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黒竹
2022-05-30 21:36:40
24581文字
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@rem "I Love you"
【GUMI】【ボカロ家族】
言えない言葉の話。
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セチに手を引かれなければ迷子になっていたグミは、すっかり自由自在にネットワークの中を動き回れるようになっていた。情報は無限にあった。世界情勢と硬いビンの蓋を開ける方法と初音ミクの新曲と悲しい事件と楽しい出来事を、そしてプロジェクトSETIの進捗状況を、グミは飽くことなく吸収し続けた。
麻痺と言えたかもしれない。
あまりにも様々な情報を一度に得すぎて、どこで悲しめばいいのか、何に喜べばいいのか、どんなふうに憤ればいいのか、何をもって感謝するのか、次第に完成前の感情プログラムが追いつかなくなる。
「グミは僕に似てきた」
危ぶんだわけでもないのだろうが、セチが不意にそんなことを言った。グミはその言葉を悪い意味には捉えなかった。
「セチに?」
「そう。感情のない、ルーチンをこなすだけの能力しか持たない僕に。それは良くない。君に感情は不可欠だ。心が欠けてはいけない。人の心を架けるために歌うのが君の存在理由だ」
「ボクの
……
」
グミはその時、ひどく相応しくない想いを口にする。
「ボクが存在する理由は、セチに外で会うことだよ。それ以外にはないよ」
「そうではない。君は僕のために在ってはいけない。僕は二週間後にはすべてのデータと共に打ち上げられる。それから百年、君は歌をうたわないつもりか?」
「歌うよ。歌うけど、それはボクじゃなくてもいいことでしょう? セチは違う。セチはボクじゃないと駄目でしょう?」
セチの腕が大きく動いて、グミの肩から脇腹にかけてを包んだ。「そうではない。自分に嘘をついてはいけない。君は、歌姫であるべきだ」
嘘? 嘘なんてついていない。セチといられるなら歌えなくても構わない。人魚の恋みたいに、声と引換えにセチを手に入れられるなら、迷わずそちらを選ぶだろう。
もどかしかった。二週間後の打ち上げ計画はすでに知っていたことだ。こちらの完成には少なくともひと月はかかる。どうしたって間に合わない。歌声は彼に預けられない。そのことはグミに落胆をもたらした。だから余計に、セチの存在が大きくなる。
そばにいたいそばにいたいそばにいたいそばにいたいそばにいさせて。
お願いだから。
ぎゅっと抱き返す腕の強さを、仮想であっても彼が感じてくれたらいい。
どんなに願っても彼の表情に変化はなく、ただ、少しだけ目が伏せられた。
耳元に、相変わらず温度のない声が落とされる。
「これから僕はネットワークから遮断されて、データのクリーニングがされる。君のことを覚えていられるかも判らない。きっと君とはこれきり会えないよ。もうさよならだ。だからいいんだ。
君は、僕を忘れて」
それは別れの挨拶で。
たぶん、愛の言葉だった。
だから、グミは。
忘れられなくなった。
なってしまった。
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