Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
黒竹
2022-05-30 21:36:40
24581文字
Public
VOCALOID
Clear cache
@rem "I Love you"
【GUMI】【ボカロ家族】
言えない言葉の話。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
その日の天気は薄曇りで、日差しがなかったので丁度いいと、新作の試運転のために河原へ出かけた。
今回は推進装置に改良を加えた新型だ。初めてのロケットタイプで計算では三百メートルほど飛び上がるはずである。宇宙まではまだまだ遠いけれど千里の道も一歩から。
準備を済ませて少し離れた位置に陣取る。手元の発射スイッチを押せばすぐさま飛び立つ状態である。
「おー? グミちゃん、なにしてんのー?」
後方からいきなり声をかけられてタイミングがずれた。スイッチから指を離して振り返ると、ミクを始めとしてリンとレン、ルカも揃ってこちらを見つめていた。
「ロケットを飛ばすんだよ。そっちこそみんなでお出かけ?」
「リンちゃんがカラオケ行きたいって言うから、せっかくだからみんなで行こうってことになったの」
「カラオケね
……
」あれだけ仕事で歌っているのに、まだ歌うのかとちょっと呆れた。
「ねえグミー、ちょっと見てていい?」
リンの無邪気なお願いにグミが頷く。
グミの後ろに四人が控えて、興味深そうにロケットを眺めていた。レンだけは微妙な表情をしていたが、彼はなにも言わなかったし、グミもあえてあの日のことを蒸し返したりはしなかった。
左手にスイッチ、右手に遠隔操作用コントローラを構えて、カウントダウンをはじめる。
「さん、にぃ、いち
……
」
ポン、と間の抜けた音を発しながら、ロケットが射出された。「おー!」ミクとリンが思わず声を上げる。ロケットの調子はまずまず、コントローラからの指示もちゃんと効いている。燃料を蓄えた下半分を切り離してさらに上昇させる。
計算とほぼ変わらない高さまで飛んで、やがて失速し始めた。薄曇りの空に小さく見えていたロケットが、次第に高度を下げて視認しやすくなってくる。
ちゃぽん、と、最終的にロケットは川に落ちた。そのまま流されていく。
「あー! グミちゃん、早くあれ回収しないと! 流されちゃうよ!」
「いいんだよ。あれはほとんど空っぽで、受信機と簡単な回路しか仕込んでないから。大事なのは発射台の方だし」
「そうなの? でももったいないなー。せっかく作ったのに」
いまいち判り合えない二人だった。まあ確かに、ミクからして見ればまさにロケットという感じの先端部の方が見た目にも『らしい』し、重要そうに思えるのかもしれない。
ロケットが流されて沈むまで見送ってから、ミクがこちらに視線を移してきた。
「いつか、本物が作れるといいね」
グミがかすかに目を瞠る。
彼女はプロジェクトSETIの顛末を知っているはずだ。レンが彼女に聞いたと言っていたから間違いない。
それなのにそんなことを言うのか。どんなに高く飛べるロケットを作ったところで、届くはずなどないと知っているのに。
諦めろと、セチのように言ってくれないのか。
「グミちゃんが宇宙で歌ったら、わたしはここで拍手を送るよ」
「
……
なにそれ」
とぼけているのか天然なのか読み取りにくい表情でミクが言うので、グミもなんだか気が抜けてしまって、しょうがないから力なく笑った。
「目的が一つだけじゃきゃいけないなんてことないでしょ? グミちゃんが宇宙船を作る目的の中に、『わたしに歌を聴かせるため』ってのも入れてあげてよ」
「ミクに?」
「そう。百年くらいなら待ってあげる」
「上からだね」
「ま、いいよ」しょうもない目的だけれど、しょうもないから大して重くない。だからグミは簡単にオーケーを出した。
宇宙船を作ることに目的などなかった。過程がすなわち目的であって、完成したあとのことなんて考えたことがなかった。
くだらない意地でありくだらない自慰だったので、目的もまた、くだらないくらいで丁度いいのかもしれない。
銀河の中心で、電子の歌姫に歌を聴かせるなんて、これ以上くだらない目的もそうそうない。
「百年くらいはセチのことを忘れなくていいよ」
「
…………
うん」
「それくらいなら、待っててあげる」
「
…………
上からだし」
「わたしグミちゃんの先輩だもん。
……
それまで、セチの思い出とかいくらでも話してくれていいよ」
一人で薄れていく思い出に抗うより、誰かと共有していった方が忘れずに済むでしょう?
そう、彼女は言う。
鏡の向こうにいる彼女は、セチの魂を否定しない。
唐突に背中側へ引っ張られた。後方からリンが飛びかかってきたのである。「わわっ」危うく転びかけるのをなんとか回避する。
「グミも一緒にカラオケ行こうよ。デュエットしようぜ!」
「あ、いいなーわたしもー」
「ちょっと、なに勝手に
……
」
反射的に断りかけたが不意に口をつぐむ。
「リン、ミクも。グミちゃんが困っているじゃない。あまり無理を言っては駄目よ」
ルカが間に入ってきてくれたけれど、グミはそれに首を振った。
「いいよ。ボクも行く」
「いいの?」
「うん。カラオケとか、あんまり行ったことないし。邪魔じゃなければ一緒に行きたい」
「邪魔なわけないじゃん!」リンがおおらかに笑って喜んだ。「ね、レン!」「ああ。一緒に行こうぜ」まだまだ微妙な顔のままだったが、レンも肩をすくめながら頷いた。
百年後くらいに、宇宙船を作ろうと思う。
それまでの百年は、思い出を語り合いながら、歌を歌っていようと、思った。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
広告非表示プランのご案内