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彼方の作品倉庫
2026-05-27 15:03:56
27723文字
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利こま
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【長めのサンプル】二六時中、好日也。-ひだまり-
書き下ろしの話について、長めのサンプルです。
1話だけですが、全部で10ページあります。
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10
その情報が私の耳に入ったのは、とある昼下がり。忍術学園で乱太郎、きり丸、しんべヱに、いつものごとく絡まれ
……
げふん、世間話をしている時だった。
「山田先生、今日はいらっしゃるはずだったんですけど
……
急に予定が変更になったらしくて」
「夕方まで六年生の演習に付きっきりみたいッスよ」
「さっき、食堂のおばちゃんから差し入れのおにぎりを受け取っているのを見ました!」
「そ、そうなんだ
……
。教えてくれてありがとう
……
」
またしても父に逃げられた。忍者としての勘でも働くのか、こういう時はタイミングがよすぎて困る。
どうせ面向かって「帰宅しろ」と口酸っぱく言われるのが嫌だったのだろう。引率を引き受けたのも、それが原因に違いない。
両肩を落としながらも、私は職員長屋へと向かうことにした。
主
あるじ
はいないが、急遽留守を預かることになった洗濯物が取り残されているはずだ。早く引き取ってやらねば。
「あの、本当に予定外だったみたいなんです。準備に向かうのもかなり慌てていて。だから、あまり怒ったりは
……
」
その時の様子を見ていたであろう乱太郎から
補足説明
フォロー
が入る。そう、こればかりは仕方ないことだ。そのはずである。自分とてそう思いたい。
「どーだか。半分くらいは、これ幸いにと引き受けたんじゃないかな」
しかし、今まで積み重なった実例が異を唱えてくる。父も、「『いい言い訳ができた』などと喜ぶ気持ちは全くなかった」とは言い切れないに違いない。
そろそろ私が訪れる頃合いだと、父なら見計らうこともできただろう。なんで家族間で謎の心理戦を繰り広げなければいけないんだか、全く
……
。
「そういえば、今日は小松田君がいないようだけど
……
何か用事でも?」
来訪一番、いつも入門票へのサインを求めてくる事務員の姿が今日はない。門の前で掃除をしていた乱太郎達が、その代わりを務めていたが
……
。
「あれ? 利吉さん、ご存知ないんですか?」
「何を?」
「まだ噂なんですけど。実は小松田さん
――
」
「おい待てって乱太郎」
乱太郎の言葉の続きを、きり丸が制する。うん
……
? 小松田君が、何だって?
「何、きり丸? どうしたの?」
「俺達はたまごと言えど忍者。そう簡単に情報を渡しちゃあ駄目だろ」
「きり丸がまともなこと言ってる
……
!」
さり気にしんべヱが酷いことを口にしたが、本人は気にしてないようだ。かなり真剣な表情のまま、私の顔を見上げてくる。
しんべヱの言葉に乗る訳ではないが、確かに普段のお気楽っぷりとはかけ離れた様子である。こんな世間話程度の会話ですら、プロを意識するだなんて。それが芽生えるきっかけが授業にあったのかもしれない。先生方の教育も、無駄ではなかったようで
――
。
「
――
無料
タダ
で教えるなんて勿体ないこと、やすやすと見過ごせるか!!」
「あ、そっちが本音?」
「きりちゃん、抜け目ない
……
」
ここですっ転ばなかった自分を褒めてほしい。そっちか! 感心しかけた自分が馬鹿だった! いや判断は間違ってないけれど、方向性がそうじゃなさすぎる!
「と、いうことでぇ。利吉さん、この情報にいくら出します?」
「
プロ忍者
わたし
相手に交渉とは、随分と大きく出たものだね」
とはいえ、ここで成長を妨げることこそ勿体ない。可能性の芽は摘み取るより、育ててこそである。
彼のお望み通り、私は情報料として出せる金額を提示した。しかし、きり丸は一瞬にして不満げな表情を浮かべる。おいおい。忍者たるもの、相手に本心を悟られるような真似をしちゃ駄目だろ。
「ちょーっと少なくないスかぁ
……
? あ、でも前金ってならいいですよ」
「前金?」
「俺達も知ってるのは、あくまで噂レベルなんですよ。だからこの後できちんと調べて、情報が確定したら上乗せ
……
ってので、いかがッスか?」
「なるほど、そう来たか。だったら
……
」
「だったら?」
目を銭にして輝かせるきり丸に、密かに溜息をつく。眼前の儲け話に飛びつくとは。商人としては損する典型例だし、忍者としては命取りになりかねない。ここで一度、現実を見せておくか。
「
――
払わない」
「えぇッ!? な、なんで!?」
「私を誰だと思ってるんだ? 学園内で流行ってる噂くらい、
プロ忍者
じぶん
ならすぐに調べられるし」
「あ
……
!」
「それに君達も真相がわかってないというのなら
……
私が調べて得た情報を、後で教えて
あげて
もいいよ」
「もらう〜!!」
「もちろん、依頼料と情報料は取るけど」
「お、鬼ーッ!!」
「それがプロだよ。見積もりが甘かったね」
私を利用しようとしたのが運の尽きである。考えは悪くないが
……
このような簡単な手、相手が上級生にでもなれば通用しなくなるだろう。
厳しさに打ちのめされて、それを乗り越えて成長するのが人間である。いい機会に恵まれてよかったな。
「うぅっ
……
」
「きり丸、諦めよう。相手が悪いよ」
「俺の臨時収入がぁ〜
……
」
商人の息子であるしんべヱは、多少なりとも相手を見る目が他人より養われているだろう。その彼に言われた為か、ドケチの塊であるきり丸も断念せざるを得ないと考えたようである。膝をついて項垂れる彼は、今にも血の涙を流しそうな勢いで悔しがっている。
……
どうしてこっちが罪悪感を持たなければいけないんだ。私は悪くないぞ。目先の欲に眩んだきり丸の自業自得だ。
それはともかくとして。今は小松田君についての噂が気になるところである。この不在と関係があるようだが
……
。
「それで? その噂ってのは?」
「あぁ、はい。それが
……
」
言い淀む乱太郎の様子から、あれこれ勝手な想像を繰り広げる。派手に粗相をやらかして謹慎になった? 実家のややこしい案件に巻き込まれて連れ戻された? はたまた、変な方向へ一念発起してどこかに行ったとか? 何にしろ、ロクなことではないだろう。学園で起きるトラブルの原因を三割ほど担っているのだから。
元服も済んでいる歳のくせに、六年生より落ち着きがないのもどうなんだか。よく彼を雇ったな
学園
ここ
も。いや、ここくらいしか雇ってくれなかったのだろうけど。全く、どうしようもない問題児だな
――
。
「
――
小松田さん、ここを辞めるかもしれないんです」
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