら良かったけれど、僕も腕っぷしが強いほうではないので、少し骨が折れた。
 次の駅を知らせるアナウンスが鳴り響く。女の子の視線が僕のほうへ向く。

「ね、どこで降りるの?」
「さあ、決めてないよ」

 雑に答えて行き先を曖昧にする。



 電車は閉鎖空間かと思いきや安全地帯でもあった。車掌さんの近くなら一応は揉め事も起こりにくいし、絡まれたら相手を置き去りにして降りて逃げ出せばいい。少し過剰過ぎる反応をしている気もするけれど、遊月を守れるのは今僕だけしかいないと思うと、過敏なくらいでちょうどいい気もした。
 だから、もしこの子が僕らに踏み込んでくるようなら、すぐ座席を立とうとも思っていた。
 そういえば互いに名乗ってすらいない。しかし彼女はそれ以上質問はせず、代わりに両手をぎゅっと胸の前で組んで僕を上目遣いに見つめてきた。

「『香月。行先もないなら、そろそろ家に帰ろう?』」
……え」

 馴染みのある口調が飛んできて面食らう。見つめる相手は似ても似つかない。きっとセレクターだけが聞こえる声……カードに閉じ込められた遊月の声を代弁しているだけだ。

「『皆心配してるよ、きっと』」

 だというのに、遊月めいた口調が僕の唇まで滑らかにしてしまう。

…………してないさ。誰も」

 事情は話すつもりなかったのについ本音が漏れた。もうこの会話だけで僕らに後ろ盾が無いことは明白になってしまった。僕の答えを聞くなり初対面の彼女は素に戻って、空けた隙に横やりを入れてくる。

「ええー、君たち家出中なんだ。うち来る? 次の駅だよ?」
「悪いけどお断りするよ」

 ずいっと近づいて来た顔から身を避けて、ついでに遊月も反対側へ遠ざける。
 距離を詰めてくる女子はどうも苦手だ。知らないところで変な香りのするものをつけて、言葉の一つ一つに誰も気づけないような意味を隠して、気づけないと影で不機嫌になっていく、あの感じ。
 今にして思うと遊月だけが特別だったのかもしれない。同じシャンプーを使っててもなんでか遊月だけ良い匂いが、していたから。それを意識させられた瞬間の遊月が“遊月”だったことは、…………考えてもどうにもならないとして。

「いいの? 通訳して、話を聞いて、ってすごい叫んでくるんだけど、このルリグ」

 奥歯がギリっと音を立てて初めて、自分が歯噛みしていたことに気がついた。

…………“ルリグ”じゃない、遊月だ」
「ふーん? どうでもいいけど」
「どうでもよくないよ。訂正してくれないかな」

 懲りずにルリグと繰り返そうとする彼女を真っ直ぐ睨む。彼女は口を閉じたが、訂正はされない。
 ふと明かりが落ちた。電車がトンネルに入ったらしい。規則的にゴウと突き抜ける音が僕の頭の中で響いていく。煽られるようにふつふつと込み上げる気持ちを押し込める。カウントダウンみたいに電灯が交互に窓から刺し入って、トンネルを抜ける直前、相手はやっと口を開いた。

「はいはい、“遊月”ね! 遊月ちゃん!」
「うん」

 その言い方は素直に認めたというより根負けしたという感じだったけれど、これ以上問答をするのはやめておくことにした。遊月は自分のことで言い争われても良い顔をしないだろう。

「その遊月ちゃんさ、さっきからめっちゃうるさいよ? 
 『香月に話を聞いて欲しいんだぁー! お願い協力してぇー! なんでもするからぁー!!』って」
…………そう」

 彼女の口調はからかい交じりで正直不快だったけれど、遊月の口真似だけは評価できた。遊月を眺めながら彼女の真似を聞いていると、不思議と遊月自身の声が本当に聞こえるような錯覚さえしてきた。

「なんでも、なんて言っちゃだめだよ遊月。ただでさえ今の遊月は危なっかしいんだから」

 カードケースに収まっている遊月へ話しかける。以前と違って遊月が自らの足で猪突猛進に走り回ることはできなくなったけど、危険はもっと増えた。
 例えば、心無いセレクターにルリグカード自体が破かれてしまったとして、遊月は無事なのか? 燃えたら、傷ついたら、遊月はどうなってしまうのか? 雨の一粒だって油断できない。一度濡れたカードが永遠に滲んだままになってしまうのなら、損なわれた遊月はどうなってしまうんだ?
 僕はルリグや願いを叶えるセレクターのルールについて知らないことが多すぎる。だから、誰の言葉だって信用できない。遊月を、カードじゃなくてルリグじゃなくて、僕の大切な遊月を遊月として守れるのは僕しかいない。



 名前も知らない彼女は僕の警戒を見て取ったのか、それとも呆れたのか。僕が相手をする気がない姿勢を崩さないでいると、彼女はさっと身を引いた。

「ま、バトルできないなら付き合う義理もないし、ここでバイバイかな」

 タイミングよく電車の扉が開く。余計なものを吐き出して、僕らをここに二人きりでいさせてくれるように。
 遊月と話せなくなるのは惜しかったが、どうせ彼女が遊月の言葉を嘘偽りなく伝えてくれるのかの保証だってない。セレクターとしての信憑性があったって、結局悩みが一欠片無く尽きてくれるわけじゃない。

 ────その言葉は本当に“遊月”のものなのか? なんて。馬鹿馬鹿しいんだ、わかってるよ。

 だから、口真似上手の彼女に別れを告げようとした矢先、彼女はにたりと口角を釣り上げた。



「最後にイイコト教えてあげる。その子、『破かれて捨てられちゃいたい』ってさ!」



「は」
「じゃあね~」

 彼女の背中はぱっと駅に吐き出されて、電車の扉は躊躇いなく閉じた。



 残ったのはまた、僕と遊月。



 思わず手元へ視線を落とす。遊月は何も言わない。言えない。ただ、カードゲームのキャラクターとしてべたりと貼り付けられた表情で立つ遊月しか僕には見えない。あんなにくるくる表情を変えていた遊月の、泣き顔だって。

「そんなわけない……って、言ってくれないかな……遊月……

 自分の声がひどく弱弱しいのが、どうしようもなく情けなかった。



◇◇◇



 また、駄目だった。
 私の声はすぐ隣の香月に届かないまま、ぽつんと宙に溶けて消えてしまう。

……ごめん、なさい」

 あの時からすっかり時間が経ってしまった。
 走り去ってしまった花代さんは今頃どうしているだろう。花代さんを追いかけてったるう子は? それに私を取られてしまった一衣は? またセレクターに絡まれて酷い目に合ってやしないだろうか。
 やっぱり私、花代さんに会いに行くべきじゃなかったんだ。

 ただただ後悔ばかりが頭の中をぐるぐる回る。るう子に連れて行ってもらって、夢を叶えた“私”を見て、それで満足していればよかったんだ。
 そうすれば、香月のことをこんなに追い詰めなくて済んだのに。



 電車がガタンガタンと揺れ動く。次の駅はきっとまだ遠い。
 私と外を繋ぐ際、おそらくはカードのふちに、香月の指先がそっと触れる。細くて骨ばって、でもきちんと男の子をしている指だ。思わず擦り寄りそうになる私の弱さが恨めしい。体温なんてわからないのに。

「遊月、大丈夫だから。これからはずっと傍にいるから……

 誰よりも大好きな人の優しい声がして、私は。
 私自身で私を引き千切れたらどんなにいいだろうかと、床ですらない暗闇に拳を叩きつける。

 長方形の枠線の内側が、私の新しい世界。ここからじゃ香月に声を届けるには遠すぎる。それでも私はいつまでも叫ぶ。

「お願い、誰か、聞こえてよ……!」

 私はもうなんだっていいから。
 ずっと“私”に戻れなくたって、覚悟はできてるから。
 今の私すら消えちゃったっていいから、だから。

「私のこと、破いて捨てて…………

 それでお願い、魔法を解いて。
 悪い私なんかに囚われて、おかしくさせられちゃった、香月を助けてください。



 電車内のアナウンスはまだ、終点じゃない駅名を告げていた。





~END~