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彼方の作品倉庫
2026-05-27 15:03:56
27723文字
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利こま
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【長めのサンプル】二六時中、好日也。-ひだまり-
書き下ろしの話について、長めのサンプルです。
1話だけですが、全部で10ページあります。
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――
……
意識が浮上する。随分と長い、夢を見ていたようだ。
いや、夢ではなく記憶の回想か。人は死ぬ間際に過去の出来事を思い返すと聞く。私が見たのも、それだったのかもしれない。
刀による一撃を受けて、崖下へ落ちたところまでは覚えている。しばらく意識があったことも、そこでいろいろと思考を巡らせたことも。
……
小松田君のことを、想っていると、気づいたことも。
(
…………
今更だな)
遅すぎて、もうどうにもならない。彼を守ると決めた矢先に、自分は
こんなところ
へ来てしまったのだから。
身体を起こして立ち上がり、周囲を確認する。墨を溶かし込んだような薄暗い空。見渡す限りの荒涼とした岩場。すぐ近くには大きな川が見える。辺りの空気は生温くて重苦しい。微かにカビと金臭さ、生臭さを帯びた風に清涼感はなく、纏わりつくような熱気に不快感を覚える。そしてその風は、遠くから絶え間なく響く悲鳴と呻き声を運んでいた。
(どう見てもあの世
……
いや、地獄か)
死んだのか、と自分でも驚くほどすんなり納得した。深手を負わされて崖から落ちれば、誰だって迎える結末は同じだ。自分も例外ではなかった
……
ただそれだけの話である。あの満身創痍で、ほんの少しでも生きていたことすら奇跡だろう。
……
まぁ、結局死んだのだけれど。
できれば生き返りたいが、その手段が思いつかない。このまま目の前の
……
おそらく三途の川を渡ってしまうと、二度と現世に戻れないだろう。その前に何とかして足掻きたいところだが
……
難しいか。
(
……
人間ここまで来ると、一周回って冷静になれるんだな)
小松田君を助けたい。忍術学園に、奴らの計画を知らせなければいけない。両親より先に死ぬ親不孝者になるのも避けたい。今抱えている他の依頼もこなさなければ。他にも、たくさん。
己を急かす要因は多種多様だ。なのに心は妙に落ち着いてしまっている。一度死を受け入れてしまった故に、無力感と諦観を生んでしまったのだろう。
どうにかしたい。でも、どうにもできない。
彼岸
ここ
に来た以上、もうどうしようもないのだ。
(
……
現世に
縁
よすが
でもあれば、帰ることができたのだろうか)
蘇ることはできなくとも、幽霊となって化けて出るか、それとも夢枕に立つか。強い心残りはあるものの、それが叶うほどのモノなのか
……
。だがその方法がわからない以上、いくら考えても栓なきことである。
ここで答えの出ない自問自答を繰り返して、時間を無意味に浪費するか。それともさっさと目の前に広がる川を渡るか。もう二つに一つしか選ぶ道はない。
「さて、どうするべきか
……
」
そう言いながらも川を渡ろうとしないのは、心残りが足を引き止めているからだった。ここから先へ進んでしまうと、彼の
……
小松田君の面影が、全て消えてしまうような気がして。せめてそれだけでも抱いて行きたいのに、きっと許されはしないのだろうと思った。
全てを捨てて進むか。捨てるのを惜しんで無駄に留まるか。
……
自分の中には、明白すぎるくらいの答えしかなかった。
「本当に馬鹿だなぁ、私も
……
」
人にはあれだけ「叶わない夢は諦めろ、無駄だ」だと言っておきながら。その“無駄”にみっともなく縋ってばかりいるのは自分じゃないか。あまりにも未練が多すぎて笑える程だ。
こんなことなら、最初から見栄も意地も全部捨てればよかった。もっと早く気づいていれば、こんな無様な最期を迎えることも、自分の行いに後悔することも、彼を
……
小松田君を傷つけることも、なかったのに。
『わ、かりました
……
ご迷惑、でしたよねぇ
……
。い、今まですみませんでしたぁ』
今思い出せるのは、別れ際のあの震える声と、今にも泣きそうな笑顔だけ。もっとあるだろう? あんなにもたくさん、あたたかな挨拶も柔らかな微笑みも向けられてきたのに。何も、浮かばないなんて。
「
…………
なんで
……
」
なんで今になって、私は
……
。
握った拳の掌に爪が食い込む。己の不甲斐なさ、愚かしさ、情けなさ。それらに対する怒りや悲しみが、心臓と肺に泥のような濁りを溢れさせる。重くて苦しくて、呼吸ひとつすらままならない。
きっとこれは罰だ。自分に
確
しか
と向き合わず、目を逸らして逃げてばかりだった咎に対する報いなのだろう。だからこんな後悔ばかりが押し寄せる羽目になってしまったのだ。
暗澹とした感情を取り払いたくて、でもできなくて。押し潰されるように膝をついて蹲る。何も成せない、何ひとつ取り返せない悔しさのあまり、目の端から涙が零れかける。嗚咽を漏らすまいと、必死に唇を噛んで堪えようとする。
なんて惨めな姿だ。なんて、無様な
……
。
(サンプルここまで、続きは本編にて)
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