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彼方の作品倉庫
2026-05-27 15:03:56
27723文字
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利こま
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【長めのサンプル】二六時中、好日也。-ひだまり-
書き下ろしの話について、長めのサンプルです。
1話だけですが、全部で10ページあります。
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「
…………………………
は?」
彼の退職。それは、私が予想もしなかった回答だった。
……
辞める? 小松田君が、ここを?
きり丸に心の内を見せるな、だなんて偉そうなことを言えない。虚を突かれたような声と表情が、自分の意識より早くに転がり落ちた。しかし、どうしてかそれを反省する余裕がない。乱太郎の言葉が、脳内で反響するばかりだった。
「利吉さん、やっぱり知らなかったんですか?」
「あ、あぁ
……
。
……
うん」
小松田君に最後に会ったのはいつだ? 一ヶ月ほど前? その時の様子は? いや、変なところはなかったはずだ。いつものように、出門票のサインを求めてきて。それに応えて。普通に見送られて。それで
……
それ以外は、何も。
この一ヶ月の間に何かがあった? それならまだ説明がつく。しかしその間も、手紙等で学園と連絡のやり取りはしていた。だが、そんな情報は一切入ってこなかった。どうして? 忍務に不要だからと、情報が遮断されていた? いや。些事はともかく、それ以外の出来事は利害の影響がない限り報告するよう取り決めていた。小松田君の退職は大したことではないという認識だったのか? そんなまさか。彼は学園への侵入を企てる者に対しての最強の防衛線だ。いなくなれば後任を探す必要もある。
……
約一名、事務員の座を狙っている人間はいるが、それは一旦横に置いておいて。適任者の心当たりがないか、自分にも話が回ってくるはずである。
なのに、なぜ
……
。
「利吉さん、本当に知らなかったんですね
……
」
「じゃあ、やっぱり噂は嘘なんじゃない?」
「なんだぁ。デマじゃあ儲けにもならねーじゃん」
「
……
ん? なぜそういう結論になるんだ?」
私が噂の存在を認知していることが、判断基準になるはずがない。常日頃から学園にいる先生方ならともかく、自分は部外者だ。連絡を取り合っていても、情報の取り零しは当然のように発生する。
……
現にこの噂が、そうだったように。
しかもこの三人は、その連絡のやり取りをしていることすら知らないだろう。なのに、そう決めつける彼らの考えが理解できない。どういうことなんだ
……
?
謎の発言に首を捻ると、彼らも頭上に疑問符を浮かべて返してきた。いや、訊きたいのはこちらなんだが。
「だって付き合っているのでは?」
「は?」
「小松田さんと、利吉さん」
…………
乱太郎の無邪気な声は幻聴と思いたかったが、そう簡単には行かないようだ。一度深呼吸して、乱れかけた心を鎮める。鎮めようとした。なんとか試みた。やや天を仰ぎ、それはもう深く息を吸い込んだ。
………………
。
「恋人同士なら、そういう大切な話は真っ先にされているはずなので
――
」
「誰と誰が付き合ってるって!? ふざけるな、そんな訳ないだろッ!!」
無理だった。普通に考えて不可能である。
……
誰があのヘッポコなんかと恋仲だって!? 冗談も休み休みにしろ!
「えー? でも少なくとも好きですよね?」
「何がどうしてそうなる!? その噂こそ出どころはどこだ!?」
私が小松田君に、好意を?
……
ありえない。天地神明に誓って全くない一切ない絶ッッッ対にありえない!
まぁ彼は人がいい性格なので、好感度は高い方かもしれない。好ましく思う人もそれなりにいるだろう。それでも
――
私が彼に、その分類の気持ちを抱くことはない。ないったらない!!
寧ろ、私が覚えている感情は
……
。
「どこと訊かれましても
……
。ですけど、みんなそうだと思ってますよ」
「何を見ればそうなる
…………
って、は? え? み、みんな
……
って
……
?」
「
学園
ここ
の生徒はもちろん、先生方も含めて全員です。あ、
当事者
小松田さん
はこの噂知りませんけど」
教職員も含めて、全員。つまり、まさか
…………
父上、も
…………
?
引き攣った口角が戻らない。もう表情を取り繕うどころの話ではない。考え得る最悪の状況である。消えたい。逃げたい。いっそ穴に埋まりたい。見事に埋葬されたい。
これからどんな顔して父に会えと? もう一種の拷問では? 精神ダメージがエグいくらい入るぞこれ。
顔を合わせる回数も少なく、会えばあまりのヘッポコぶりに怒鳴ってばかり。そんな
小松田君
相手
へ懸想する理由が? ある? どこに?
……
いやない!! 何度考えても答えは同じだ! 平和ボケした頭で暇潰しの
噂
ガセ
を流布するな! 噂の火消しは大変なんだぞ!!
……
いや、私達の関係どうこうの噂は重要ではない。それよりも
小松田君の退職
先程の噂
について、真相を問いただす必要がある。負けるな自分。横道に逸れるな。そうでないと一生終わらないぞこの話。
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