彼方の作品倉庫
2026-05-27 15:03:56
27723文字
Public 利こま
 

【長めのサンプル】二六時中、好日也。-ひだまり-

書き下ろしの話について、長めのサンプルです。
1話だけですが、全部で10ページあります。


「え。利吉君、小松田君と付き合ってないの!?」
「早速フラグ回収するのやめていただけませ!?」
 そういうお約束のギャグはしなくていいんですよ土井先生ぇ!! こっちが訊きたいのは退職理由! 小松田君との仲はどーでもいいでしょうに!
「あんな恋する青春男子の画を、忍者にあるまじき勢いで披露していたのに……?」
「してませんよそんなド三流の表情管理!! それ以前に、そのような感情を彼に抱いたこともありません!」
「え〜? 本当にぃ?」
 いつもの調子で職員室へ赴いたのは間違いだった。一応の確認として、乱太郎達との会話内容を伝えたのだが……ちょうどいいアテを供されたような、面白そうなオモチャを拾ったような。そんな謎の期待混じりの視線を向けられてしまったのだ。
 それに割とすぐ気づいたものの、既に手遅れ。彼の本気半分、驚き半分で上がった声に内心で「しまった」と後悔した。案の定、こうやって盛大に揶揄されるハメになってしまったのである。
……暇なんですか、この学園の人間は」
「暇ではないけど、刺激には飢えてるかな?」
「だからって、噂話ゴシップに食いつくのも忍者としてどうなんです?」
「そこから真相を追い求めるのも忍者だよ。今、君に話を聞きたい人間はたくさんいるだろうねぇ」
 自分もその一人だ。そう言わんばかりに、土井先生はにこやかな……いや、にやにやとした表情を浮かべている。いい感じに正論で打ち返さないでほしい。こちらには対抗策がないのだ。ただ集中砲火を食らうだけの的になど御免被りたい。
「ちなみにその噂の出どころは山田先生、広まった原因は学園長先生と五年生だよ」
「はぁッ!?」
 だが自分は、全てを受け流せるほど人間ができている訳でもない。予想外の発言は跳弾となり、見事に自分の脳天を貫いた。
 騒動トラブルの発端になりがちな学園長先生はまだいい。生徒が関わっている可能性も考えていたので、それも許容範囲だ。しかし、父が原因などと誰が予想できるだろうか。しかも内容は、息子の恋愛沙汰(事実無根)について。もうこれ以上、頭痛の種を増やさないでほしい……
「というか、学級委員長委員会かな」
「何がどうしてそうなったんですか……
 本日二回目の発言である。これが、未知の物事に対する好奇心から発せられた言葉なら問題ない。こんな自身に降りかかる意味不明な災厄の究明になどに使いたくなかった。
 まるで原因不明・治療法なしな難病にかかり、行き場のない嘆きを医者へぶつけているような気分だ。せめて対症療法だけでもご指導ください……
「実は……
 かくかく――


   ◆◆◇ ◆◆◆◆ ◆◇◇◆


『全く、利吉の奴め……来るたびに言いおってからに』
『うん? 山田先生、何か悩み事でも?』
『学園長先生! いや、大したことではないんです。息子が相変わらず「家に帰れ」としつこく言うものでして……
『相変わらず仲がよい家族じゃのぅ。きっと口酸っぱく言うのも、一人待つ母君を心配してのことではないか?』
『まぁ……わかってはいるんですけどね。でも利吉も利吉です。自分も多忙でロクに帰ってないくせに、私にばかり言うのですから』
『確かに彼は最近、この周辺の依頼をよく受けているそうじゃな。学園ここを訪れる頻度も多いようじゃし。何か理由でもあるのかのう?』
『うーん……皆目、見当もつきませんね。小松田君を叱りつける大声はよく耳にしますが』
『確かに。いくら客人と事務員とはいえ、水と油以上に合わないはずの二人が何をそんな頻繁に……
『歳が近い為、気が合うところでもあるのでしょう。犬猿の仲、とまで反発しあっている訳ではありませんから。まぁ、実際は小松田君が利吉に一方的に懐きまくっているのですが――
…………
……学園長先生? もしもし?』
『っ! おぉ、すまんすまん。ちょっと考え事をしてただけじゃ』
『そうですか? ……何にしろ、しつこい帰宅の催促を控えてもらいたいものです。いい人でも見つかれば、そちらに意識が向くと思うのですが。ついでに、誰かを待たせてしまう立場と気持ちも理解するはず……って、すみません。まだその相手もいないのに、気が逸りました。戯言として流してください』
『ふむ。……いや、意外と望み薄ではないやもしれぬぞ』
『はい?』
『まぁ気にするでない。彼は彼なりに頑張っておるようじゃし。我々は口を出さず、そっと若者を見守ろうではないか』
……それ、私はしばらく催促に耐えろということで?』
『現状では仕方なかろう。ま、一度くらい帰宅すれば少しは収まるかもしれんがのう。それに仕事を理由にするのは、そろそろ苦しいかもしれぬぞ?』
『と、言いますと?』
『偶にではあるものの、土井先生はきちんと長屋自宅へ帰っておるではないか。もちろん、帰宅にかかる時間に違いはある。それでも『同じ一年は組の担任である土井先生は帰れているのに、なぜ父上山田先生……』という考えに及ぶのも、時間の問題ではないかのう』
『そ、それは……
『補習等に追われているのは事実であり、理由として使うにも楽ではある。――が、そればかりでは痛いところを突かれる可能性がある。別の言い訳を考えるか、潔く帰宅するか。考えておかねばならないであろうな』
……善処します』

 ――――――――――――――――――――

『そうかそうか……。それにしても、小松田君とはのう……
『学園長先生、どうかされたんですか?』
『また何か思いつきでも?』
『おぉ、ちょうどよいところに。――鉢屋三郎、尾浜勘右衛門。お前達に忍務を与える』
『ッ!』
『忍務、ですか?』
『そうじゃ。とても重大な忍務ゆえ、標的には決して悟られてはならぬ』
『それほどまでの忍務とは一体……?』
『まぁそう肩肘を張らなくともよい。寧ろ自然体で調べた方が気取られんじゃろう。委員会活動として、一年の二人にも協力してもらおうかのう』
『調査ですか?』
『その通りじゃ。お前達には――

――山田利吉と小松田秀作の関係を探ってきてもらいたい』