黒竹
2022-05-30 21:36:40
24581文字
Public VOCALOID
 

@rem "I Love you"

【GUMI】【ボカロ家族】
言えない言葉の話。


「これで大丈夫だと思うよ」
 修理を終えた機体を差し出すと、レンは待ってましたとばかりに受け取って早速電源を入れた。
 先ほどと同じ操作をしてみる。機体はまったくふらつくことなく無事に右へ旋回した。
「バッチリじゃん! サンキュー!」
「あのサイズでこうなるってことは、想定値から誤差がこのくらい……設計からやり直しかな」
「あん?」
 はしゃぐレンを無視する形で考えこむグミに、レンが小さく首をかしげた。腹をたてるほど狭量ではないが、そこまで自分の世界に入られると気にはなる。
 ラジコンとコントローラを机に置いて隣に座り込む。グミはまだブツブツ言っている。
「なに? また新しいやつ作んの? 今度はどんなの?」
……ん、まだ作らないっていうか作れないけど。宇宙船」
「マジで! かっけー、スペースシャトル型か」
「型、じゃないよ。ホンモノ」
 さすがにレンもきょとんとした。宇宙にでも行くつもりかよ、とやや苦笑気味に言ってくる彼に、大真面目な顔で頷き返す。
……マジで?」
「マジで」
 レンの口から感嘆のような吐息が洩れた。こんな顔で冗談を言えるタイプではないと知っているし、先ほどの真剣な呟きからも彼女の本気を見て取ったのだろう。
 机に置いたラジコンに目をやり、もう一度、「はぁー……」半ば途方にくれた雰囲気をまとった嘆息を落とす。
「前にもそんなこと言ってたの聞いたけど、てっきり冗談だと思ってた」
「まあ、ボクはボーカロイドであって工業用ロボットでもスーパーコンピュータでもないし。でも別に歌うのが嫌いなわけじゃないよ。それはそれで、楽しい」
「ん、それ、判る。俺もグミの歌好きだから」
「ああごめん、ボク年下には興味ないんだ」
「う、た、が! 好きだっつっただけだよ! だいたい製造日で言えば俺のほうが年上だろ!」
「ぎゃんぎゃんうるさいなあ。もうちょっと落ち着いたら?」
 クールな横目で言われて、レンの肩が大きく落ちた。「女って疲れる……
 不意にドアがノックされた。「なにー?」レンが振り返りながら応じると開いたドアの向こうからリンとがくぽが現れた。
 なぜか心持ち頬が緊張しているリンと、苦笑いを口元に浮かべているがくぽを順繰りに見やったレンが、なんだよと片眉を上げる。
「二人がなかなか戻って来ぬゆえ、リン殿が心配されてな。ほれ、玩具で遊んでいただけでござろう?」
 ぽふんとリンの頭に手を置きながらがくぽが宥め口調でリンに語りかけている。なんのことだろうと思ったグミだが、そこはいくらローテンションで浮世離れしているといっても女の子、リンの表情からなんとなく察した。
 後頭部のあたりを軽くかきながら、
「大丈夫だよ、レンのことはなんとも思ってないから。あえて言えば弟分?」
「だから俺のほうが先に出来てんだって!」
……レン、グミに変なこととかしてないよね」
「するわけねーしっ」
 踏んだり蹴ったりだった。
「まあまあお二人とも。グミも今後はあらぬ誤解をまねくようなことは慎まねばな。セチも悲しまれるであろう?」
「えっ」
「えっ」
 リンとレンの声が見事にハモった。同調機能のせいもあるだろうが、それだけ二人にとって聞き捨てならない一言ががくぽの口から出てきたのだ。
 さっきまでの喧嘩風味を投げ捨てて、お年ごろな少年少女が眼前に迫ってくる。うわあ、とグミは口の中だけで小さく悲鳴を上げた。
「なに!? グミって好きな人いるの!?」
「セチってどこのボーロイドだよ? 聞いたことねーぞ」
 このクソ兄貴め、と視線で訴えたが、口を滑らせた本人にはまったく伝わらなかった。
 わきゃわきゃと詰め寄ってくる二人に閉口しつつ、逃げ場を探して周囲を見回すが、あいにくとドアを抜けるにはリンとレンが邪魔だ。ポジショニングを間違えたことを激しく後悔しながらため息をつく。
「ボーカロイドじゃないよ。人でもない」
 仕方なく、プロジェクトSETIについてかいつまんだ説明をした。二人はほーとかへーとか間の抜けた相槌を打ちながら聞き入り、グミが話し終えるとうんうん頷いた。
「そっか、グミが宇宙船作りたいのって、セチに会うためだったんだな」
「うわあぁ、ロマンチックだねぇ」
「じゃあ宇宙船作れるようになったら、俺らで滑走路作ろうぜ!」
「ロードローラーの出番だね!」
「いやキミらが持ってるのってラジコンじゃん……。そもそも宇宙船の打ち上げに滑走路とかいらないし……
 友達のためにひと肌脱ぐぜ! と息巻く二人に、グミはかすかな頭痛を覚えた。当人をほったらかしで盛り上がるその図はまさしく井戸端会議である。
 ほったらかしにされたのをいいことに、二人の応援に対してグミはどうとも答えなかった。
 リンとレンがひと肌脱いで、それでひと花咲かせられるのだったら、ほほ笑みと「ありがとう」くらいは返せたのかもしれないが。
 でも、今のグミでは、駄目だった。
 得られなかったグミには耐えられなくて、応えられなかった。